雪奈と春香
――あたしは弘前駅を出発して、大鰐町へ向かった。
目指す先は、大鰐町にあるスキー場。大鰐町は弘前市の隣にあるんだ。
大鰐駅に着いて、そこで春香ちゃんと合流したの。そこからはタクシーで約5分。1時間もせずに、目的地に到着したよ。
あたしは自分のスキーとか持ってないから、レンタルしようと思ってるのだけど……。
[春香]
「お金、大丈夫? レンタルって結構高いよ?」
[雪奈]
「お年玉があるから、大丈夫だよ♪」
[春香]
「そっか」
[雪奈]
「それに今日は、あたしの誕生日なんだぁ! だから、誕生日プレゼントの代わりに、お小遣いもらっちゃったよ♪」
[春香]
「そうなんだ。おめでとう。雪奈ちゃん」
優しく微笑んで、祝福してくれた!
[雪奈]
「うん! ありがとう♪」
そう。あたしは1月生まれなのです。そして何と今日は誕生日! 今日から晴れて14歳なのだ♪
またひとつ、大人に一歩近づいたよ。早く大人になりたいんだぁ。
[春香]
「絆君も来れれば、良かったのにね。せっかく雪奈ちゃんの誕生日なのに」
[雪奈]
「ハン兄は家で受験勉強中だよ。頑張って誘ってみたんだけどね。お母さんに止められちゃったから……」
[春香]
「そっか。残念だなぁ~シクシク」
[雪奈]
「あはは……」
春香ちゃん……それって、残念だと思ってないよね……。
――レンタルと着替えを済ませ、リフト券を購入。
うっ、確かに料金、高いかも。中学生には辛いよ。
だけどリフト券は、春香ちゃんが、あたしの分まで払ってくれたんだ。誕生日のお祝いってことでね。
春香ちゃんって、ホントに優しいなぁ。ハン兄にはもったいない位だよ♪
一通りの準備を整えて、ゲレンデへレッツゴー!
……したのは良いのだけど、スキー板を履くなり、いきなり転倒しちゃって。
その後も教えてもらうんだけど、なかなか上手くできないし。ちょっと疲れてきちゃった。
だけど春香ちゃんは、そんなあたしにも、ずっと付き合ってくれてる。
だから弱音なんか、絶対に吐かない。頑張れ、あたし!
そんなこんなで、あたしはボーゲンの形で、なんとか滑れるように。
それであっという間に午前は終了。お昼を食堂で食べてから、いよいよリフトに乗ります。
[雪奈]
「お腹空いたよ~。ご飯ご飯♪」
[春香]
「ふふっ、何食べよっか?」
[雪奈]
「たこ焼き!……は、ないか~。さすがに」
[春香]
「雪奈ちゃんて、たこ焼きが好きなの?」
[雪奈]
「うん。好きだよ! お祭りの露店で買うなら、絶対に、たこ焼きだね!」
[春香]
「そっかぁ」
[雪奈]
「春香ちゃんの好きな食べ物って何?」
[春香]
「わたしはね」
春香ちゃんは、ちょっと考えて。
[春香]
「……ないよ。そんなの」
[雪奈]
「えっ?」
[春香]
「わたしは捨て子だったから。食べる物なんて何も無かったの……」
[雪奈]
「……」
[春香]
「何でも食べるしかなかったの。かわいそうな女の子なのぉ~シクシク」
[雪奈]
「さて、食券買わなくっちゃ♪」
[春香]
「……」
[雪奈]
「ラーメンでいいかな?」
[春香]
「雪奈ちゃん、ひどいよぉ~シクシク」
[雪奈]
「え、何か言った?」
[春香]
「……雪奈ちゃんって、ちょっと冷たい……」
いやぁ、スルーしてあげるのも、愛だと思うんだよね♪
そうして、あたしと春香ちゃんは、お昼を食べながら、色々な話をしたの。
[雪奈]
「そういえばさ、春香ちゃんの名前って、良いよね♪」
[春香]
「えっ?」
[雪奈]
「春の香りって、暖かいイメージでさ」
[春香]
「……」
[雪奈]
「それで名前負けしてないっていうか。そのままな感じだしっ!」
[春香]
「わたしは、雪奈ちゃんの名前も良いと思うよ」
[雪奈]
「え~、そうかな~? "雪"って冷たいイメージだから、あたしに合わない気がするんだけどなっ!」
[春香]
「……ピッタリじゃない」
[雪奈]
「えっ?」
[春香]
「ううん、なんでもないの! あはは……!」
[雪奈]
「……?」
[春香]
「わたしは、雪って、暖かいものだと思うよ」
[雪奈]
「ほえ?」
[春香]
「ほら、ひらひら舞う雪なんかは、人を暖かい気持ちに、してくれるじゃない」
[雪奈]
「うーん。なるほどぉ?」
[春香]
「それにね、雪が降らないと、春はやって来ないから……」
その瞬間、春香ちゃんは、悲しそうな表情を浮かべたような。
[雪奈]
「……?」
[春香]
「だからね、わたしは雪が好きだよ」
[雪奈]
「あ、うん。そっかぁ♪」
あたしの名前が褒められたようで、嬉しかったよ。
……それからも色々な話をして、お昼の時間は終わりました。
午後はリフトに乗って、上から少しずつ滑り降りたんだけど。
何度も転びそうになってね~。もう大変でした!
春香ちゃんは、鮮やかな滑りで、颯爽と降りちゃうし。
あたし、気付いたんだけどね。春香ちゃんって、物腰は柔らかくて、おしとやか。それなのに運動も得意みたい。スタイルは均整がとれてるし。将来は美人確定でしょ!
……ま、あたしには敵わないだろうけどねっ♪
って、気が付いたらもう、春香ちゃんの姿が全く見えない!? あたしを置いて、先に降りないでよ~!
