ある休日の朝………。
ロボット三原則を重視しようと思ったのに…………。
「朝ですよ。今日が休みだからっていつまでも寝てないでください。」
ある祝日の朝。
特徴の無いような高い女性の声がまだ少しベッドから出たくない俺のそばから聞こえる。
しかも言いたいことが一つ。
いや、寝てないよ。ほら、まだ朝だから体が動かないからゆっくりしたい時間ですよね。いつもの時間どうりに起きたけれどまだ寝たい的な。
体を動かしたくない感じなだけで………。
「さっさと起きないと、布団引っぱがしますよ。」
既に声の主は掛け布団と毛布を手に持って引っ張っているようだ。目を閉じていたいが故に状態が見えない。
そして、この温かな一時を邪魔されまいと、俺も布団の一式を握って応戦する。
「もう、寝てないよ。目が閉じてて、体を横にしてるだけで頭は比較的に動くし体だって。」
「他者から見ればそれは寝ているように見えます。」
何をそんな言い訳を。
「さてお前はそういえる存在なのか?」
「あなたを見るようにとあなたの両親から言われていますから。」
「そうか、一度俺みたいに休んだらどうだ?いつも家事に追われて疲れているだろう。」
今日は長く寝させてくれ。
「疲れていません。何を言っているんですか?ついに頭まで馬鹿になりましたか?私は疲れることは無いんですよ。」
そういうと掛け布団一式を引っ張る力が増した。
それらはミシミシと音をたて今にも引きちぎられてしまいそうだ。
手を離しすかさずベッドの上に敷かれた布団の下に入り込む。
バタンッと大きな音がした。どれだけ力入れてるんだよ。
ベッドの底は板であるが寝られないわけでない。
あいつでもいささかここまでやるまい。
「またそんなことをしてそれまで剥がさないと気が済みませんか?」
呆れたようにいう声の主は再び次は敷布団を持った。
何だよしつこいな。
それにしもこれ以上取られたくも無い。応戦するか。
「今日は買い物に付き合ってくれるって言ってましたよね?」
「そう言われても。午後だろ?」
「午前中からです。そんなにぐずらずに起きてください。」
「あ、今日の天気とかどうなんだ?にわか雨とかお前注意しないといけないんじゃないのか?」
「今日は雲一つ無い快晴です。」
微かに見える、カーテンが開かれた窓から空を見ると清々しいほどの快晴。
いつもならばありがたい天気も今では恨めしい。
「しかも私の表面は人工皮膚で被われていますから金属が錆びることはありません。」
多分ドヤ顔な顔をしているであろう奴が恨めしい。
「無意味な篭城はするものではありませんよ。」
こんな時に言う台詞かよそれ。たかが布団一枚だぜ。
「わかりましたあなたがその気なら……」
次は向こうから布団を離した。布団から来る衝撃に驚く。
確かにこりゃ吹っ飛ぶな。
せかせかと体全体を使って布団を戻す。
「何でそこまでして布団の中に居ようとするのかな?」
布団を大体直した時に上から重みを感じた。
「何お前のってきてるんですか!」
「あなたが起きないからですよ。でも良いんですもう。」
「!?」
「私も隣で寝るから。」
ひゃー。
「起きる、起きます。起こさせてください。」
「タイムオーバーです。」
そう言って息をするための穴の反対側から入り込んできた。
「良いじゃ無いですか。端から見れば、同い年の男女が一緒のベッドで寝ているだけですよ。良いですね彼女ですよ、彼女。」
少し声色を変えて俺の後ろにピタッとくっついて彼女の腕にて拘束させられてしまった。
「ガイノイドのお前に言われたくない。」
「っ……。私の皮膚の柔らかさは人の皮膚と変わりませんよ。感触だってきっと………。」
そういわれると背中に二つ柔らかい膨らみが……な、何考えてるんだ、俺は。
「もういい。俺、起きるから。」
「もしかして恥ずかしいんですか?恥ずかしいんですね。良いですよ二人で寝ているのも。」
「変なこと言うな。ほら、買い物行くんだったよな。早く支度しちまおうぜ。」
ガイノイドのくせしてなんて事してくれてやがる。
な、なぬ。体が持ち上がらない?
