第二十二部
同時刻。
レイアント国の国境を難なく越えてしまったライトリーク等は、元・ライトリークの仲間であるリネイラントを探しにきていた。
フレイアの手に入れた情報どおりならば、リネイラントはリアドリル国とシンガータ国の国境付近の草原に住んでいるらしい。
彼女がライトリークの仲間から外れたのは、育ての親である婆さんが病気にかかったのが原因らしい。「おばあちゃんが大変にゃの!」と言う言葉が、ライトリークと彼女が交わした最後の言葉だったかもしれない。
「ところでライトリーク」
リアドリルとシンガータの国境付近の草原めがけて歩いていると、不意にフレイアが話しかけてきた。
もちろん皆歩いている中、一人だけ浮遊の魔術を使いながら。
「なんだ?」
「そのリネイラントという女は、どういう者なのだ?」
その問に、ライトリークは苦虫を噛み潰したかのような表情をした。
後ろではフェラルが笑いを必死にこらえている。
「…………自称、魔女だ」
「は?」
「だから、自称魔女なんだよ」
「…………それは、どういった系統の?」
「詳しくはわからない。フェラルのほうが詳しいんじゃないのか?」
「え、僕?」
突然話を振られたフェラルは一瞬驚くような顔をして、すぐに上がった口角をなおした。
少々考え込むようなしぐさをすると、リネイラントについて語りだした。
「リンちゃんはねぇ……ちっちゃい子だよ」
彼の言うリンちゃんとは、リネイラントの「リ」と「ン」をとった、あだ名のようなものである。
「滑舌が悪くて、ちっちゃくて、子供みたいな女の子。言葉のほとんどを噛むか言い間違えるかする愛嬌のある子だね。彼女のことを一言で表すなら、萌え…………あ、ちょっと待って、おいてかないでっ」
昔を思い出すかのような表情で(気持ち悪い顔とも言う)語るフェラルをおいて、ライトリーク、フレイア、カリナ、メリアの4人はすたすたと前進する。
「カリナ。お前あんな男のどこがいいのだ?」
「…………さぁ」
「ちょ、カリナまで!?」
順にフレイア、カリナ、フェラルが言う。
「あいつは、元から残念な奴だった」
「そうですか……それは残念です」
「君等にそう思われたら終わりだから!」
メリアとライトリークに『残念な奴』認定されるという屈辱を受けつつも、フェラルは走って追いかけた。
フレイアが聞きたかったことについては、誰も知っていなかった。
フレイアが知りたかったこと。それは、どんな能力の持ち主かということだ。
▼▼▼
クロイス率いる約600人程度の小隊。
向かうは、あの《紅魔・ドラベル》含む1000人の騎兵団。
小隊と小隊がぶつかる。
クロイスの率いるシンガータ軍に勝ち目はほぼゼロと言ってもいいほどだ。
まず、600人対1000人という時点で無理がある。
計算すれば、こちらは一人で約二人と対峙しなければならないのだ。
クロイスはシンガータ王城からシンガータ国境付近への出発前、ベレイクに問うた。
『こんな少人数で勝てると思っているのか!?』
それにベレイクは首を縦にも横にも振らずに、ただ、
『陛下を信じろ』
とだけ言い、出発命令を下した。
陛下をもちろん信頼しているし、ベレイクを疑うこともない。
だが、クロイスにはどうやってもこの現状で勝ち残れる気がしないのだ。
おそらくクロイスは《紅魔・ドラベル》で手一杯だろう。他の兵等には頑張ってもらわなければいけない。
頑張る、というレベルの話ではないが……。
それでも、勝たなければいけない。
クロイスは大きく息を吸うと、全軍に聞こえるような大声で叫んだ。
「気合を入れろぉおおおおッ!」