第二十六部
場所は変わってシンガータ王城。
丸三日かけ、シンガータ国の中心に位置する城までたどりついた。
今回は人数が劇的に少なかったから、これだけ早く行動できるのだと、クロイスは言う。
もう少し人数が増えれば、それだけ行動に時間がかかるのだと教えてくれた。
クロイス曰く、リネイラントと彼女の育ての親は、城に滞在しているらしい。
戦場になるということもあり、彼女等は事前に城へ迎え入れられていた。
民のことにはお構いなし、という王ではないことを知り、フレイアは若干の期待と同時に安堵した。
こちらの話を聞こうともせず、門前払いするような王でないことは確かだと確信を持ったからだ。
クロイスは、リネイラントを呼んでくるといって、ライトリーク一行を部屋に待たせ、出て行った。
「ライトリーク」
フレイアは小声で相棒の名前を呼ぶ。
ん、と相槌をうち、こちらを見てくれる彼は、何も考えていないような、能天気な表情だ。
「城というものは、こういう風なつくりになっているものなのか?」
「は?」
「あ、いや……他の城や王宮といったようなところに足を運んだことがないから。
…………私の住んでいた城とは大分、雰囲気も構造も違う」
「あー、そっか。フレイアはそうだったもんな。
その土地によって構造は少なからず違うよ。文化や習慣がちがうからな。
お前の城は縦にでかい、塔みたいな城だったけど、ここはどちらかというと横にでかい。フレイアんところは禍々しい色合いだけど、ここはどちらかというとハッキリした、明るい色。
そういうところだけ見ても、はっきりと違いがわかるだろ?
まぁ、魔族の城と人間の城と言ったら違いも何も――――うわっ!?」
ダンッ、という鈍い音と痛みによって、ライトリークの言葉がさえぎられる。
「う……ぉ、おまっ、いきなり足踏むなよ!」
悲痛の叫びに、同室で待たされているメリア、フェラル、カリナが順に言葉をかけた。
「今のはライトリーク様に非があります。まだ、このような場所で軽々しく話していい内容ではなかったと思いますが」
「うーん、メイドさんに一票」
「ふぇ、フェラルさんッ……駄目ですよ、そんなこと言っちゃ」
全員一致で軽々しく魔族だの人間だのと言ってしまったライトリークの負け。
「まぁ、確かにまだ、軽々しく言っちゃ悪い内容だったな」
自分の非を認めつつ、しかめっ面をするライトリークの横で、フレイアは秘かに微笑した。
それはあまりに可愛らしく、しかし妖艶で、それでいて繊細な笑顔。
メリアとライトリークの言う『まだ』とは、後に軽々しく口にしても困らないような日がくると信じているという意味でもある。
物心ついたときから一緒にいた身内のような女性が、絶対的信頼を持っていてくれる。
敵対していたはずの男が、同じ目標を目指して、後ろでもなく、前でもなく、隣を歩いてくれる。
それがどれだけ、彼女にとって嬉しいことだろう。
まだ、ライトリークにそれを知る由はない。
だが、隣で微笑む女性を横目に、つられて彼も笑った。
刹那。
ドン、という大きな物音を立て、扉が開かれた。
焦ったような足音と同時に、一人の男が中に入ってくる。
反射的にライトリークは剣をつかみ、フェラルはカリナの前に立つ。
数秒。男は扉を見据え、ゆっくりと息をはいた。
「やっと行ってくれたか……」
ほっとしたような声色で呟くと、こちらに振り返る。
男の大らかそうな表情が見える。
豪華な服装の胸元にはシンガータの象徴である逆十字架のようなマークがある。
銀色の短髪に、大らかそうな、どこか気品を感じさせる面立ち。
彼はこちらを見るなり一瞬驚いたが、状況を理解したらしく、俄に微笑んだ。
「あ、君たちがお客様だね?」
フレイアはこの事からすぐにこの国の王、もしくは高位権力者だと判断し、ライトリークに目配せをする。
ライトリークは数秒の間をあけ、フレイアの意図を察した。
「リネイラントなら、もう少し時間がたたないとこないと思うよ~」
ゆったりした口調で言うと、彼は部屋の中にいる五人をカリナ、フェラル、メリア、フレイア、そしてライトリークと、順に見た。
と、思いきや顔を引き締め、堅苦しい口調ではっきりと全員に聞こえるように言った。
「私の名はシンガータ・フィルセシル。先日の小戦争の時、貴公等の助けによって敵が後退したと聞いた。そのおかげでこちらが受けると予想していた被害が減少した。この国の王の座に着くものとして、礼を言う」
テストのため、更新がかなり遅れてしまいました。申し訳ありません。
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