Ex.セイバー視点
「……ここは?」
確か私は闘技場にいたはずじゃ……。そう思いながら体を起こすと、そこにはランサーとアーチャーが心配そうな顔をしてこちらを見ていた。
次の瞬間には二人は安心しきったような顔に変わっていた。
「なあ、二人とも。勝負はどうなったんだ?」
「お前の負けだよ。というかあれは勇者殿のズル勝ちだけどな」
「なにがズル勝ちだって?ランサー」
いきなり扉の向こうから声がしてきて、扉の先には勇者殿とアリシア姫が立っていた。
「こんにちは、勇者殿。それにアリシア姫」
「やあ、セイバー。何とか治ったみたいだね」
「勇者殿は強かったですね。まさか竜を従えるとは……お見それしました」
「スルーかい!まあいいや。今回お見舞いに来たのは一つ訊きたい事があったからだよ」
「はい?訊きたい事……ですか?私が答えられる事ならば、どうぞ」
一体何を訊かれるのかと思っていたら、私にとってとてつもない事を訊いてきた。
「君さ、俺のあの状態相対して死ねる、とか考えたでしょ?」
「「「!?」」」
どう……して?どうしてこの人がそんな事を知っている!?
「はあ、やっぱりか。それを確認に来たんだよ。俺の観察眼スキルレベル85によって得た『過去視』で俺は相手の過去と想いを知る事が出来る。といっても、約一か月間だけだが」
「それで……私に何を言いたいんですか?」
「わからない?だから俺は、君をぼこぼこにしたんだよ?自分が特別でそんな自分に勝てる人は少ない。だから、退屈だから死にたいとか思ってたんでしょ?」
「それが何か?どんな問題があるというのですか?」
「あまりふざけた事をぬかすなよ、小娘風情が」
「!?」
口調が一気に変わったような気がするんだけど……。何か触れてはいけない事に触れてしまったのだろうか?
「せいぜい二十年ぐらいしか生きてないんだろ?そんな人間が死にたいとか、喧嘩売ってんのか?」
「い、一体何なのですか!貴方に一体なにg――――」
「黙ってろよ。あんたはな、この世界に生きる存在で特別な訳じゃない。所詮この世界を構成する一部分にすぎないんだよ。そんな奴が度を超えた事をぬかすんじゃねえよ!」
「……」
勇者殿は黙っている私に失望したのか、舌打ち交じりに部屋を出て行こうとした。だが、その寸前で足を止めてこちらを振り返った。
「頑張れよ。少なくともあんたはもっと強くなれる。だからもうちょっと世界を長い目で見ろ。俺が言えるのはこんだけだ。じゃあな」
そう言い放って扉を閉めた。だけど、私はその言葉に応える事が出来なかった。胸の内に灯ってしまった小さいながらも、ちゃんとした炎を理解してしまった。
そう、私は分かってしまったのだ。私はあの人の事が――――あの人に恋をしてしまったのだと。




