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第138話:緊急事態の一歩前

 俺は帰り道でずっと考えていた。感染型の人狼、それにあの人狼は世慣れし過ぎている。感染型っていうのは、いわゆる病気の類の事を指す。


 人狼の中でも、感染型というのは異常者というレッテルを貼られるほどの代物だ。そういう奴は大抵発見された直後に殺される。


 少なくとも、あんな年齢まで生きていける訳が無いんだ。それなのに……一体どうして?


「あの人狼は……やっぱりあの国かな?」

「ん?どうかしたのか?」

「なあ、啓。お前、イエルニクス国って知ってるか?」

「知らねえけど。何なんだその国?まあ、ネタ振りするって事は相当に危ない国なんだろうけど」

「化学実験などで有名な国だ。まあ、いわゆる魔術と科学を融合させようとしている国の事だな」

「そこまでだったら、まだ心地よく聞こえるな」


「人体実験も平気でするような国だがな」


「……よくそんな国が残ってるな」

「残ってねえよ。大体数十年前に潰れた国だからな。国民の叛乱に加え、各国の力によって叩き潰された。だが、その実験をしていた科学者たちの少数と王族は生き残った」

「その残党がやったっていうのか?」

「その可能性は決して低くは無い。あの人狼が自力で生き抜いてきた、っていう可能性も捨てきれはしないが……。それにしては弱過ぎる。


言っちゃあなんだが、お前程度の実力にやられるような輩がこれまで生き抜いてきたとは到底考えられないんだよ」

「本当にむかつく言葉だな」


 しかしなんで今更この国を狙ってきたんだ?異世界人が多くいるからか?その素体として俺達を狙うためにこの国で騒ぎを起こしたとしたら?


「まさか……洸ちゃんのあの病気は」

「……クロ?」

「戻るぞ、啓!俺の予想が正しければ、厄介な事になってる!」


 俺達は走って家の所に戻ると、人狼が大量に群がっていた。何か結界の様な物の所為で、入る事は出来ていないらしいがこのままじゃヤバい!


「白光の鳳凰よ!」

「漆黒なる蛇よ!」


「「呑み尽くせ!」」


 俺達の術は、一気に眼前にそびえ立つ者達全てを消し去った。そして一気に家の中に戻った。ついでに傷ついていた結界も修復しておいた。


「大丈夫か!?」

「あ、クロ君。お帰りなさい」

「よく帰ってきたね、二人とも」

「姉さん、それに花園さんも……。二人がこの家に結界を?」

「うん。ついでに洸ちゃんだっけ?あの子の身体の中にあった病原体も消しておいたよ」

「何かとうるさかったけど、君達が近づいているのが分かったから放っておいたんだ」

「よかった……」


 少なくとも、皆を犠牲にする事も無く助ける事が出来た。俺は力が抜けて床に座りきっていた。

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