第十四部
「では、魔術を解くぞ」
「あぁ……」
フレイアの言葉に答えたライトリークの顔には、緊張がにじみ出ていた。
フェラルも、その整った顔の眉間にしわを寄せ、ライトリークを見つめる。
スゥーっと風が吹いたかと思うと、次々に兵や村人たちは目を覚ましだした。
そして、わけもわからず武器を握ると、近くにいる敵に襲い掛かる。
自分が死なないために、相手を殺しにかかる。
「静まれ!!」
突如、ライトリークの大きな怒声が、その場を制した。
戦い始めようとしていた者たちの視線が、一点に集中する。
辺りがその言葉通りに静まり、ライトリークを中心に澱め気が走った。
村人達は、少しの時間を得て、ライトリークが少し前に訪れた‘勇者’であることを認識する。
兵等は気づかないようで、誰だ、と口々に言い合う。
先ほどフレイアに言われた言葉は、こうだ。
『十貴族だったら、息子だとしてもそれなりの発言力があるはずだ。私が言うとおりに発言し、事を進めろ』
まず、自分が十貴族の息子で、八神家の次期当主候補だということを告げる。
このことによって、自分が身分の高い者だということを分からせ、発言力を大きくする。
次に戦闘をこれ以上続けるようであれば、自分にも考えがある、と脅しをかける。
最後に領主の今までの数々の行為と村で起こった反乱を一字一句間違えずに報告すると告げる。
領主側にも後ろめたいことがあるし、村人には反乱を起こしたという(理由がどうであれ)国に逆らうような行動をしている事から反逆罪の罪に問われる可能性が大きい。
この時、報告を拒んで暴力によってライトリークに被害をくわえようとするのならば、その者を気絶程度に叩きのめす。
最低限この3つを告げていれば、迂闊な行動ができなくなるだろう、とフレイアは言った。
そして、後はお前の気持ち次第だ、とも言った。
その意味を、しっかりとライトリークは受取ったのだろうか。
それは彼の言葉を聞かないと分からないことだ。
ライトリークは一度深呼吸すると、村全体に聞こえるような大きな声で、言葉を一つ一つしぼり出していく。
「我が名は八神・ライトリーク!
十貴族である八神・ラルフォンスの息子であり、次期八神家当主候補である!」
第一段階はクリアした。
フレイアの予想通り、兵等も村人等も皆、かしこまった表情を見せた。
言葉だけでは信用できない、という兵も、ライトリークの持つ紋章入りの剣を視界に入れると、すぐに納得したかのように真直ぐに立った。
「これ以上意味の無い戦いを続けるようであれば、俺が父の代わりに制裁を加える!」
第二段階クリア。
ライトリークにしては良くやるじゃないか、とフレイアは心の中で賞賛した。
「この村で起きた出来事は体外把握している!
この事を国王陛下に間違いなくご報告し」
順調に言葉を続けるライトリーク。
だが……。
「陛下にこの村と領主及び兵等への処罰ぶぉっ!」
噛んだ。
見事なほどに、舌を噛んでしまった。
フレイアとフェラルは顔を手で押さえる。
この男が、そうそう言葉で上手くいくはずがないか―――二人は全く同じ事を思っていた。
辺りは一瞬沈黙に飲まれ、すぐにざわざわと騒ぎ出す。
騒ぎ出すといっても、各々が小声で、ひそひそと呟き会っているだけだ。
「今噛んだか?」「噛んだな」
「勇者様と言っても、まだ坊だな」「あぁ。ビリビリした雰囲気を出していたが、やっぱりあれはライトリーク殿だ」
兵と、村人が、ひそひそと。
ライトリークの顔はみるみる真っ赤に染まり、こぶしは力を入れすぎているせいか、ブルブルと震えている。
しまいにはフレイアとフェラルまでが―――。
「これでは威厳というものが台無しだな」
「そうだね。まぁ、これがライトなのかもしれないけど。さすがにこの状況で噛むのはちょっとなぁ……」
「ぅ……黙れ!!
この報告によって陛下に処罰を定めてもらう!
異論のある奴は出て来い!
今すぐその性根を叩きなおしてやる!!」
早口に言うライトリーク。よほど恥ずかしかったのだろう。
誰も異論に出るものがいないと分かると、即刻告げた。
「兵は領主の邸周辺、村人は自分の家へ帰り、陛下からのお言葉があるまでおとなしくしているように! なにかあった場合には、俺がその場の判断で処罰を下す! 解散だ!」
初期の状態で主人公を格好良くしすぎるのはどうかと……というお言葉を頂いたので、やってみました(笑)
メリアの出番がもうすぐです。(たぶん)