第114話:説教
家に戻ってみると、いきなり中庭から爆音が響いてきた。アリシアと顔を見合わせてから、急いで家に入っていくとクリスに事前に刻んでおいた『聖痕』が起動していた。
「おいおい!一体何があった!?」
「あ、クロ。お帰り。うーん、何があったって言われると……」
「とっとと説明しろ。厄介事に発展する前に!」
そこから話を訊くと、クリスの『聖痕』がちょっとした誤作動を起こしたらしい。それで対処の仕方が分からなかったので慌てていたらさっきの爆音が出た、らしい。
「クリス」
「……」
「俺はお前に『聖痕』を刻む前に言ったよな?『俺が目の前にいる時しか発動させるな』って」
「……うん」
「分かってたんだな。それじゃあ、なんで勝手に動かした?お前の『聖痕』はまだ未完成。途中なんだ。そりゃ誤作動もする」
「……なんで?」
「ん?」
「どうしてそんな事を言うの?パパも私をいらないって言うの?」
「そんな訳無いだろう?俺はクリスに、約束を守る娘になってほしいんだ。それに、まだ『聖痕』はお前に定着しきっていない。下手をすれば、暴走して終わりだ」
「……うん」
「お前には、お前の人生がある。その主役はお前なんだ。俺じゃない。だからこそ、お前は自分を律しなければならない」
「……よく分からない」
「今はそれでいい。ただ力を振るうのならば、意志と力が揃っていなければならない。それだけは覚えていてくれ」
「うん……。本当に私はここにいていいの?」
「そんな当たり前な事を訊くな。お前は俺の娘。それでいいんだ」
今更だけど、まさかこの歳で娘を持つ事になるとはな。本当に世の中、何が起こるのか分からない物だな。俺はクリスを抱きしめた。
そしたらクリスは泣き始めた。おいおい、なんで泣き始めるんだよ?
「ご、ごめんな、さい。でも、私……」
「泣きたいなら泣けばいい。俺達は、お前を嫌ったりなんかしないから。安心して泣きなさい」
「う、うううう」
まったく、一日で二回も泣くなんて……。本当にクリスは泣き虫だな。――――とは言えないだろう。この子もちゃんと分かっているんだろうし。
ま、これからこういう事が無くなるまでいかなくても、少なくなればそれでいいさ。この時の俺は楽観的に考えていた。




