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第一部

突発的に書いてしまった作品です。

暇つぶし程度にでも読んでくださったら幸いです。



 酷く美しい、妖艶な容姿を持つ、だがその顔は実年齢よりも幼く見える齢16の少女がいた。


漆黒の長い髪に、全てを見透かしているかのような青い瞳。

頬は淡いピンク色をしている。そして形の良い唇。

出るところは出て、締まるところはしまっている、まさに女が求める肉体美の持ち主。

どちらかといえば華奢な方だが、年相応の男ならば目の行かないものはいないだろうと予想されるほど、彼女の大きな胸は強い印象をあたえた。


髪と同じく、漆黒のドレスに身を包んだ彼女は、水晶に映る男を見て微笑む。


彼女は魔王だ。

世界を畏怖いふで支配する、唯一無二の存在。


彼女の視線の先、水晶の中には一人の平凡そうな男がいた。

平凡だが、右腰に柄の良い剣をおさめ、胸を張り歩くその姿は堂々たるもの。


表情はキっと引き締まり、前をこれでもかと言うほど見据え、大地を踏みしめ歩行する。


純粋で、正しいと思ったものは絶対貫く、いわゆる熱血。

人間の勝手な解釈を押し付けられ、それでも希望を託してくれた皆に報いようと必死に目的を遂行しようとする、魔王にとっては愚かな生物、勇者。


「もう少しで勇者が来る……」


自分を倒しにくる、つまりは自分の邪魔者でしかない勇者という存在。

だがこの魔王様は、勇者にとても興味があった。

一刻も早く、勇者にあいたかったのだ。







   ▼▼▼







「うぅっ、寒っ」


一瞬、寒々しい視線を感じて、勇者は身震いした。


「誰かが俺の噂でもしてんのかな?」


いくら勇者といえど彼の実年齢は17。その軽い口調と外見を裏切らぬものだった。

茶色い、すこし寝癖のついた短髪。170センチいくかどうかの、男性にしては少し小さめの身長。

右腰には代々勇者にのみ伝わっているという紋章のついた、美しい剣。


彼は驚くほどの良い姿勢で、淡々と歩を進めている。


「着いた……」


彼が見上げる視線の先には、魔王の城と呼ばれる、絶壁の崖の上に立つ高い塔。

周辺にはまがまがしいオーラが放たれている。彼は生唾を飲み下すと、魔王の城に足を踏み入れた。


中に入ると、いつの間にか立ちはだかっていた魔物に目がいく。

紫色の、血色の悪そうな肌の色に、細く、つりあがった瞳。

醜く歪むその口元から見える、とがった牙。


「ウッシェッシェ、人間だ人間!

美味そうな生肉だぜ! ヒャッハーッ」


汚らしい、頭の悪そうな言葉と共に、我が身を投げてくる魔物。

それに微動だにせず、彼は―――。


「ヒェ?」


最後。

魔物は小さな声をもらし、上半身と下半身が真っ二つに切り裂かれ、緑色の血しぶきを噴出しつつ地に倒れ付した。


―――微動だにせず、ではない。

ただその動きが早すぎて、見えなかったのである。


彼は魔物が飛びついてきた瞬間、右腰の剣をすばやく抜き、見事としか言いようのない剣術で相手の肉体を真っ二つに斬った。

そして二度ほど剣を上下に振ると、剣についた気色の悪い緑の血を払い、また剣を鞘に戻したのだ。


どれだけ鍛錬しようと、才の無い者にはできない芸当であった。

彼は無残に散った、大きく目を見開きながら倒れている魔物の肉体を見ると、苦虫を噛み潰したかのような表情をして一言呟く。


「糞っ。魔物のクセに生意気な」


それは先程のような少年らしい口調ではなく、憎悪の対象であるかのごとく、低い声で呟かれた。


そして、視線を前に戻すと、また歩き始める。

緊張気味に、だがしっかりと。


それもそのはず。

この先には待ちに待った、魔王がいるのだから。

人間達を長く苦しめ、それを見下し高らかに笑っているであろう魔王が、突如現れたただの人間でしかない若造に倒される。


それほど滑稽なものは他に無いだろう。


勇者は緊張と、自分が返り討ちに合うかもしれないという不安。


この手で、悪の元凶を滅ぼせるという嬉々とした感情。


魔王の姿を見れるという期待を抱えながら、前を見据える。

きっと魔王のことだから、他の魔物たちと比べ数倍大きく、醜く、小汚い性格をした闇の塊のようなものなのだろうと推測する。


彼は小さく深呼吸して、己の感情を閉じ込めるかのように、また歩を進めた。







 予想に反して、うじゃうじゃいると思われた魔物は少なかった。

罠ではないかと、意識を集中させながら、目の前にある扉を見る。


ほかと比べて豪華な扉。

おそらくこの中に魔王がいるだろう。


またあふれ出しそうになる数々の感情を押し込めるかのごとく、彼は扉を開いた。


が。


「おう勇者よ! やっときたのだな!?」


目の前に立ちふさがるは、己よりも少し年下くらいの、華奢な少女。

彼女は漆黒の衣類に身を包みながら、嬉しそうに駆け寄ってくる。


「間違えました」


勇者は一言言うと、その豪華な扉を勢い良く閉じた。

―――爆乳美少女を幻覚で見てしまうほど、俺は欲求不満だったのか……!?

確かに長らく女との縁は無かったとはいえ、これほどまでに欲の強い男ではなかったと自負していた。だが、現にあんな少女の幻覚を見てしまっては、顔と肉体の反比例するロリコンワールドへの欲全開ではないか。


彼はその一瞬の出来事に頭を悩ませながら、真の魔王のいるであろう部屋を探した。





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