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第三部



 「……で。

自分は強くないからと、俺との戦いを放棄するのか?」


魔王のクセに。

最後心に思った言葉は言わないことにした。

いや、魔王だからだろうか。

魔王だから、小汚い手段を何策も用意しているのかもしれない。

油断したうちにグサリ、なんてことがあってもおかしくない。


高まる緊張を押し隠すように、勇者は魔王を見つめた。

が、対する返答は拍子抜けするものであった。


「いや、実際お前と戦うつもりは毛頭無かった。


最初に言ったであろう。よく来てくれた、私と手を組まないか、と。

私は目的のためにお前の力をかりたいのだ。


そのためならば、私は己の身をお前に売るつもりだ。

目的が済み次第、煮るなり焼くなり強姦するなり、好きにすればいい」


最後のはいらないのではないか、と一瞬思ったが、彼女の瞳から目が離せなくなり、思考を止める。


魔王の意志は固い―――そう思わざるをえなかった。

彼女の瞳の奥に感じる強い意志。

いくら勇者が鈍い存在だとしても、それくらいの事とはわかった。

だが、


「俺は勇者だ。人間達を救うために、お前を倒さなければいけない」


「そのためならば、私や、魔物たちを殺してもいいと?」


殺す――嫌な言い方をするな、と思いながらも彼は答える。


「必要とあらば」


「魔物も、生きているのだぞ?

皆が皆、人間の集落を襲っているようなものばかりではない」


「………しかし、そうしなければ人間はずっと不幸なままだ」


勇者が旅に出る前、勇者となると決意したときに教わった魔物たちの悪事の数々。

自分が勇者でなくとも、どうしても見過ごせないものがあった。


それに反して魔王は可愛らしい顔をしていながらも、つまらなそうに吐き捨てた。


「ふん。

人間も小ざかしいまねをする」


肉体と顔が一致しないような外見。

そんな容姿で、彼女は大人びた、少し逆らいがたい何かを感じさせる口調で呟く。

それに勇者の火がついた。


「なんだと……?」


「天賦の才がある純粋な……いや、単純馬鹿を勇者に選び、魔王を消し去ろうという魂胆か。

己の手を汚さずに」


「なに……俺は単純馬鹿ではない!」


「そこに突っかかってくるのも単純馬鹿の証拠だ。

そもそも、自分が勇者に選ばれるという時点でおかしいとは思わないのか?」


「う……」


魔王の一言に何も言い返せなくなり、ついた火が消されたような気がした。



最初は、なぜ俺が? とも思った。

だが、だんだん話を聞いていくうちに勇者は自分にしかできない大役だと思い、引き受けたのだ。



心中察するかのように魔王が口を開く。


「上手く丸め込まれたか。

そういえば、お前は我等を殺しつくさない限り人間は不幸になる、といったな?」


「そうは言っていない」


すかさず反論する勇者に、彼女は間髪入れず続けた。


「似たようなものだ。

ならば問うが、魔物が人間の集落を襲い、人々を殺したらお前はどうする?」


「倒しに行く」


「では、何もしていない魔物を、人間の勝手な都合で大量虐殺されたら?」


「………」


答えられない勇者に、魔王は口角を上げた。


上手い具合に乗せられているとは気づかずに、勇者は下唇を噛む。


「おや。勇者とは正義のヒーローではないのか?

それとも、お前は種別に差別をするのか?」


「違う! 俺はそんなことはしない!」


「そうか、なら」


彼女は不適に笑む。


そして、全てが計算通り、とでも言うかのような表情で、言った。






「人間も魔物も幸せにするために、私と手を組まないか?」




それに押された勇者は、答える。




「…………とりあえず、話を聞こう」




それに魔王は、その顔に似つかない、酷く妖艶な笑みを浮かべた。






次回、魔王と勇者の名前がやっと!

お気に入り登録ありがとうございます。

紅月 空様、vaz様、感想ありがとうございました!

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