第42話:はぐれ
翌日、何とか許可はもらえたらしく俺達はエルフの里に入った。入ったんだが……なんか全体の雰囲気が暗い。何かに脅えているようだな。
「よく来て下さった。我々は歓迎いたしますぞ」
「ありがとうございます。それにしても暗いですね。確か龍が襲ってくるとか?」
「あの子ですか……。まあ、その通りです。でも、貴方は気にしなくても結構ですよ」
「はあ、分かりました」
まあ、その場はそこで納得したんだが。でもやっぱり――――
「この機を逃す訳にはいかないよな。龍と闘う場面なんてそんな多くないしな」
「え?……まあ、やると思っていましたが」
「私も楽しみです。龍と相対する機会なんて、そう多くありませんしね」
「はあ、この人たちは……。もういいです。私も付き合いますよ」
そしてその日の夜、それが現れる所為かいろんな人たちが出てきた。俺達も変装だけした。と言っても『黒』の力を使って気配を消してるだけなんだけど。
黒い龍がこちらに向かって飛んできているのが見える。ん?ちょっと待て。黒い龍?
「お待ちしておりました。ヴリトラ様」
「娘達の準備はできたか?」
「はい。こちらにどうぞ」
「おいおい、ちょっと待てや!コラ!」
「……貴様、何者だ?」
「うるせえよ!高々はぐれ風情がヴリトラを語るな!」
「な、お客人!一体何を仰るのですか!この方は竜神ヴリトラ様ですよ?無礼な言葉はおやめ下さい!」
「はぐれ風情に丁寧にする気などない。……見せてやろう。これが本当の『龍神』だ」
俺は術式を練り上げ一気に、呼び寄せた。何をかって?そんな当たり前な事を訊くな。もちろんヴリトラを、さ。
『どうした?我が主殿』
「なあ、ヴリトラ。あれはお前の眷属か?」
『うん?……貴様、こんな所で一体何をしている』
「ヴリトラ……。貴様、人間風情に下ったというのか!?」
「はぐれ風情が何を言っている。俺でも殺れるよな?ヴリトラ」
『当たり前な事を訊いてくれるなよ、主殿』
「そうかい。ありがとう。どうする?見ていくかい?」
『そうだな。元眷属の不始末をここで見ておくのも一興か。残るとしよう』
「甘く見てくれるなよ!?人間風情がっ――――!」
「お前こそな!そしてお前は重要な事を知らない」
「何!?」
俺は神器精製術式を練り上げた。そこで取りだした物は――――もちろん『神槍』だ。
「切り札は、常に俺の傍にあるって事をな!」
「ほざけ!」
一気に飛翔して槍の照準範囲外に逃げようとしていたが、そんな事をしても無駄だ。
なんせこの槍は、絶対に当たるのが売りなんだからな!
同じ槍を五つ生み出した俺は、それを同時に飛ばした。黒い龍は何とか逃げようとするが、それでも槍は追いかけ続けた。そして最後には両手両足を貫き、最後に心臓を貫いた。
「こいつで最後だ。精ぜい苦しまずにいかせてやるよ!
『天地に奔るは我が剣』
『其は天を切り裂き、地を統べる』
『力は総てを退かせる証となる』
『我が剣よ。我に刃向かう総てを斬り裂け』
『天刃月下!』
心臓に刺さった槍を中心に黒い龍を真っ二つに切り裂いた。ヴリトラは何も残していたくはないのか、落ちてきた残骸の総てを燃やしていた。




