第98話:決勝
準決勝、これはもう語るまでもないぐらいに弱い奴だった。他の人には、君の相手が強すぎただけだから。と言われたけど……なんか納得いかない。
そんな訳でいきなりの決勝から始まる。相手はあの俺に話しかけてきた男性だ。どうも格闘術を得意としているようだったので、近接戦闘用の天剣を身に付けた。
「ほう?何時の間にそんな武器を?」
「そんな事が重要なんですか?相手が目の前にいる。それならただ戦うのみ、でしょう?」
「ハハハハハッ!確かにその通りだな。しかし、小僧が我の相手とは運命的な物を感じるな」
「そんな事は関係ない。俺はただ己が求める物の為に戦う。そのためなら、障害などいくらでも叩き潰す」
「……もう言葉はいらぬな。それならば」
「いざじんじょうに」
「「勝負」」
拳同士が衝突する。魔力を充足させているため、周りに魔力が広がって、急激な空気の変化に全体に爆発が起こる。
「……ふむ。この拳でも倒れぬとは」
「これは、聖系統の術式。しかも、本来は防御に使われる物を攻撃に転用するなんて」
「「面白い」」
「小僧と侮るべきではないな。小僧、貴様の名はなんという?」
「ヴァルフェイル王国に召喚されし『勇者』。クロヤ・テルミヤだ。貴方の名は?」
「『天剣士』アガーシャ・ダルグだ。見たところそれも天剣の様だが……?」
「これは全並行世界に存在する『天剣』ガーラントのオリジナル。その偽物とは格が違う」
「ほう……。オリジナルか。それは楽しめそうだな!」
俺達は拳をぶつけあい、蹴りを放ちその攻撃をかわし、とまるで言葉ではなく拳を介して魂で喋っている感じだった。
我ながらおかしな表現だとは思うが、それでもこの表現が一番しっくりするんだよな。両方の体力が結構限界に来た時、ついに口を開いた。
「……次で決めます。これ以上はジリ貧だ」
「……いいだろう。それならば、我が全力で応えよう!」
『其は雷帝の一撃』
『全ての守護を司りし絶対の光よ』
『全ての敵を撃ち抜き、我に勝利を』
『我に襲いかかる災厄を、跳ね返す力を』
『雷帝一迅』
『絶対聖域』
俺の右籠手に槍状の雷が生成され、そして俺の髪の色も風の力が最も強くなる『緑』色に染まった。そのおかげもあるのだろうが、雷の威力が上がった。
対しダルグさんも、聖属性の衣を纏った。あの衣の能力は『反射』。この一撃で貫けなければ、こっちに威力が返ってくる。
こちらの攻撃と相手の防御術がぶつかった。その瞬間に起こった轟音によってこちらの鼓膜が潰れた。それは回復魔術でどうとでもなる。
問題は、威力がまったくの互角だった事だ。これじゃあ、防御陣を破れても俺の渾身の一撃が届かない。どうすれば……!
『偶に我々も頼ってくれよ』
グレイブ?一体何を……?
『雷は我が眷属。我が威力を上げてやる』
……有難く受け取っておくよ。そしてグレイブの力が組み合わさった事で、雷がまるで倍加したかの力が宿った。
「何だと……!?」
「ぶち抜けえええええええ!」
ドォォォォォォォォォォンッ!そんな甲高い音と共に、防御の術を打ち破り雷撃の槍をぶつけた。それを浴びたダルグさんは吹き飛んだ。
「ガハッ!……あっぱれ、だな」
それだけを告げると、ダルグさんは倒れ込んだ。しっかし疲れたな……。俺は地面にへたり込みながら、そう思っていた。




