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津軽雪月花  作者: Y-F
4/8

津軽の鬼伝説

――6月になった。


新緑が爽やかに色づき、初夏の空が青く澄んでいる――



この日、俺は弘前市内にある、鬼沢と呼ばれる場所にいた。そこには祖母の実家がある。


祖母と母、俺と雪奈の4人は一足早い墓参りのために、この地を訪れていた。墓には母方の先祖が眠っている。


ちなみに父は休日出勤のため一緒ではない。


[祖母]

「あんた達は、先に行ってでいいよ。わーは実家さ顔だけ見せてくるはんで」


[母]

「分かった。絆、雪奈、行きましょう」


[雪奈]

「はーい」


祖母の実家には、え~と、知らない人が住んでいる。一応、俺にとっても親族らしいけど。


要は先祖の墓を守ってくれてる人である。母は面識があるかも知れない。


でも孫の俺達まで至れば、まったく会ったことがない。そこを祖母は、気遣ってくれたのだろう。


無理に連れて行くことはせず、別行動することにしたのだ。


[雪奈]

「お母さん、お墓ってどっちにあるの~?」


[母]

「えっと、こっちよ……たぶん」


[絆]

「……!?」


なんか怪しい答えが返ってくる。


そもそも俺は今まで、この地を訪れた事がない。少なくとも物心が付いてからは。つまり母も、この地で墓参りをするのは、久しぶりということだ。せっかく故郷に帰ってきたのだから、と祖母に促されて今に至っている。


[絆]

「お母さん、大丈夫?」


[母]

「え、何が? 大丈夫に決まってるでしょ?」


[絆]

「……」


本当に大丈夫なのか~? と思いつつ、後を付いていくしかないわけで……。後ろを雪奈が、スキップしながら付いてきていた。


バス亭から降りて、けっこうな距離を歩いている。これで道を間違えたとか、勘弁してくれよ~!?


――


[母]

「ふぅ、着いたわね……良かったぁ」


なんとか迷うことなく、目的地にたどり着いた。気丈に振舞ってはいるが、その胸中は不安だったに違いない。


[雪奈]

「到着~! さぁ~、うちのお墓はどこかなっ!?」


雪奈は墓地という場所にもかかわらず、お構いなしで、元気一杯に振舞う。


お前は本当に幸せ者だ……。


母は軽い足取りで先を歩く。


墓の位置はハッキリ覚えているようで、すぐに墓の前へ辿り着いた。


墓の周りを軽く払い、持参していた水、花、線香をあげる。


しばらくの間、3人で手を合わせた。


[母]

「さてと……」


[絆]

「帰るの?」


[母]

「いや~、お祖母ちゃんを待たなきゃ、いけないでしょ~?」


[絆]

「あ、そっか」


[雪奈]

「ハン兄ってば薄情なんだぁ~。お祖母ちゃんに言ってやるぅ」


イタズラっぽい笑みを浮かべて、絡んできた。


別に言われても、どうってこと、ないはずなのに。つい反射的に、言葉を返してしまう。


[絆]

「なっ! ……ふんっ、勝手にすれば~?」


[雪奈]

「拗ねない、拗ねない。 いい子だから……ニシシ♪」


ニッコリと笑って、俺の頭をナデナデしてきた。


[絆]

「拗ねてねーし! 頭なでるなぁ!」


[雪奈]

「怒らないでよ~ハン兄♪」


[絆]

「怒ってねーよっ!」


[雪奈]

「あははは♪」


[絆]

「……」


満足げに笑ってるし。くそ、完全に遊ばれてる……。


[母]

「そういえば、あんた達に聞かせたこと、なかったよね?」


母が何かを思い出したように、話し始める。


[雪奈]

「何が~?」


[母]

「この地域にはね、伝説が残っているんだよ」


[絆]

「ふ~ん、伝説?」


[雪奈]

「聞いたことないよ~」


[母]

「だよね。母さんも、お祖母ちゃんから聞いた、お話なんだけどね」


[雪奈]

「どんなお話なのっ?」


[母]

「そうね……」


-----------------------------

昔々、この国には鬼が住んでいました。


鬼は醜い姿をしています。なのでどこに行っても人々に嫌われて、仲間外れにされていました。


ある日、とある村に鬼の親子が辿り着きます。そこの村人達は、暖かく鬼の親子を受け入れました。


村百姓の子供達が、鬼の子供と遊んでくれています。親鬼は暖かく迎えてくれた村人達に、とてもとても感謝しました。


けれどその村の土地は荒れ、作物を育てるための水も足りません。親鬼はせめてものお礼にと、「鬼の能力」で沢の水を引き、荒れた土地を耕しました。


豊かな土地と水で潤うようになり、村は救われます。そうして鬼は、村の救い神として崇められ、村の名前は「鬼沢」と呼ばれるようになりました。

-----------------------------


[雪奈]

「へぇー。鬼って悪いイメージだよね?」


[母]

「そうね、普通はそう。だけどこの地域だけは、鬼は守り神として崇められているんだよ」


[雪奈]

「そうなんだぁ! ……あれ、じゃあこの地域って、節分は無いの?」


[母]

「ううん。あるわよ。福は内! 鬼も内!って言うんですって」


[雪奈]

「え~? 良いことばっかりじゃ~ん! あははは♪」


[絆]

「……」


まぁ、何処にでも有りそうな昔話だよなぁ。『鬼沢』という地名の由来になっているのは、面白いと思ったけれど。


そもそも俺は、非科学的な事は、一切、信じていない。鬼だの霊だの、仏や神などの宗教も。


[母]

「ちなみに、すぐ近くに鬼を祭ってある神社があるのよ。鬼神社っていうんだけどね」


[雪奈]

「え~? なんか怖そう」


[母]

「お祖母ちゃんなら、もっと詳しいから、後で聞いてみると良いよ。きっと喜んで教えてくれるわよ」


[雪奈]

「うんっ♪」


さすがは雪奈だ。相変わらず、何にでも興味を持つなぁ。


その後、やってきた祖母と合流して、お墓参りを済ませた。鬼神社に寄ろうかという話になったが、祖母が放った「タイギ(面倒)だじゃ」の一言で、真っ直ぐ帰ることに。


帰りの途中で、雪奈が祖母に鬼伝説の話を聞いていたっけ。


この時の俺は知るはずもない。この鬼伝説が、俺達と深く関わる事になることを……。


――


この日の津軽は、爽やかな新緑と青空に包まれた。


もうすぐ夏の季節がやってくる――




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