第116話:虐殺
俺達が城に着くと、慌ただしくなっていた。さっきまではあんなに呑気だったのにな。俺が作戦室までいくと、いた人達が安堵のため息をついていた。
「どうかしましたか?」
「いえ、それが……」
「相手が五万を超える数なんだって。さすがにここにいる兵たちだけじゃ対応できない」
五万、か。まあ、まだ何とかなるんじゃないかな?そう楽観的に思っていると、思っていた所にさらに嫌な報告が来た。
「報告します!相手方には三十ほどの竜騎士と、五十を超える機械兵が確認しました!」
「機械兵?そんなのいるんだ」
「ああ、もう駄目だ……。五万を超える軍勢というだけでも、悲劇的なのに。竜騎士と機械兵までいるなんて」
「こちらの兵の数は?」
「大体、二千ってところかな?でも、円卓の騎士団の約半数が遠征に行っててね。残りだとこの相手は難しい。機械兵なら片付けられるんだけど……」
「それなら、歩兵部隊と竜騎士は俺が片付けましょう。神話魔法を二、三発ぶっ放せばあらかた死ぬでしょう」
「……いつもの事だけど、末恐ろしいね。まあ、いいか。それでは、これから我ら円卓の騎士団と『勇者』の一行で敵の迎撃に当たる。防備を固めておけ」
「「「はっ!ご武運をお祈りいたします!」」」
カリスマだよね。ランスロットさんって。俺はその旨を二人に伝えると、快く了承したので俺達は草原で相手迎撃する事になった。見晴らしが良いからね。
「お、見えてきたな。おお、でかいでかい。あれが機械兵か……」
「さてと、俺も仕事を始めるか」
俺は空中に魔法陣を描き始めた。イメージで言うと、伝〇伝の大規模攻撃魔術。まあ、唱える呪文は違うんだがな。
『漆黒よりも暗き混沌』
『光を喰らいて、我に真なる勝利を』
『闇より出でて、生ある者に絶望を』
『――――堕ちし原初の蛇――――』
これは俺が大会で放った魔術と、ほぼ同種類の魔法。威力が収束されているか、拡散されているかの違いしかない。
だが、闇属性は全てを喰らう。本当は収束させる意味なんかない。だが、その方がより多くを喰らえる、それだけ。
俺の放った魔術は、展開させていた敵の軍勢をほぼ一瞬で瓦解させた。機械兵も一瞬で塵となって消えた。兵士も言わずもがな。
竜騎士達は啓が撃ち落としていた。といっても、雷撃を竜にぶつけて墜としてるだけだけど。そいつらも闇に喰われた。
「――――これ以上我らの領土を侵食するつもりなら、全滅させる。その覚悟はありますか?」
俺の声は特別高かった訳じゃない。だけど、響き渡らせる魔術を使って全域に渡らせた。すると、軍国は退避していった。フン、もう終わりか。
「……どれ位死んだと思う?」
「うん?そうだな……ざっと四万人以上は死んだんじゃないか?分からんけど」
「これがお前の戦い方なのか!?こんな」
「虐殺みたいな物が、か?」
「そうだ!」
「ふざけるなよ、アキ。出る杭は叩く。もしあの一割でも城に入ってしまえば、大切な人の何人かは犠牲になったかもしれない。そんな事を、許容できるものか!」
「だけど!殺した奴らにも、好きな人がいたはずだ!」
「それがどうした!?殺されるのが嫌なら、そもそも戦場に出てこなければいい!それ位は分かるだろう!だが、あいつらは戦場に出た。死ぬ覚悟だってあったはずだ!」
「ならお前には!死ぬ覚悟があるっていうのか!」
「……あるよ。でも、俺はそうそう死ぬわけにはいかない。大切な人がいるから!それに」
「それに?何だって言うんだよ!?」
「俺はあいつらの死を受け止める。俺はたくさんの人間を殺した。戦時じゃ無ければ、大虐殺をした大罪人さ。だからこそ、俺はあいつらの死を受け止める」
「……」
「お前だって分かるだろう。時と場合によっては、俺達だって人を殺さなきゃいけない事を」
「分かってる!でも!」
「……ああ、もう!グダグダ悩んでんじゃねえよ!」
「啓?」
「そんなに人を殺すのが嫌なら、臆病者みたいに引っ込んでろ!戦う覚悟が無いなら、お前は戦うな!」
「俺は……」
俺ならまだしも、啓がそんな事を言うとは思わなかった。修行もしていない啓がこんな事を言うなんて……。ちょっと意外だった。
だが、その分啓の言葉は真実だ。俺達は何時だってそうしないと潰れてしまいそうなんだから。人の命は重い。それ位は重々承知している。
でも、大切な人の為に。俺は――――




