第130話:質問の答え
「それで、なんで貴方は父さんそっくりなんだ?」
「その理由はな、お前の父と俺の魂は同じだからだ」
「……どういう意味だ?」
まったく意味が分からない。父さんでは無いのに父さんの魂と同じってどういう事なんだ?話だけじゃ理解できない。
「まあ、分からんだろうな。分かったら怖いしな。ちゃんと説明はするさ。その前に、お前は自分の父の旧姓は知っているか?」
「何だよ、藪から棒に……。確か、『乾』だったんじゃなかったかな?」
「そっか……。俺はこの地位に至る前は、乾慎也と名乗っていた。まあ、世界は全くの別物だがな。そしてお前の母親の姓は輝宮。だけど、俺の世界での名字は――――」
「そこまでだよ」
「ああ、来たんだ。リナエル」
「そんな事を話してどうするの?この子にそんな過去の話なんか必要ないでしょ?」
「それはお前が決める事じゃないよ。何時も言っているだろう?お前の価値観を人に押し付けるな、と。しかもお前『魔王』の封印はずさんだし『王の力』もまともに教えていない。
これは一体どういう事なんだ?こいつはいつか、滅びに関わる事になるだろう。それなのに教えないなんて……お前はどうかしている」
「私は……!」
「いいんですよ、神様。話を続けてくれ」
「この態度の違いは一体……。まあ、いいか。それでお前の母親は俺の世界ではこう呼ばれていたんだ。『一花』と。お前の目の前にいる存在がお前の母親と魂を同じくする者なのさ」
「神様が……母さんと同じ?」
言われてみると……どうも神様は俺に関してやたらと構ってきた。まるで大切な何かを補うかのように。
俺を助けた時の事だってそうだし、それ以外のときだってそうだった。そこにいた神様達が言っていた。神様は、いつもはもっと冷たいって。
「神様が、俺の母さんと同じだったから?だから神様は俺に色々してくれたのか?」
「――――違うッ!」
「私はそれだけの為に色々としてきた訳じゃない!」
「まあ、そうだろうな。お前はそんな打算的な奴じゃないしな。それで話は戻るが、魂っていうのは全ての世界でつながっているんだ」
「?どういう事だ?」
「要するに再利用みたいなものかな?まあ、正確には全く違うんだが。魂は繋がっているというのは、オリジナル世界から分岐しているだけだからだ」
「オリジナルの世界?」
「世界の総数は俺達『観測者』にも把握しきれていないんだ。重要な人間の選択によって、世界がやたらと分岐するからだ」
「世界が分岐する?……俺達の世界はオリジナルからすれば劣化品みたいな物だって事か?」
「まあ、言ってしまえばその通りなんだけど……。ちょっと違うか。別れた世界はあくまで有り得たであろう可能性ってだけ。劣化なんて物は無い」
「そうなのか……。それじゃあ、父さん達が生きている世界も……」
「当然ある。お前には知覚する事は出来ないがな」
「そりゃそうだろうな……」
人が世界に関与できる訳が無い。ラグナエルが言っているのは、もはや因果律に関わることと同義なのだろう。
「それならいいや。幸せに暮らしている世界が存在するなら」
「大人だねえ。まあ、とにかく。これが俺がお前の父親であって父親ではない。という事の答えだ。満足して頂けたかな?」
「ああ。まだもう少し聞きたい事はあるがね」
「なんでも来い。愛する息子の質問位なんでも応えてやるよ」




