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君のいる森で  作者: CLoud
19/24

He was beside himself with anger

ん。何…?

意識がもうろうとする。視界がぼやけ、頭がぐらんぐらんと揺れた。

不意に誰かの話し声が聞こえ、耳をすます。


「そろそろ自分の言った事に後悔してるんじゃないか?この恥さらしが。」

そんな嘲笑いが聞こえた。知らない声だったので不安が募る。

誰かと、彼が、話してる?

今置かれている状況を必死に整理した。

まず、おばあちゃんの家を出て行って…どうしたんだっけ?

記憶の糸を握り締め、たぐり寄せる。確か…キノコがあって…。

どんなに先を引っ張ってもそれ以上の記憶の糸はない。

むしろプッツリと切れていた。

朝頃に出発したのにもう空が鮮やかなオレンジ色に染まっている。

記憶がなくなってから少し時間が経ってしまったようだ。


「…の分際で…と恋しようなんて…早い話だ。」

またもや誰かの声がした。ひどく低い。

恋…?誰が?頭の中で質問しても答えてくれない。あーあ…

むくりと起き上がろうとしたら体中が妙に痛んだ。

硬い物をぶつけられたようだけど原因は不明。


「おいらは…なんて…ない。してると言えば…に生まれてくれ…よかっ…。」

今度はルーパスの声がした。ゼイゼイと疲れきったような息遣い。

ようやく周りが見えるようになった。それと同時に知らない人が言った。


「おっお目覚めみたいだぜ。早くそれ、しまったほうがいいじゃねぇか?」


視界がハッキリして最初に目に飛び込んできたのは…

ボロボロになったルーパスの姿だった。


「ルーパス?どうしたの…それ。何?えっ…あっ。」

うまく言葉が出てこない。口が震えて生暖かい息だけが漏れる。

ルーパスは険しい顔つきで私を見つめた。そして、言った。

「赤ずきん。ここから逃げろ。」


何で?とっさに聞こうとしたがまだ口が震えて思うように動かない。

なのですぐ返事をするより彼の言葉の意味を考えた。

逃げろって事はつまりここから離れろ。ここから立ち去って。って意味…のはず。

やっぱり理由が知りたい。理由がなければ立ち去っても気になっちゃう。


「早くして。お願いだから…早く!」

彼の緊迫した声にもう理由なんて聞いてられないと悟った。

そしてやっと低い声の主が視界に入ってきた。


背の高い、少しずんぐりした男だった。

くしゃくしゃのクセ毛の間から丸っこい耳が出ていて太い腕の先にはギラリと光る黒い鉤爪があった。


熊。なんでか分からないけど私は一瞬でその男の正体を見破った。

熊が喋ってる?ほんとにこの森の獣は話が出来るの?

しかし人間ではない獣のオーラ。信じるしかない。

熊は無傷。手や服に少しだけ血痕があるが、それは男自身のものではない。

それはルーパスの返り血だった。


ルーパスが私の肩を押してくれた。ハッと我に返る。逃げなきゃ。

でも傷だらけの彼をほっとけなかった。

荒い息遣い。フラフラな足。傷ついた体。どう考えてもほっとけない。

オロオロと立ちすくんでいる内に熊が勢いよくルーパスに近づいた。

ルーパスはしまった!!と声を上げ私を庇うように立った。

熊男はスッとルーパスの肩に手を置き、ニヤリと意地の悪い笑みを浮かべた。

その瞬間。鈍い音と共に私に鮮血がふりかかった。

ぴちゃりと私の手や顔に引っ付いた血は紛れもなく、ルーパスのお腹のものだった。


「ぐはっ!!」

彼は口からも赤い血を吐き、地面に膝を付いて、どしゃっとひれ伏した。

私はただそこに尻餅をつくことしか出来なくて。

彼を助ける事も、逃げる事も、叫ぶことも出来なかった。

人形のように動かないで倒れた彼の体を見つめ続けた。


「これで、邪魔者はいなくなったな。可愛いお嬢さん。」

パッパッと手に付いた彼の血をはらうとゆっくり近づく熊男。

そのままゆっくりと私の顎を持った。


ヤダ。触らないで。そう言いたいのに口がボンドで止められたように開かない。

目の前には冷血な瞳を持った野獣。どうする事もできないじゃない。


「それじゃあ。頂きます。」

嫌な笑い方をして大きな口が私に近づいてきた。

動きたい。助かりたい。逃げたい。どうすればいいの?

ルーパス…もう、助けてくれないの?いなくなっちゃったの?

どうしたら助かるの?私が助かったとしてもルーパスは?食べられちゃうの?

そもそも何で私たちを狙うのよ。森には沢山動物がいるでしょ?

ねぇ、まだやりたいことがあるの。こんな所で…終わりたくない。

助けて。助けて。助けてよ。ルーパス…!!


いきなり耳をつんざく雄叫びが森中に響いた。

喉が枯れるような荒々しいその叫びはすぐ前の方から聞こえた。

地面を力強く蹴る音。それと同時に夕焼けの空に彼が映し出された。

空高くジャンプした彼の瞳には光が見えなかった。

正気を失っているように、私には見えた。

物凄い形相で熊男を睨みつけると再度雄叫びを上げて熊男に向かって手を振り下ろした。

ほんの一瞬の出来事で、私は熊男がなぜ倒れているのか。分からなかった。

振り返ったルーパスはいつも通りで正気も保っていた。


「早く逃げろって言ったろ!!今すぐここから離れろ!」

私に向かって叫ぶ彼はさっきよりも大丈夫みたいだった。

何だ。怪我はたいした事ないのね。良かった。

本当は傷の手当がしたかったのに。ルーパスは更に急かしてくる。

私は彼の身を案じたが彼の言葉に従い、村へ帰ることにした。



熊は目を抑え、おいらに向かって何か叫んで消えた。

当のおいらは赤ずきんの姿を必死に追って、見守っていたが。

やがて揺れる赤い頭巾が見えなくなると、おいらは地面に仰向けに転がった。

ハァハァハァ…早まる鼓動を深呼吸で抑える。

奴と戦って勝てたのは初めてだったな。しかも片目に傷を負わせてやったぜ。

おいら運いいかもな。とか思いながら勝利の事実に浸る。

体中痛むが寝れば治る。そう確信は持ってるから大丈夫だ。


そしておいらはいつの間にか赤ずきんとお別れをしている事に気が付いた。

あれっ?そういえば…おいらの役目は終了したって事になるのか!?

ちょっと待てよ!おいらまだ…

がばっと起き上がりいないはずの彼女に叫んだ。

「まだ一緒にいてくれっ!!」

我ながら悲しい男の叫びだな。

彼女にとってはもうこんな男と会う意味なんてないし、ましてや楽しく話すこともない。

おいらはおばあちゃんの家へ安全に行けるように手配されたボディガードな訳で。

彼女からしてはおいらはもう用済み。さよならありがとうで済んでしまえるような存在だ。

…自分で言っておいて虚しくなった。


そう、おいら達の関係はもう終わり。

そう思うと急に体から力が抜け、また地面に寝転んだ。

自然とまぶたが落ちてくる。ちゃんと寝ていないからか妙に眠い。

そしてまぶたが完全に下りる直前。


猫の匂いと共にピンと立った耳と長い尻尾のある女性が見えた気がした。



To be continued...


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