Finally they got to the grandma's house
「いやぁぁ!!」
赤ずきんの悲鳴と共にコヨーテの唸り声が聞こえた。
やつは赤ずきんの上に覆いかぶさるように立っている。若い雄だった。
「うまそうな血の匂いしてんじゃねぇか、小娘。」
ペロリと舌なめずりをすると卑しく笑う。
おいらは爪を出してまた引っ込めた。
よくよく考えればここで狼の姿になるわけにはいかない。
赤ずきんが見ているのだから。
彼女の嫌う姿になりたくない…
俯いて考えた。最良の策を。彼女にばれない方法を。
いきなりコヨーテが悲鳴を上げた。
バッと赤ずきんから遠ざかり、唸った。
赤ずきんはあの花を手にしていた。
おいらにとっては臭くてたまらないあの花を。
きっと鼻のまん前にでも突きつけたんだろう。
コヨーテは匂いに耐え切れず、逃げ帰るように森へと姿を消した。
赤ずきんは無言で花を籠にしまい、むくりと立ち上がる。
「ビックリした…やっぱりこの花の匂いが嫌だったんだ。ルーパスって動物みたいね。」と言うと彼女は前方を指差した。
振り返るとそこには一軒の紫色をした屋根の家があった。
もくもくと茶色い煙突から煙が出ていて、中は暖かそうだった。
「おばあちゃんの家に着いたぁ!!」赤ずきんが嬉しさのあまり飛び回ったのと対比しておいらの気持ちは曇っていった。
もう、着いてしまったのか。ってことは既に旅は折り返し地点という事だ。
彼女を村へ連れ帰ったら喰わなきゃいけない。
ため息をついてハッとする。何を言ってるんだおいらは。
喰わないという選択肢がある。
しかしそれは有言不実行。完璧主義者のおいらにとっては痛いレコードになる。
そんなこと言ってる場合かっ!と自分を叱る。
中途半端な気持ちのまま頂きますができるわけないじゃないか。
それこそ完璧主義者じゃないし。
頭の中にぐるぐると二つのワードが駆け巡る中、赤ずきんはおいらを呼んだ。
「ルーパス。着いたよ!!行こう!!」
手を伸ばして笑顔を向ける彼女。
おいらは躊躇して手を宙に舞わせた。
見かねた赤ずきんは強引においらの手をとって家の方へ走った。
小さな手から温かみが感じられた。
コンコン。
ノックするのって好きなんだよね。ドキドキして出てくるのを待つ。
しかし、人は出てこなかった。代わりに中からおばあちゃんの声が聞こえた。
「赤ずきんかい?入っておいで。」
ドアノブを回し、扉を開けた。
家の中は暖かく、いい匂いがした。(ルーパスにとっては花の匂いが強すぎたが)
奥のベッドに優しい顔で笑うおばあちゃんが見えた。
私はおばあちゃんの元へ駆け寄った。
「よく来たね。」
と頭を撫でられる。嬉しいな。幸せだな。おばあちゃん大好き。
少しするとおばあちゃんは撫でるのをやめ、ルーパスの方に目を向けた。
「あれは誰だい?」おばあちゃんが鋭い目で聞いた。
私はこの森の猟師さんだよ。と答えた。
すると今まで鋭く尖っていたおばあちゃんの瞳がたれ目に戻って笑った。
目尻に小さなしわを作って。
「ここまで赤ずきんを有難うございました。」
ルーパスは照れながら「あっ、いえ…。」と言うと首の後ろをかいて俯いた。
その仕草がとっても可愛かった。
「ルーパス照れてるー!可愛い!」と悪戯っぽく言うと彼は顔をもっと赤くした。
今はお昼過ぎだった。これからまた帰るわけにもいかなかったから今日はお泊り。
明日の朝に村へと出発する事になった。
もちろんルーパスも一緒だ。
おやつにアップルパイが食べたくなったのでルーパスに林檎を少し採ってきてもらうことにした。
森は人の手が入っていなくて伸び伸びとした環境の為、果実も蜜をたっぷり含んで熟す。甘くてシャリシャリしてておいしんだけどなかなか売っていない。
私の持ってきた籠を渡すとルーパスは意気揚々と歩き出した。
その後姿を見送り、材料を揃える為に戸棚へ向かった。
赤ずきんに籠を渡され、お使い中のおいら。
この森は無人の果樹園みたいなものだ。特にスター村の方に沢山生っている。
スター村の市場ではたまに売られるらしく、家が近いおいらは人間が入るということで迷惑極まりないが。
確かに、うまいっちゃうまいんだよな。この森の果実は。
おいらは赤い大きな実の林檎ってやつが一番。食感と味が好きだ。
よく、母さんに食べさせてもらった。
…この話は終わりにする。考えたくもない話だった。忘れてた。
そんな事より彼女を喰うか喰わないかを議論しようじゃないか、おいらの頭!
ぱっくり割れた二つの意見。どっちも譲らないがちょっとだけ喰わない側が押してる?いやいやそんなはず。
……ないよな?
よしっ!旅の〆に喰うぞ!!
嫌だ。
何言ってんだよ、覚悟しただろ?
嫌だ。
有言実行の完璧主義者が迷うなんて変だぜ?折角ここまで我慢して苦労してきたんだから、これはご褒美なんだよ。
嫌だって言ってるだろ!!
頭が整理できない。圧倒的に喰わないが押している。
何でだよ。おいらだってお腹空いたよ!あんなご馳走逃したらチャンスはない。
そう言い聞かせているのになぜか言う事を聞かないおいらの頭ん中の一部。
じゃあ、何で喰いたくないんだよ!!
一部が問いただす。すると思わぬ返事が返ってきた。
赤ずきんが好きだからだよ。
To be continued...