The gift from cute witch
くるりと後ろを振り返る。
心臓がドクンドクンと跳ね上がり、息苦しい。
全速力で走った後のように全身に熱がこもり息づかいも荒くなる。
えっ?そこにいるのは…何?
熊かコヨーテ…ううんあれはきっと…
狼。
声にならない悲鳴がおいらの耳に入ってきた。
赤ずきんの声だ。この茂みの向こうに。
ヤバッ!おいら狼の姿のまんまだ。早く戻さないと。
急いで尻尾や耳を隠し、牙や爪をしまった。
そうして完璧に誤解されない格好でノコノコと出て行く。
赤ずきんは既に起きていて尻餅をついたように固まっていた。
顔は強張っていたし少しだけ肩が震えている。
目をまんまると見開きおいらの方を凝視していた。
この不思議な空気に耐えられず声をかけた。
「何?どうかした?赤ずきんちゃん。」
苦笑いを浮かべて頭の後方をかく。
赤ずきんは肩を落とし、喘いだ。
「なっなんだ……ルーパスだったの…。」
と安堵の表情を浮かべる。しかしその顔からはまだ汗が垂れていた。
「焦ってたみたいだけど、なんかあった?」
興味本位で聞いてみる。決してばれていないかが気になるわけじゃないよ。
むしろ聞くほうが怖いだろ。
赤ずきんは口を開けたり閉じたりして言葉を探しているようだ。
「うん、えっとね。ルーパスがいた方向に獣の影が見えたかなって思ったんだけど…。なんでもなかったみたいね。」
顔を上げて笑う彼女の眉は数ミリほど下がって見えた。
んー気持ちいい。
朝の森と言うのは清々しくて暖かな日差しに包まれていた。
優しい風が頬を撫でて通り過ぎていく。ポカポカしててまどろみたい気分。
リスが木の実を持って大急ぎで木を登っていく姿やウサギ達が不思議そうにこちらを見ている風景はさっきまでの緊迫した空気が嘘のようで。
平和が一番だと改めてかみしめる。
まぁ実際はそんなに危険じゃなかったけど。
それでも近くにルーパスがいないというのはこの私には大きいみたいで。
やっぱり誰かがいてくれるだけで安心できる。
人間はそういう生き物なのです。
他愛のない会話を楽しんでいると目の前に大きな真っ暗の丸が見えてきた。
どうやらそれは洞窟みたい。
それは何でも飲み込んでしまう怪物に見えた。
しかしこの怪物は異質で奥に出口がある。
ちいっちゃく見えるその出口は食べられたものにとっては希望の光である。
「大きな洞窟だね。ちょっと怖いな。」
彼が足を止めるのを見て言った。
彼は一瞬その怪物の喉の奥を睨んだがすぐにこっちを振り返り笑った。
「まぁ大丈夫だよ。足さえ踏み外さなければ。」
最後の言葉が気になります。踏み外した場合を教えて。
私は少しの間立ち止まって考えた。りすくっていうもののことを。
自分の中で洞窟と言ったらコウモリがイコールで結べてしまうのだ。
暗い+洞窟+危険=コウモリという式もあるのです。私の脳の中に。多分大多数の脳の中に。あるでしょ?
私は決心してその事をルーパスに伝えようとした。
が、いきなりの強風がそれを遮り、頭上に黒い影が浮かんだ。
私達と洞窟の間に現れたのは昨日のにゃんちゃん魔女さんでした。
「ちょっと待つにゃ!」
魔女さんは軽やかに箒から降りると肩をすくめて妖艶な笑みを浮かべた。
自身の長い尻尾を腕に絡めて弄んでいる。
微妙な空気が流れました。魔女さんのせいです。折角決心したところなのに。
「あの…何の用ですか?邪魔なんですけど。」
ルーパス!相手は魔女さんなんですよ!?ハッキリ邪魔とか言っちゃだめです!もっとオブラートに包んで!
あわあわと魔女さんが魔法を唱えるのを待つ私。魔女さんはそんな私を滑稽だとでも言うように笑った。
しかも腹を抱えて。酷すぎるんじゃないでしょうか。
「ウチはあんたらごときに魔法は使わないにゃ。安心しにゃよ、赤ずきんちゃん。」
ちょっと心外。ごときはいらないよ。倫理の勉強して。
「質問に答えてくれないか?何のようだ?猫でも分かる質問なはずだけど。」
あからさまに馬鹿にしている口調のルーパス。目も鋭く彼女を見据えている。
魔女さんは笑顔を壊さず質問に答えた。
「昨日言ったはずにゃ。ウチと関わった事を後悔するって。ウチはあんたらにプレゼントわたす為に来たんにゃ。」
いやいや、関わりたくて関わったんじゃないよ。理不尽すぎる。
呆れ顔で見つめていると魔女さんは指を鳴らし、笑った。目は笑ってないけど。
すると東の空からザワザワと何かが群をなしてやってくるのが見えた。
逆光で見える漆黒のシルエット。
あれは私が編み出した暗い+洞窟+危険=の答えに当てはまる気がする。
わーい。正解だね。イライラしなくて済んだよ。
ありがとう。コウモリの大群さん。
To be continued...