第143話:意外な言葉
ラリアットを食らった。しかも筋力強化でも使ってるのかとんでもない威力の、しかもそれを喉にだぜ?信じられるか?
「ぐほっ!?」
「あんたは一体何してんのよ!心配掛けて!馬鹿じゃないの!?」
「いや、お前いきなりラリアットしてくんなやっ!お前が俺を殺す気か!?」
「心配掛けるお前が悪いんだろ?クロ。……な、悪いけどお茶持ってきて」
「扱いが雑過ぎるだろ……」
なんでこんなにナチュラルに反応されているんだ?心配だったから、かな?女性陣はなんか眼の周りが赤くなっちまってるし。
やっぱりやり過ぎたかな。俺の行動が他人に心配をかける場合もある。俺は万能じゃない。でも、自分に出来る事なら何でもしたいと思ってる。
それが裏目に出ちまったか。やっぱりままならないもんだな……。それが人生だと言えるのかもしれないが。
「それで?クロ。今回は元王族を殲滅しただけか?」
「その後ちょろっと問題が起こったけど、なんら問題は無い。オールクリアだ」
「そうか」
「待て待てッ!元とはいえ『王族』を殺したんだぞ!?もっとそれ以外になんか無いのか!?」
「あんな屑を殺した所で何とも思わないし」
「そんなのより飛龍の討伐を命じられた時の方が怖かったっての。大体、王族では無いのにこれだけの事を起こしたんだ。あいつらはただのテロリストだぜ?」
「いや、それはそうかもしれんが!」
要するに戦時でも無いのに王族の命を奪った事は問題になりえないのか?と言いたいんだろう。まあ、なんだかんだで啓はまだ人による命の奪い合いは体験してないしな。
していたとしても、相手との力が圧倒的すぎるんだろう。物語においても、現実においても、俺達ほどに現実を注視して血に慣れきっている存在はそうそう存在しないだろう。
「啓、グダグダ言うべきじゃないだろう?クロは自分のやりたい事をやって、生きて帰ってきた。それだけ分かれば十分じゃないか」
「巧……いや、それは分かっているんだがな?こう、納得がいかないというか……」
「それは俺達が関与するべき物じゃない。いいか?啓。俺達はあくまでも『異世界人』で、あいつらは『勇者』と『英雄』なんだ。
俺達はただ特別なだけの存在だ。でもあいつらは、それこそお伽噺に出てくるような存在だ、って事を忘れるなよ?」
「……分かった」
いったん納得だけはした、って感じだな。なんか子供みたいな奴だな。まあ、それは今に始まった事でも無いが、な。
「さて、それじゃあそろそろ俺は行かせてもらうわ」
「もう行くのか?もうちょっとゆっくりしていきゃいいのに」
「俺は旅人だぜ?そうそう旅路の途中で休憩してたまるかっての。あんまり連絡してくるなよ?一々対応するのも面倒になってくるから」
「了~解。なんとかこっちでどうにかしてみるわ」
「おう、頼んだぜ?」
「花香る風の中にある栄光を」
「風吹く草原の香りを貴方に」
まったく、アキも粋な事をしてくれたもんだな。こんなやり取りを知っているとは思わなかったぜ。そう思いながら俺は展開した魔法陣を通過した。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
Sideアキ
「ねえ、アキ?今のやり取りは何?」
「う~ん?なんかな、昔の旅人が別れ際にした挨拶らしい。俺が言ったのは『また貴方と出会える事を願っています』って意味で、クロが言ったのは『私もそうです』って意味だな。
昔の旅は今以上に危険だったらしい。ちゃんと制度が整っていなかったからな。自分達の身は自分で守るしかない世界。その当時の冒険者は半ば盗賊まがいの奴らばかりだったらしい。
そんな危険なご時世だったから、再開する事も出来ないなんて言うのはざらだった。だからこそ、こういう挨拶が出来たらしい。王様の受け売りだけどな」
「物知りなんだな、あの王様」
「昔、自分の守りたいと思った人を失ったって言ってた。だからこそ、あの人の生きていた時の事を忘れないように、って……」
「あれでも俺達の何百年も前の先達だからな。いや、それこそ失礼だな。人はどこでも学ぶ事が出来る。だからこそ――――」
「また新たな一日を始めようじゃないか!」
俺達は意気揚々と家を出ようとした。――――ほぼ寝巻状態だった事を忘れて。いやあ、大変な目に逢っちまったぜ。あっはっはっは!痛い!




