第十部
第二章です! よろしくお願いいたします。
魔王の城、と呼ばれる禍々しい塔から東の方角にある、ライトリークの住まうレイフォント国含むクレイアント大陸。その中でも小さい集落と認識されているソレイン村では、決して小さいとはいえない騒動が起きていた。
まず第一に、ソレイン村の領主、ヴィレイスの死亡。
第二に、フェラル・リルチルドという弓の使い手を先頭にして起きた、反乱。
それらは一度に起きたことではない。
幾つかの月日をかけて、つもりに積もったソレイン村の怒りや憎しみから生まれたことだった。
だが、反乱のきっかけは一人の少女の父の死にあった。
時は少しさかのぼる。
フェラルという男が、ライトリーク含む勇者一行の仲間から外れた日。
この村のヴィレイスという領主は、村の税金を多く取り上げ、苦しくなった住人の生活にさらに追い討ちをかけていた。
カジノの導入。
それも、ヴィレイス等を専門とした、豪族のためのもの。
たまに来る他の豪族達。
彼らの懐に入る金の素では全て、村の税なのだ。
ある日村人等の中の代表が、ヴィレイスに言った。
『これ以上は出せない。
税を下げてくれ』
と。
しかしヴィレイスはかまわずに告げた。
『出せるだろう。
税を下げる気は無い。
もしもそれでも税を出せぬと申すならば……、女が惨めな思いをすることになるぞ』
この村は小さいだけあって、若い女は少ない。
おそらくヴィレイスの言う『女』とは、彼女のことを指すのだろう。
「カリナ」
金髪碧眼の整った顔立ちの男、フェラルは言った。
片手に弓を持ち、背に矢を携え、服を血に濡らし、優しくも悲しそうな笑みを浮かべて。
その声に振り返る女。
美しい……と言うよりは、可愛らしいという言葉の似合う、15、6の少女。
ずっと泣いていたのか瞳は赤く腫れ、体は小刻みに震えていた。
無理も無い。
己の目の前で、家族が、たった一人の家族が無残に殺されたのだから。
フェラルの視線の先には、大量の血を腹部から流し、白目をむいて倒れている男の姿。
年は40代後半。
一般人が見れば、すぐにでも気分が悪くなり、吐き出すことが予想付けられる光景だった。
弓の名手といわれてきたフェラルでさえ、目を背けるほどに。
「ふぇ、ぅ……っ父様が……っ」
彼女はフェラルの存在を確認すると、小さく嗚咽を漏らした。
目の前の父の姿から目を放さずに。
父様、といえど、彼女と目の前で横たわる男に血のつながりは無い。
すでに彼女の両親は死んでいる。
血のつながりは無くとも、彼女にとってはたった一人の家族だった。
彼は村を代表してヴィレイスに意見したばかりに、最悪の死を迎えた。
彼は一刻程前に『税が出せぬなら女が惨めな思いをするぞ』と告げた領主に会いに行き、ヴィレイスの思考に反する言葉を述べた。
娘の身と心を守るために。
しかし、結果的にどちらも彼の手によって守られることは無かった。
彼が死ぬことによって彼女の精神は揺れ、今後どのみちヴィレイスは彼女に手を出すと思われることから、身も危ういところだ。
フェラルは何も言わずに、カリナという最愛の女性を抱きしめる。
カリナは声をあげて、一晩中泣き崩れた。
カリナが泣きつかれ、眠りについたとき。
フェラルはカリナの父の遺体を丁寧に土に埋め、それと同時に、村人達の堪忍袋の緒が切れた。