―――
――
-
あっという間に時間は過ぎて、帰る時間に。
ここから先は、大鰐駅から弘前駅まで、電車の中で交わした会話です。
[雪奈]
「そういえば、春香ちゃんも3年だよね。受験勉強は大丈夫なの? 今更だけど」
[春香]
「う~ん。1日だけなら大丈夫だよぉ」
[雪奈]
「そっか。そうだよね。今の時期に必死に勉強するハン兄が、だらしないだけだよねぇ~」
[春香]
「雪奈ちゃん、やっぱり絆君にも来てほしかったんだね」
[雪奈]
「え、う~ん。どうかな~?……エヘヘ」
その問いの答えは、ちょっと複雑なの。だって、どうしても2人で話したいことがあるから。
[春香]
「わたしも、絆君に来てほしかったのにぃ~シクシク」
[雪奈]
「……」
[春香]
「……雪奈ちゃん、何か言ってよぉ~」
春香ちゃんの演技っぽいウソ泣きは、ともかく。あたしは春香ちゃんに、聞いておきたいことが、あるんだ。
[雪奈]
「ねぇ、春香ちゃん」
[春香]
「はい?」
[雪奈]
「春香ちゃんは、ハン兄のこと、どう想っているの?」
[春香]
「えっ!? えっとぉ~」
[雪奈]
「……」
[春香]
「あ、えっと。もちろん、良い友達だと思ってるよ。でも時々、泣かされちゃうんだぁ~シクシク」
[雪奈]
「お願い。真面目に答えて」
[春香]
「! 雪奈ちゃん……」
あたしは、じっと春香ちゃんの目を見つめている。春香ちゃんは困った顔をしてるけど、しばらく迷うように目を泳がせて……。
[春香]
「好きだよ」
[雪奈]
「あ……」
少し恥ずかしそうに、頬を綺麗な桜色に染めて、微笑みながら、そう答えてくれたんだ。
きっと本音であろう、その答えは、あたしの望んでいたものでした。あたしは思わず、春香ちゃんの手を握り締めちゃって。
[雪奈]
「良かった! ハン兄も、春香ちゃんの事が大好きなんだ! あたし、全力で応援するよ!……ね♪」
[春香]
「う、うん」
春香ちゃんは、キョトンとした表情をしているけれど。あたしはお構いなし。
だって、あたしはハン兄も春香ちゃんも、大好きなんだから。これはもう、ふたりを応援するしかないっしょ!
[雪奈]
「あ、もう弘前に着いちゃった。それじゃあ、今日は楽しかったよ! またね、春香ちゃん♪」
[春香]
「うん。またね。雪奈ちゃん」
春香ちゃんと別れて、駅から帰りの道へ。その道中、あたしはルンルン気分で、スキップをしながら帰りました。
空を見上げると、夕焼け空に、雪が浮かび、ひらひらと舞い降りて。あたしの頬に当たる。
頬は冷たかったのだれど、気持ちは暖かくなったんだ。その時に、春香ちゃんの気持ちが、分かった気がしたよ。
そして家へと到着。
母に帰宅を告げて、手荷物を、自分の部屋に置くため2階へ。
すると、そこに居たのは、机に座って勉強中のハン兄。
[雪奈]
「ハン兄、ただいま♪」
[絆]
「あぁ、おかえり」
[雪奈]
「ずっと、勉強してたの~?」
[絆]
「そんなわけねーだろ? 休憩しながらだよ」
[雪奈]
「ふ~ん。春香ちゃん、可愛くて、カッコ良かったよぉ♪」
[絆]
「あっそ」
ハン兄のそっけない態度に、ちょっとカチンときた。
[雪奈]
「春香ちゃんも、ハン兄に会いたがってたよ!? すごく残念がってたし!」
[絆]
「うるさいっ」
[雪奈]
「……っ!」
うるさいって、何よぉ! 他に何か言うことないの!?……って言いかけて。よく見ると、ハン兄は、ぶすーっとした表情。
あ、これって、もしかして。
[雪奈]
「もしかして、ハン兄、拗ねてる?」
[絆]
「! 拗ねてねーよ!」
あ、間違いない♪
[雪奈]
「拗ねるな、拗ねるな。受験が終わったら、春香ちゃんには、また会えるよ!……ニシシ♪」
あたしは、ハン兄の頭を、ナデナデしてあげた!
[絆]
「う、うるせぇよ。ほっとけ」
すると、ハン兄は少し涙ぐんでるような……? ホント分かりやすくて、面白いよね♪
[雪奈]
「それじゃあ、勉強、頑張ってね~」
そう言って、あたしは自分の部屋に入ろうとした。
その時。
[雪奈]
「……っ!?」
急に目の前が暗くなって……それは一瞬だったけれど。さっきまでと比べて、体調も優れないような。
[絆]
「雪奈?」
そんなあたしの様子を見て、ハン兄が声を掛けてくる。ううん、別に何でもないし。心配させちゃいけないよ。
[雪奈]
「うん。ちょっと、スキーで疲れちゃったみたい」
すぐに体調も戻ったし、ただの疲れだろうと、この時は思ったんだ。
けれど、これから定期的に、この目眩は襲ってくるようになる。
[絆]
「そっか。そりゃそうだろ。早く寝るこったな」
[雪奈]
「そうだねぇ。そうしよっかな。お風呂入って、ご飯食べて、寝るぞ~♪」
その日、お父さんが誕生日プレゼントに、ケーキを買ってきてくれました!
今日は本当に、幸せな1日だったよ……。
――
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冬の津軽。降り積もる雪。
それは時に厳しく、時に冷たく、時に優しく、時に暖かい――




