第十六部
刹那の沈黙がその場に流れ、やがて口を開いたのはやはり、ライトリークだった。
「俺たちは今、反乱を起こそうとしている」
静かに、しかし気迫をこめた言葉を発するライトリーク。
彼はフェラルの反応がないことには気にもせず、そのまま言葉を続けた。
「俺とフレイアは、世界に変革をもたらそうとしている。
力のある者だけが生きれる世界ではなく、弱きものも、皆が幸せになれる世界だ」
「待て」
「なんだ?」
反応を示さなかったフェラルだが、ライトリークが言った瞬間、続けることを制止した。
それにライトリークが問う。
フェラルは答えた。
「そのような発言は、その世界の一部を統べる国王陛下に対する侮辱となる。
それに君は十貴族で、八神家の者だ。
安易な発言は慎んだ方がいい。どこで誰が聞いているかも知れん」
「承知の上だ。
俺も、この国の政治が悪いといっているわけではない。
だが、いくら国が平等と安泰を目指したところで、それを善しとしない豪族達が荒れ狂うのもまた事実。
それに国王陛下は所詮国王陛下。国しか変えられない。
他の国で苦しむ者はどうする? 国の長が皆平等と安泰を目指しているわけではないのは知っているだろう。
ならばいっそ、何にも縛られていない俺たちの手で世界を変えてやろう、と言う話だ。
世界改革を始めようとしている今、俺はもう、レイフォント国の民ではなくなるしな」
ライトリークにしては、上出来すぎる回答ではないか? フェラルはそんなことを思うのだが、一緒にここへ来た少女のことを思い出し、すぐに納得する。
それよりも先にフェラルが気になるのは、どうやって世界を変えるのかと言うことだ。
まだ、もう一度仲間になると決めたわけではない。
それに、フェラルにはカリナという守るべき女性もいる。この話をすぐに承諾してしまっては、自ら進んで危険に染まるに等しい。
彼はライトリークの目を見ながら、疑問に思ったことを問う。
「国を裏切り、世界を統べるのかい?
王族でもない君は王位継承権を持たない。つまり国の長にはなれないんだよ。そんな状態でどうやって世界を統一する?」
「それは…………」
ここはフレイアに助言されていないのか、ライトリークは言葉に詰まった。
だが、すぐに沈黙は終わることになる。
「新しく国を作る」
凛と澄んだ、綺麗な声が、フェラル達のいる空間に響いた。
「フレイアさん!?」
驚いたように、ずっと黙っていたカリナが声をあげる。
それを気にも留めず、フレイアはライトリークの隣に座った。
後ろでは空気のようにメリアが立っている。
「私とライトリークは世界を変える。
そのためには先に、今あるこの世界を壊さなければいけない。
壊すために、国を作るのだよ」
「…………どういう意味だい?」
フェラルがいうと、フレイアは小さくため息をつく。
「今の世界で苦しんでいる人や魔物は、なんだと思う?」
「は?」
「苦しみからはたくさんの負の感情が生まれるだろう。
悲しみ、痛み、辛さ、憎しみ、悪意、嫌悪。
この感情は醜いだろう?」
「そうだね……」
「だが、この感情をすべて、私は持っている。おそらくお前も、カリナも、メリアも、ライトリークも。
それが生き物だ。
そんな感情を強く持った生き物が、この世界にどれだけいると思う?
それでなくても、この世界の定めに不満を感じ、明日の幸せを願っている者も多い」
「つまりは……」
「ああ。
お前はどこぞの馬鹿と違って物事の吸収が良くて助かる」
「おい、それは俺のことを言ってるんじゃ……」
「そう。フェラル、お前が察するように―――」
ライトリークの反論も、すぐにフレイアに重ねられた言葉によって途切れた。
「その不満を感じている者、明日の幸せを願っている者を皆仲間に引き入れ、一つの新たな国を作る。
そして、今のこの世界に対抗するのだ。
そのためにはこの馬鹿のような、実技においての強者が必要になる。
医療や守護に長けた者が必要になる。
知識に長けたものが必要になる。
たくさんの同胞とでも呼ぶべき存在が必要になる。
故に、今こうして仲間集めの旅……とでもいっておこうか。仲間集めの旅をしているのだ」