「ここで言うことではないかもですけれど、キスしませんか?」
「そんなこと、ここで今言うことでは無いし、こんなところでするものでも無い。」
「そんなことを言わないで下さいよ。仲良く同じ屋根の下で暮らしてるんですよ。」
「同じ釜の飯は食わないけれどな。」
早くこの変な拘束を解いてしまいたい。
「ここで私から提案なんですけれど。」
「なんだ?出来ればそのまま起こしてくれるとうれしいが。」
「そうですか?では布団の上に戻ってください。そのあとに話します。」
拘束を解かれた体で布団の上にはい出る。
そこには掛け布団一式が乗っけられていて先程はい出るときに出来たシワがなければとても綺麗に敷いてあったに違いない。
「提案の事なのですが、一つ私にアクセサリーをあなたが買って下さい。これは要望ではありません。命令です。さあ、早く着替えてください。」
とても楽しそうに彼女は微笑みながら、ぐちゃぐちゃのショートカットの髪を気にせずにそういった。
「ああ、着替えるよ。少し外に出てくれないか?」
「何をおっしゃっているのですか?先程までガイノイドと、私を物として扱っていらしたあなたが、何故着替えるのをためらっていらっしゃるのかを私は理解しかねます。」
「何故って、お前…………。」
「ここにある机やこのベッドと私は同じですよ。あなたが気にすることではありません。」
真顔で俺の目の前に座りこんでいる一見少女のこいつを………。
「もういい、早くこの部屋から出ていけ!」
そういうと、それに答えるように両手を俺の前で開いて見せた。
「10……、9……、8……」
右手の親指から、人差し指、中指と指を折ってゆっくりと数を数えていく。
「ち、ちょっと待て、何やってるんだ?」
「何ですか?カウントダウンもわからないほどあなたは馬鹿なのですか?」
未だに決まった間隔をとり折られていく指。
「それは何を意味してるかを知りたいんだけど。」
「それは決まってます。このカウントの間に着替えなければ私が強制的に着替えさせるまでのです。」
そう言った直後、ちょうどすべての指を折終えていた。
「タイムオーバーです。」
そう言いながら彼女は微笑む。
そしてゆっくりと俺に這い寄ると、結局俺は彼女の体で押さえ付けられていた。
重みは普通の同体型の女子よりもやはり重いものだろう。
ロボだからしゃー無いか。
「静かになりましたね。ようやく観念しましたか?」
「…………。」
彼女の勝ち誇ったような顔は俺の数cm前にある。
「顔を反らして、あなたはいつも通りかわいい反応をとってくれますね。」
そんな反応を楽しまれても俺はめちゃくちゃ困るんですけれど。
彼女はクスッと俺の顔を見て笑う。
「何が面白いんだよ。」
「いえ。何もありません。しかしこれはまるで私があなたを押し倒しているように見えますね。」
まだ笑ってやがる。ちょーこえー。
「見えるじゃねえ。お前は本当に押し倒してるんだ。」
「雑談はこれくらいに、ではこれからあなたに命令します。動かないで下さい。なぁに、無駄な抵抗をしなければ痛いようにはしません。私の言うことを聞かなかった罰です。」
俺に馬乗りになっている彼女は手の指を波立たせるような独特な動きをして俺に迫ってくる。
今日のパジャマは良いか悪いかボタンでとまっている物だった。
彼女は上からゆっくりとボタンを外していく。
そこに感じるのは恐怖が大半をしめていた。
理由は奇妙な笑顔にある、少し尋ねてみた。
「ボタンを一つ外すごとに変な顔するのやめてくれないかな?」
「いくらあなたであっても私の楽しみを邪魔する権利はごさいません。やはり少し眠ってください。」
そうしてバチッと気味の悪い感触を最後に気を失った。
「やっと起きてくださいましたか?」
再び目が覚めると俺は椅子に座らされていた。
彼女の着ている服が変わっていることに気がつく。
彼女が言うにいつも外出用として使っている服。
「では、早くお買い物に行きましょう。そこで待っててください私の仕度をしてしまいますから。」
彼女は何事もなかったように自分の仕度に入った。
俺の服は着替えさせられており、俺のかばんすら机においてある。中には財布も……。
奴が俺から離れた時に知ることの出来る俺の現状をすべて確認した。
現状、特に変なところはない。気掛かりなのは二つパンツが変わっていることと俺の財布が入ったかばんだった。
あいつ財布を覗くとは何たる事か。俺の数少ないプライベートな物なんだぞ。何してやがる。
「さて、私も準備できたわけですし、行きましょうか買い物。」
自分のバックを片手に現れた彼女は、俺の手をひきごろごろと家の中で過ごす予定だったこの休日の日中まるまるを使って買い物を行った。
さらに言うと最初の命令であったアクセサリーであるが、ネックレスを買ってやった。
財布の現状を知っていてだからだろう。五千円程するものを買わされた。
今はその帰り道、日も赤くなるとは言わないが西に傾いてきている。
彼女は先程のネックレスを首から下げ何が楽しいのかニヤニヤしている。
確か、あいつ首に下げているそれを渡した時になにか言っていたはずだ。
えーと、確か。
『これであなたがいつものように外で遊んで帰ってくるような事はもう出来ませんね。』
だったはず。
一体何を言いたかったのだろうか?