I'm thinking something about you
無理だね。
パチッと気持ちいいほどに目が覚めた。
ムクリと立ち上がるとベッドから降りてキッチンに向かっているおばあちゃんの姿が見えた。
声をかける。
「おばあちゃん、体いいの?」
おばあちゃんはにこっと笑って、
「今日は少し調子がいいから朝ごはん作ろうと思ってね。」
そう言うとパンを切り始めた。
私はキョロキョロと辺りを見渡し、彼を探した。
彼は椅子に座り、ボーと外を眺めている。
何か考え事でもしてるのかな?大丈夫かな?
時々あくびをして涙目になる彼。ほんとに可愛いなぁ。
男の人に可愛いなんて言ったら怒られるかな?
朝食を食べ終わり、出発する準備をする。
おばあちゃんはもっとゆっくりしていけばと提案してくれたがそんなこと言ってられないのです。
だってここから村までは一日以上かかります。野宿とか嫌です、もう。
ルーパスはブーツの紐を結んで立ち上がった。
「よしっ。行くぞ、赤ずきん。」
おばあちゃんはお土産にクッキーと苺を持たせてくれた。これは嬉しい。
お腹空いたら食べよう。
「じゃあ気をつけて帰るんだよ。」と外には出ていないが扉の前で手を振ってくれた。
また具合が悪くなったら大変だからいいのに。
優しいおばあちゃんに手を振られ、森の口の中へと入って行く。
森を歩いてしばらく、ルーパスはあまり口をきかなくなっていた。
私がどんなに話題をふっても曖昧な相づちを打つだけでうわべでしか聞いてくれない。どうかしたの?とも聞きづらかった。
歩いていく内に私はあるキノコを見つけた。
可愛らしく興味を引かれる毒々しい色合いの小さなキノコ。
どうしてかよく分からなかったけどなぜか私はキノコを片手でもぎ取った。
そしておもむろに口に運んだ。
その後の事はあまり覚えていない。あの嫌なメモリーまで記憶がひとっ飛びした。
そう、思い出すだけで気分が悪くなる、あの光景へ。
おいらは考え事をしていた。赤ずきんの言ってることなんて耳に入っていない。
まったくと言っていいほどにだ。自分の言葉で頭が満杯だったから。
昨晩の事が頭から離れない。あの涙の色、汚れが鮮明に残っている。
ふと後ろを向くと赤ずきんは地面に膝を付いていた。
様子が変だ。すぐに分かった。動かない彼女。
赤ずきんはいきおいよく立つとおいらの方へ走ってきた。
戸惑った。え?何この展開!まさか、抱きつかれ…
そんな淡い期待を裏切るように彼女はおいらの横をスルーして走り去る。
「えっ?ちょっ!!待てよ!!」
必死に追いかける。体が勝手に動いた感覚。
また別れたくない!!そう自分で言ったような気がした。
彼女はすごいスピードで森を走る。おいらでも付いて行くのがやっとだった。
いきなり視界が開けたはいいが、その先は見えない。
あえっ?もしかして…これは。
赤ずきんがためらいもなく突っ込んでく。
確かこの崖の真下は、川だっけ?あれ、違った?
記憶がスパーンと抜けた。いきなり抜けて真っ白になる。
そして真っ白になった頭から最初の命令が下った。
赤ずきんを、助けろ。
思いっきり地面を蹴る。高々とジャンプし空中で彼女を受け止めた。
はぐれないようにしっかりと腕の中に包み込み、締め付ける。
やっと下を見た。うわっ結構高いな。
そう思った瞬間、冷たいものが体を包み込んだ。
つめてぇ!!それに息が出来ない。ここは水の中!!
水に入った衝撃で赤ずきんを放してしまった。
激流が二人を裂いていく。赤ずきんの姿はどんどん小さくなり最後には赤い物体にしか見えなくなった。
どんなにもがき暴れても激流には逆らえない。
とうとうおいらの意識は遠のいて、気を失った。
目が覚めると見慣れた場所が目に入った。ここは…?村の近くかな?
体を起こし、赤ずきんを探す。
川の側の砂利に寝転がっていた。意識は戻っていないが息はしていた。
おいらは安堵の表情を浮かべ、近寄った。
そして濡れた髪を一回だけ撫でて笑う。いかんいかんと首を振り、頬を叩いた。
彼女の体を自分の背中に寄せるとおんぶしてまた歩いた。
少し歩くと嫌な臭いが漂いだした。大嫌いな奴の匂い。
歩く足を速めた。村はもう少しだ。来ないでくれ…!
祈る思いで競歩をする。
しかし、おいらの足ではやつらにかなわなかった。
すぐ後ろで唸り声がした。近い!!
赤ずきんを地面に丁重に置いてその前に庇うように立つ。
実々、勝てる要素はゼロだ。それでもやらなきゃいけない。
今は獲物を横取りされるからじゃなくて、
大切な人を守るためだ!その為においらはやらなきゃ駄目なんだ。
すぐそこの茂みが揺らいだ。
覚悟は、出来た。
To be continued...