序章 Marionette
私は、悪魔と契約した。だから私は殺すのだ。
――あの人を救う為に……。
そしてまた、一人の命が奪われる。あの人の為に――。
夕日差す森の中、一人の女と、その向かいには、座り込んで、震えている男がいた。
「ねぇ、お前。あの人の為なんだ、協力しておくれ」
鈴のような声で女は言う。長い黒髪が、風に靡いて、まるでそれは、
羽を落とされた天使のようだった。持っている剣を、男の喉元に突き立てる。
「……俺はっ、嫌だっ……。見ず知らずの奴なんかに……!」
女が剣を突き出した。
「見ず知らず……?」
女の顔色が変わった。その矯正な顔には、凄まじい怒りが湛えられている。
歯を食いしばって、顔が歪んだ。
「お前が……っ、お前が殺したくせに……!あの人を追い詰めて!!」
女が剣を翻した。男の喉元から、深紅が噴きだした。
男が何か喋ろうとするが、ゴボ…と音がするだけだった。
女は、血の付着した剣を、天に翳す。そして、言った。
「これで…13人だ。お前との誓いは果たした……!あの人を解放して!!」
空から…地から、どちらともつかないが、声がした。
「そうだな…いいだろう。お前も…アイツも、別の世界に解放しよう」
顔が、青ざめた。
「そんな…聞いてない!!」
世界が、曲がる。気持ちが悪くなって、女は目を閉じた。
腕が引っ張られるような、そんな感じがした。目を開けて、そちらを見ると、
あの人がいた。あの人は笑って、女の腕を摑んでいた。
「う…あああああぁぁぁぁ!!!!」
けれど、女は恐怖した。
”あの人”の後ろにはアイツがいたのだ。女がさっき殺した、アイツが。
女の意識は、そこで途絶えた。
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