第104話:出発
「ああ、やっと帰れるんだな……」
「お前の疲れは段違いだろうな。俺達とは……。って、あれ?あれは確か……」
「何か用か?トップランカー殿」
「ひどい言いざまだね……。あれだけ激しくやりあった仲でしょ?」
「誤解を招きそうな事を言うな……。それでどうしてそんなとこにいるんだ?」
「いや、単純に私もそろそろ戻った方が良いかな?って思ってね。これでも私は元『勇者』だからね。記憶は無いけど」
それを言われると、さしもの俺も何も言えなくなるな。そういえば今更だけど、俺のこの人の名前知らなくね?
「今更ですけど、貴方のお名前は?」
「うわ~。本当に今更だね?うーん、元の世界の名前でいいかな?」
「覚えていらして、それを俺達に告げても構わないなら。俺達は一向に構わない」
「私の名前は泉。花園泉。元の世界ではそこそこの名家の生まれだった」
「花園って……」
俺達の世界じゃそこそこどころでは無い。もう上から数えた方が早いような、そんな上位ランクの御家じゃないか。
これは驚いたな。たしかにその桁違いの魔力量も少々、だが納得はいく。『魔王』に目覚めた時、俺を動かしていたのは復讐という感情のみ。
そして、そのために俺は力を使って情報を集めた。人には知覚できないけど、精霊は存在した。俺はそれを自由自在に動かし、情報を集めた結果ある事が分かった。
いわゆる名家に所属する人間は、その全員が強力な霊媒として機能するために魔術師となる事が。俺はそいつら全てを皆殺し――――にしようとしたが神様に止められたんだよね。
「……今更だけど、お前の人生は俺にはついて行けないよ」
「まあ、それはどうでもいいんだけど。今更復讐とかどうでもいいし。取り敢えず、俺達に同行するという事で?」
「さっきからそう言ってるじゃん……。それに君について行った方が、闘いに参加できそうだしね。『聖騎士団長』のいるパーティーとか面白過ぎるよ」
「そうなったら、我が妃も起こすしかなくなるな。それに貴様を見送った娘に顔を合わせよ」
「……それぐらいは覚悟しています。私は、百年の時間に決着をつけたいんです」
「覚悟ができているのなら構わん。それでは全員馬車に乗れ」
俺達は馬車に乗ったが、花園さんは自分の乗っていた馬に乗っていくつもりらしい。難儀なもんだな~。……百年の決着、か。
「俺には、重いな」
「ん?なんか言ったか?」
「うんにゃ。なんでもねえよ」
セイバーとカリアは心配そうな顔をしていた。俺の独り言が聞こえたんだろう。俺は二人の頭を撫でて、微笑を浮かべた。
帰り道にわざわざ心配をかける必要はないだろう。後顧の憂いなく、俺は馬車を発進させた。




