第十二部
目の前に起きていることは、訓練された兵と、まともに物を武器として握ったことの無いような平民の、殺し合い。
兵はすでに民だということにもお構いなく、向かってくる敵を殺し、他と戦っている人を背中から殺す。そのたびに苦痛な悲鳴が聞こえ、鈍い、肉の裂けたような嫌な雑音が響く。
ただ、殺されているのは平民だけではなく、兵もまた死んでいく。
斧や鎌、クワなどで刺され、引き裂かれ。
剣の機能を―――人を殺すための機能を備えていないだけ、攻撃を受けた兵はこの上ない苦痛を味わい、長くにわたってもがき続ける。
誰かが止めを刺さない限り、ずっと。
目の前で死んでいく人たちのほとんどが、顔見知りだった。
この村に滞在したときに、楽しいひとときを過ごした人たち。
彼は呆然と立ち尽くした。
足が震え、体が動かない。
どちらも殺されたくない故に、全力で相手を殺そうとする。
自分が生き残るために誰かを蹴落とし、踏み台にする。
本当の、生命をかけた殺し合い。
誰の目を見ても、憎しみの光と、悲しみの光しかライトリークには見出せなかった。
目の先で、まだ若い男が後ろから殺されそうになる。
助けに行かなければ。
そう思うのに、足が動かない。
それどころか体が硬直し、指一本動かせない。
初めて見る、人と人との殺し合い。
いくら彼が名家の家の生まれだろうと。
いくら彼が幼き日より訓練を積んでいようと。
いくら彼が天賦の才に恵まれていようと。
理論ではなく、感情が。
頭ではなく心が。
彼の言うことを聞いてくれない。
男の背中に振り下ろされようとする剣。
男はそれに気づいているが、到底避けきれない。
男が目を瞑り、死を覚悟した。
(動け。動け。動け。動け。動け!)
何度も念じるのに、体は一向に動いてくれない。
助けられないのか。
自分は何もせずに、目の前の男を、親切にしてくれた人たちを見捨てるのか。
助けなければいけない。
理由がどうであろうと、この殺し合いをとめなければいけない。
そう思うのに、体が動かない。
視線が、今にも剣が背に刺さろうとしている男から離せない。
あ、殺された―――そう思った瞬間、見覚えのある矢が、兵の腕を貫通した。
銀色の矢。
そんな微妙なものを使っているのは、彼とともに旅をした男以外に考えられない。
矢の飛んできた方向をなんとかたどると、弓を構えた、金髪碧眼の優男のような青年がいた。
放ち終わると、すぐに次の攻撃に移る。
次々に兵の足や腕を打ち抜いていくフェラル・リルチルド。
その素早さはやはり、すごいとしか言えない。
だが、今の彼は憎しみと悲しみの入り混じった、他の村人たちと同じ瞳をしていた。
この村に、一体何があったのか。ライトリークは疑問に思う。
と、そのとき。フェラルの間合いをかいくぐって、攻撃を仕掛けてくる兵が二名。
弓矢は中・遠距離には有利だが、近距離には向かない。
気がつけば、震えていた足はフェラルのほうへと歩を進めだし、硬直していた指は剣を力強く握っていた。
すぐにフェラルの元へと駆け寄り、兵の足首を剣の腹で殴る。
「がぁ……!? ぐ……ぁあああああああああああ!?」
ありえない音が兵の足首から聞こえ、兵は絶叫とも言える声で叫びだした。
骨が、砕けたのだ。
折れたのではなく、砕けた。
一見慈悲のように見えて、死ぬことなくこの上ない痛みを味わう相手からすれば最悪の攻撃方法だ。
だが、まだライトリークは人を殺したことが無い。
まだ、その覚悟もできていないのだ。
そんなことをフレイアに知られたら「魔物は殺すくせに」と難癖つけられただろう。
しかしまだ、ライトリークには人を殺したという罪を背負って生き続けられるほど、強い精神の持ち主ではなかった。
もう一人の兵の腹部にも、剣の腹で打撃を加える。
肋骨の折れた音と、骨が内臓に突き刺さる音がやたらと聞こえ、兵は声にならない声で叫んだ。
そしてすぐに異物を吐き出し、失神する。
そして最後に、剣の腹で――これは力をかなり抜きながら――フェラルという男の頭部を殴った。
「い゛!?」
ガゴンッ、という鈍い音が響くと、フェラルは驚いたような表情でライトリークを見る。
「なにするんだい、ライト!」
「うるさい! それはこっちの台詞だこのスケコマシ!」
「なっ……! 君は本当に……って、なんでここにいる!?」
「お前を探しに戻ってきたんだよ」
「あ…、なるほど。じゃあ魔王サマは倒せなかったのかい?」
「いや、仲間になった」
「へぇー……って、はぁあああ!?」
一瞬で戦場にそぐわない雰囲気になったかと思うと、久しぶりの再会としては少し(フェラルにとっては)デンジャラスな会話をする。
「それより、この状況を説明しろ! なんで皆が戦って――――え?」
いいながら辺りをもう一度見渡すと、その場にいる人が、なぜか全員眠っていた。
殺し合いに「デス・マッチ」とルビをふるかどうかで十分くらい悩みました。
結果、ルビをふる必要性を感じなかったので断念w
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