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第二十一部






「陛下! 申し上げます!

リアドリル国、第三番隊騎兵団がシンガータ国に向け、行進を開始しました!」



突如ノックなしに入ってきた兵士が、フィルセシルに向け言い放った。

それに、フィルセシルは一瞬の沈黙を得て、答える。



「わかった。

こちらも臨戦態勢に入る! 兵士等にはいつでも出発できるように、常時体勢を整えておくように伝えろ。あと、ノックしてよ」


「はっ、では失礼します!」


「やっぱ無視ですかコノヤロー」



その言葉に、くくくっと笑う音が聞こえる。

笑い声の主のほうを見ると、やはりベレイクだった。


彼は今日、朝っぱらから警備という名の見張りをしていた。

表向きは王の警護。

実際はおそらく、フィルセシルが書類の片付けをさぼらないように見張っていることが目的だ。


しかし、すでに戦争が開始されているも同然のこの状況で仕事をサボる程、フィルセシルも怠け者ではない。


だが、厚さ30センチ超もある書類の山を見つめると、やる気も失せる。



「はぁあああ~」


「陛下」



不意に声をかけられ、フィルセシルは「ん?」と返事をする。

それに声主のベレイクは、ただでさえやる気の失せている王に追い討ちをかけるように、現在の状況を事細かく説明し始めた。



「現在、レディナルスは行動を開始しようとはしていません。

しかし、リアドリルはこちらへ第三番隊騎兵団を向かわせています。

おそらくあと二日前後で、騎兵団はこちらへ到着するでしょう。

我々もゆっくりしている暇などありません」


「うーん、わかってるよ?」


「それと…………」



言い難そうにベレイクが口をもごもごさせる。

それを不審に思ったフィルセシルは、



「いいから話せ。今は一刻の時間も惜しい状況だ」



と、いつもの適当な雰囲気からは考えられないような、威厳に満ちた威圧感のある言葉を発する。


それにより、意を決したベレイクが言葉を続けた。



「陛下は、今回のリアドリル第三番隊騎兵団を相手に、どの程度の戦力を送るつもりですか?」


「そうだね……。

まだリアドリルには戦力が残ってる。レディナルスも未だ動いてはいないから、あまり大きく戦力は分断できない。あちらの三番隊は一番数の少ない1000人程度の騎兵団だったはずだ。こちらも少数で動こうと思っている」


それは、正論だ。

敵が未だ多い中で、初端から戦力を大きく消耗しては、後の戦に敗北を迎えるも同然。

向かってくる敵より、少々多い程度の人数で攻めるか、どこかで戦略を練り、700程度の少人数でなんとか切り抜けるか。


効率の良い戦略だ。

ただ、それは一般騎兵隊だけに限る。



「リアドリル三番隊騎兵団の中に、《紅魔こうま・ドラベル》がいます」


「なっ……! たった一人で10もの隊を殲滅した、あの《紅魔・ドラベル》が?」


「はい。彼が戦場に立てば紅のごとき血が地を覆い、一瞬で視界までも紅く染める。容赦なく敵に血を噴かせる紅き魔、ドラベル・リオンです」



その言葉に、フィルセシルは驚愕する。

言葉を失った。


一般的な騎兵団だけであれば、こちらも戦術次第で普通に勝てるのだ。


しかし、《紅魔・ドラベル》がいるならば話は一転する。


こちらが一般兵を、圧倒的な数差にまで積まなければ、敗戦する可能性がとてつもなく高い。

もしくは、《紅魔・ドラベル》と同等かそれ以上の能力を持つ者を戦場に送り込むか。


――――いや、まだその時ではない。


フィルセシルは一度思考を制止し、小さく深呼吸した。



「戦争においての勝利は、目の前の敵を倒すだけじゃないんだよね」


「はい、フィルセシル陛下」


「頭はもっと柔軟に動かさなくちゃね」


「何か、考えがおありですか?」


「成功する確率は、さっき考えていた事柄よりも大きいけど、レディナルスあたりに途中介入されたら終わりかなぁ……」



その言葉に、ベレイクが問う。



「それは、どのような戦術で…………?」







その日シンガータ国から、約600人程度の小隊をリアドリルに向け出発させた。

小隊長の名はクロイス。

《荒地の女剣士》と呼ばれるようになるのは、まだ先のこと。








次話、ライトリーク側の話を進めます。


ちなみに余談ですが、ベレイク24歳、フィルセシル26歳です。この国は若すぎる者が政治を行なっていますね(もちろん大御所もいます。後に登場予定)

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