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今朝、突然ショコたんから、「今日は一日、仕事はお休みとする」と宣言された。
べつに今日は休日でも祝日でもない。
どうしてお休みなの?
あたしの問いに、「今日は創立記念日だ」という答えが返ってきた。
わ~い、それじゃあ思いっきり寝るぞ~! なんて思っていたのだけど。
「さて、主婦さん以外の全員で出かけるぞ!」
問答無用の強制連行。
あたしたちは、買い出しの荷物持ちとして駆り出されることになった。
ま、それはそれでいいか。
ベティさんやミルミルちゃんや、他のみんなとお喋りしながらのお買い物、ってことになるわけだしね。
でもお喋りの相手は、それだけじゃなかった。
わいわいと騒ぎながら徒歩で荷物を運ぶあたしたちの横に並んできたのは、速度を落としたじゅうたん――じゃなくて、ペットカーに乗った長い髪の女性だった。
「ふふふ、お久しぶりね、マリオンさん。ご機嫌いかがかしら?」
あたしに向かって話しかけてきたその女性は……。
「あ~~~~っ! あなたは、エクレールさん……じゃなくって、エルクレイリアさん!」
「ふふふ、よくできました」
そう、それはあたしを騙して社長室まで連れていった、スマイルプロジェクトの社長、エルクレイリアさんだった。
ペットカーには、エルクレイリアさん以外に数人乗っている。彼女の会社の人たちなのだろう。
「エルクレイリア! マリオンはわれのだ、近寄るでない!」
「あらあら、ショコラレットは社員を手篭めにしてますの? 不謹慎ではなくって?」
「そういうのではないわ! くだらんことを言ってないで、早くそっちの準備を進めたらどうだ!?」
「ふふふ、イヤですわ。こちらには車があるんですのよ? 急がねばならないのは、むしろそちらのほうでしょう?」
「うぐぐぐぐ……!」
うわぁ、あのショコたんが言い負かされてるよ……。
あたしはふたりの言い争いを見て、そんなふうに考えていた。
以前騙されたあと、ショコたんとエルクレイリアさんが犬猿の仲だというのを聞いていた。
聞いてはいたけど……まさかここまでとは。
ショコたん、完全に青筋立ててるし。
「ま、エルクレイリアさんの言うとおりだよ、ショコたん」
「きゃははは、そうやで。ここは抑えておくべきや。人通りも多いねんから。……ちゅうても、どうせあとでまた、たっぷりとケンカするんやろけどな」(ぼそっ)
パー子さんとペロちゃんが、「どうどう」と、獣を静めるかのようにショコたんをなだめる。
ペロちゃんはぼそっと、なんだか言わなくてもいいことをつけ加えていたような気がするけど。
どうやらそこまでは聞こえなかったみたいで、
「そ、そうだな……。エルクレイリア、覚えとけよ! あとできっちり決着をつけてやるからな!」
ショコたんはこれで最後とばかりに言い捨てる。
ともあれ、言われるままにはしないのが、エルクレイリアさんという人なのだろう。
「お~っほっほ! なんの決着だかわかりませんが、いいでしょう、受けて立ちますわ!」
売り言葉に買い言葉、ペットカーに片ひざを立てて叫び立てるエルクレイリアさんを、スマイルプロジェクトの社員さんたちが必死に抑え込んでいた。
「覚えてらっしゃ~い!」
遠ざかっていくペットカーから、そんな叫び声が響いてくる。
なんというか、似たもの同士って感じなんだなぁ……。
☆☆☆☆☆
気を取り直して、あたしたちは買い物を続けた。
そして多くの荷物を抱えて事務所に帰り着くと、そこにはお留守番の主婦さんだけでなく、エルクレイリアさんを初めとしたスマイルプロジェクトの社員さんたちも待っていた。
今日はあたしたちの会社、ティアーズマジックの創立記念日であるとともに、スマイルプロジェクトの創立記念日でもあるらしい。
向こうの会社もこちらと同じく、社長さんを含めて全部で七人しかいない小さな会社だった。
そのわりに、エルクレイリアさんはあたしに服とかバッグとかを買ってくれたりしていたから、儲けという意味ではこちらと同じではないのかもしれないけど。
それはともかく、人数的にも多くないということで、毎年どちらかの会社の事務所に集まり、合同パーティが催されているのだという。
もちろん、パーティという名の宴会、すなわち、無礼講の飲み会となる。
パーティが始まると、ショコたんとエルクレイリアさんは買い物の途中に出くわしたときよりも、さらに激しい罵り合いをスタートさせる。
そんな様子を、あたしは楽しく眺めていた。
ふと、ベティさんが近づいてきて、あたしの隣に座る。
そして、いつもと比べると落ち着いた感じの声で話しかけてきた。
「ティアーズマジックとスマイルプロジェクト、なにかと社長同士でいがみ合ったりして分かれちゃったけど、最初はひとつの会社だったらしいわよ」
「そうだったんですか?」
「手段としては違うけど、どっちの会社も目指す方向性は同じ。みんな幸せに、ってことなのよ。現にあのふたり、言い争いしてるくせに、すごく仲がいいでしょ?」
「……はい、そうですね」
あたしは素直に頷いて、自然と笑みをこぼした。
「それにね、ショコたんとエルクレイリアさんって、実は双子なのよ」
「え?」
あたしは、耳を疑った。
片や、どう考えても十歳くらいで成長が止まったようにしか見えない、幼児体型のショコたん。
片や、ちょっと性格的にはどうかと思うけど、長い髪が素敵で、歳相応に小じわや肌のくすみが見え隠れしているエルクレイリアさん。
どこをどう考えても、双子だと思える要素はなかったからだ。
……本質的な性格を除けば。
「おいこら、ちょっと待て!」
「ふふふ、今わたくしも感じましたわ」
「おお、エルクレイリア、お前もか」
「ええ、確かに」
いつの間にかあたしの目の前に立っていた、双子だというふたり。
どうやらあたしが思い浮かべてしまったちょっと失礼な考えを、どういうわけだかビビビッと感知してしまったようだ。
ふぇ~、ふたりとも、得体が知れないわっ!
……なんて考えるのも危ない気が……。
ともかく、珍しく意気投合した彼女たちは、その鋭い怒りを含んだ視線をあたしに向けてくる。
「マリオン!」「マリオンさん!」
「は、はいっ!」
声を揃えて迫ってくるショコたんとエルクレイリアさんに、あたしは焦りまくった声を返すことしかできない。
『覚悟っ!』
そのままふたりは、あたしに覆いかぶさってきた。
「きゃあ~~~! やめて~~~! あはっ、あははははははっ!」
ふたりの合計四本の手は、あたしの脇の下やらおなかやら足の裏やらに容赦なく襲いかかり、ひたすらくすぐり続ける。
こうして笑いすぎたあたしは今日も、バッチリと涙を流すことになってしまった。
☆☆☆☆☆
そのあと、あたしは罰として(?)お酒を飲まされ、
最初にこの事務所を訪れた日の歓迎会と同じように酔っ払い、
またもや一番近くにいたベティさんに向かってわけのわからないことを怒鳴り散らし、
さらにはやっぱり、彼女の首筋に噛みついたり、それに前のときと同じく、唇にまで……。
ああ……、やっぱりあたしにお酒は危険っぽいです……。
次の日の朝、残った頭痛とともに、自己嫌悪にさいなまれるのだった。




