第94話:初戦
開幕式が終わったとは、指定された待合所で自分の出番が来るまで待っていた。とはいえ、二回戦からの出番だったからすっげえ暇だった。
室内は凄いピリピリしてるしな。いくら本戦とはいえ、これは緊張しすぎなんじゃないか?
「ん?そろそろ出番か」
俺が部屋から出て殺気試合を終えた人とすれちがうと、その人が喋りかけてきた。凄い筋肉質な人だった。しかも背も高え。
「お前みたいな子供も参加するのか?」
「子供だからって侮らないでくださいよ?慢心は敗北につながりますよ?」
「はははは。違いないな。試合、頑張れよ」
「ありがとうございます。それでは、失礼」
俺が試合のステージに上ると、そこにいたのは紳士然とした男性だった。武器は……弓矢か。また珍しいな。
「君が対戦相手かい?」
「ええ。初めまして。クロヤ・テルミヤと申します」
「私はアルゼン・ダグラス。見ての通り、弓使いだ」
そこで同時に試合開始の合図がなったが、両者動こうともしなかった。観客がそれを不審に思っていたが、そうじゃない。あまりの闘氣に二人とも驚いていただけだった。
「クククッ。これはなかなか期待できそう」
「それもこちらのセリフだよ。少年と見て少々侮っていたが、訂正しよう。君は全力を出すに値する人間だ」
「ありがとうございます。それじゃあ、俺は取っておきのショーを持ってお相手いたしましょう」
「ショー?サーカスでもする気か?」
「我がサーカスにおいで下さいました皆様。我が魔獣のサーカスをお楽しみください」
「何、だと……?」
「来い、ケルベロス!」
俺の足元の影が広がり、そこからはい出るように三つ頭の魔獣が現れた。観客達からはどよめきが広がっていった。
「我がサーカスには多数魔獣を取りそろえておりますので、ご堪能下されれば私共は満足です」
「……やってくれるね。こんな事を出来る人間はいるとはね。AAランクの魔獣をいとも容易く使役するなんて。面白いじゃないか!」
ダグラスさんは弓に矢をつがえると、一気に弦を絞った。そして狙いをケルベロスに定めた。だけど、ただの矢じゃケルベロスは殺せない。
そう思っていると、矢にだんだん氣が注入されていった。そして気づくと、とてつもない量の氣が矢に宿っていた。これでも神話魔法に匹敵するレベルだぞ!?
「なんて人だ……。生気を矢に注ぐなんて……一歩間違えれば死んじまうぞ?」
「承知のうえ、ですよ。これ位あれば、その犬も殺せるでしょうから」
「サーカスの目玉を殺してもらっては困りますね……。それじゃ、交代」
ケルベロスは影に呑みこまれ、またその姿を消した。そして今度は――――
「龍だと……?そんな馬鹿な!?」
「我がサーカスのとっておきをお披露目するとしましょうか!この子はね。俺の飼育する魔獣の一体。轟龍ですよ」
「一級災害指定とされる魔獣じゃないか!?そんな物を育てるなんて……正気じゃ無い」
「失礼な。それは野生の龍の話でしょう?大体この子は俺に危害は加えない。龍は基本的に己よりも上の存在には手を出さない。強き者こそが全てだからだ」
「そういう問題ではない気がするが……?関係ないな。これでも喰らえ、轟龍!」
ダグラスさんから強烈な一撃が放たれたが、咆哮で威力を削ぎ落し中級魔法クラスにまで落ちた矢を上から踏みつぶした。
「どうします?まだやりますか?」
「いや……そんな化け物を従えている君には勝てる気がしない」
「降参しよう。私の敗北だよ」
そこで試合は終了。俺は轟龍を影の空間にしまい、そしてフィールドを降りて室内に戻るとさっきの男性が話しかけてきた。




