表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/39

第一章過去と現在(1)

城平高校南校舎2ーBの教室でオレは頭を悩ませて

いた。

「どした?楓」

「体調悪いのか?」

「え~マジ!?びょ、びょ、病院行かなきゃ!」

「落ち着け、病院はいい」

「そうそう、どーせ進路調査標のことだからね」

うっ。

勘が良いな、相変わらず。

オレの目の前で余計な心配(おせっかい)をしてくる

こいつらはクラスメイトで仲の良い友人達だ。

右から順に


『藍葉誠』

金髪に耳にピアスをつけツンツンヘアーの爽やか

イケメン野郎だ。スポーツが大好きらしく日曜は

毎日テレビでスポーツ観戦だそうだ。

スポーツしろよ。

次に、

『九鬼陽』

朝は必ず牛乳を飲み、腕立てふせは50回はしている

という。話だけを聞けばウソだろうとか言われそう

だが本人を見てもらえば納得することだろう。

ガッチリとした肩、柔軟な筋肉、大きな背中、

まさにスポーツマンという感じだ。

ニセモノ野郎とはえらい違いだ。

「あれ?何かバカにされたような気がするんス

けど!?」

気のせいだ。

『須勢真弓』

先程から妙にうるさい女だ。天然で自覚がないと

言うのだから厄介だ。ツインテールの栗色の髪は

風にゆられる度にゆっくりと跳ねる。

目が大きくパッチリと見開いていて活発なイメージ

が後をたたない。

たまに、小学生と間違えられるらしい。

中学生どころか……小学生って。

笑ったら一瞬記憶が吹き飛んだあの時のことは

今でも忘れない。

忘れたいのだが。

『枇杷亢次』

茶髪でパーマの大人ぶったやつだ。ヒョロヒョロに

見えて結構腕は立つ。昔、当時オレ達がまだ小学生

だった頃中学生5人を一人でぶっ飛ばしたことが

ある。無論、喧嘩をふってきたのは向こうだ。

…………本当に。

頭も切れるし、あいつには内緒で超人と呼んで

いる。

最後に、

『鈴菜紫乃』

キレイに整えられたストレートヘアーの黒髪は

近寄り難い神々しさを放っている。

女子にしては背も高くモデルのようだ。

歌が上手く、よく友人から歌手になれるよ、などと

もてはやされている。確かに上手いではある。

けど、誰にでも欠点はある。

どうやら料理が大の苦手らしい。

意外だ。

と、これがこいつら。

「なあなあ、何でまだ出さねぇんだよ」

「なりたいものとかないの~?」

誠と真弓が顔を寄せてくる。

じゃまだ。

この。

ドカッ。

グーで殴る。

「「っててぇ!?」」

頭を押さえる二人。

ふう~、効いたか。

よしよし。

「槙岳、お前たまにゲスい時あるよな」

亢次がこちらを口をひきつって見てくる。

そんなことはない。

「フフッ」

「ハハッ」

紫乃と陽、

「「「「「アハハハハ」」」」」

5人が一斉に笑い出す。

な、何だ?

「ハハッ、もう、あれだな……楓、おっ前さぁ気楽に

おーもしろくいきましょーや」

「藍葉君茶化さないの!ごめんね、楓」

「別にいいけど…」

やっぱりこいつらは良い奴らだ。

ふざけているように見えて根本的に大切なことが

何なのかをよく分かっている。

本当にオレにはもったいないぐらいだ。

なのに、オレ自身は変わろうとしない。

あの日からずっと…。

そう、

あの日から。

〇〇〇〇〇

四年前、東京

夏。

むさ苦しい夏は汗をかいているオレ達をさらに

蝕んでいく。

「くそっ、あと一点だってのに」

あと、二分ちょっとでホイッスルが鳴ってしまう。

オレ達は一点差で相手チームに負けていた。

才能があると思っていた。

本気になればサッカーの日本代表すらも余裕だと

思っていた。

だというのに…!

「くそったれぇぇぇ!」

ボールをキープしたままドリブルしゴールに

向かって全力で走り抜く。

仲間がパスを要求してくる。

んだよ。

てめぇらに渡しても、取られておしまいだってぇの

自重しろよな。

(そうするべきなのは自分じゃないのか?)

心の中でもう一人のオレがそう言っている。

信用できるか。

他人なんて人間なんてみんな同じだ。

一度皮をはいじまえば同じなんだ!

ふいに、ヤなことを思い出す。

ー調子に乗るなよ

ーちょっとできるくらいでえらそうに

ー舐めすぎだっつうの

ープロなんかになれねぇよ

うっせぇ。

うっせぇな。

だったら、てめぇらがしてみろってんだ!!

できもしないくせに口だけはえらそうにしやがって


バカにすんじゃねぇ!!!


途中で呼吸が乱れる。

息が続かなくなる。

体が熱い。

消えてなくなってしまいそうだ。

きつい。

つらい。

逃げたい。

やめたい。

終わらしたい。

帰りたい。

眠りたい。

でも、でも、でも…………


「あきらめたくはないんだ!」


勢いに身を任せて一気にロングシュートを叩きこむ

するとキーパーがボールをガッチリと受け止める。

シュルルルルッ

ボールの力の抜けた音が聞こえる。

「ハァ、ハァ、ハァ……」

やがて理解する。

どんなに強くても。

どんなに努力しても。

どんなにくじけなくても。

いつかは、誰もが知る。

体験する。

この気持ち。

ピピー

「試合終了」

ホイッスルの音と共に審判の声が会場内に響き渡る

あっけなかった。

こうも簡単に崩れさってしまうのか。

むなしいな。

泣いたことなんてあまり無いけどこの時ばかりは

泣いてしまった。

大粒の涙が人工芝生に被いしげる。

少しだけ滲んでいく。

そっか、

そうか、

オレは、

『挫折』しているのか。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