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「それじゃあ、そろそろ帰るね」
ひとしきりお話したあと、あたしはキャラちゃんにそう告げた。
あまり長くお喋りし続けると、体にも負担がかかる。だから、面会時間は決められていたのだ。
「え~、もう~? 残念~。……マリオンちゃん、また来てくれるよね?」
「もちろんよ!」
言葉どおり本当に残念そうに、懇願の声をかけてくる彼女に、あたしは最大限に明るい笑顔で答えた。
「約束!」
キャラちゃんがそう言って小指を差し出してきたので、あたしも小指を絡める。
「指きりげんまん、ウソついたら針千本……だけじゃなくって、本物のハリセンボンとか、あと、虫とか……そうね、ゴキブリとかクモなんかも、飲~ますっ!」
笑いながら、キャラちゃんはそう歌った。
「ちょ……ちょっとキャラちゃん! それ、ひどい~~~!」
あたしが虫嫌いだという話、とくにゴキブリとかクモとかが大嫌いだという話をしたから、そんなふうに言ったのだろう。
「あははは! ……もともとの針千本ってのからして、めちゃくちゃ残酷だとは思うけど~。とにかく、絶対また来てよね!」
「うん、約束だもんね!」
キャラちゃんと声を揃えて笑い合い、そしてあたしは病室をあとにした。
☆☆☆☆☆
病室のドアをピシャリと閉めると、キャラちゃんのご両親が黙って会釈をする。
その横には、ずっと待っていてくれたベティさんたちも立っていた。
あたしも会釈を返し、そのまま休憩スペースまで、ご両親や会社の三人とともに歩いていった。
休憩スペースには、椅子が並べられている。
そこに腰を落ち着けると、キャラちゃんのお母さんが口を開いた。
「キャラメリーノの話し相手になってくれて、本当にありがとうございます」
その言葉に合わせて、彼女の隣に並んでいたキャラちゃんのお父さんも頭を下げる。
「いえいえ、あたしもキャラちゃんとお話するの、楽しいですし」
感謝を示してくれているご両親に、あたしは嘘偽りのない笑顔で答えた。
今回の依頼は、キャラちゃんのお母さん――ティラミスリルさんが依頼人ということになる。
隣にいるお父さん――プレッツェラさんも、忙しいお仕事の合間を縫って、足しげく娘さんの看病に通っているらしい。
おふたりの雰囲気はとても温かく、キャラちゃんが入院してさえいなければ、とっても幸せで理想的な家庭になっていたことだろう。
だけど……。
キャラちゃんは不治の病に侵されている。
それも、この世に生を受けた、その瞬間からずっと――。
当初は十歳くらいまでしか生きられないとお医者さんから宣告されていたらしいのだけど、ご両親の温かい愛情のおかげか、十五歳となった今まで生き長らえることができた。
でももう、限界も近いらしい。
いつ発作が起こって、そのまま目を覚まさなくなってしまっても、まったく不思議ではない。
すでにそんな状態なのだという。
だからせめて最後に、同世代の子にお友達になってほしかった。
それが今回、ご両親から頼まれた依頼の内容だった。
「だけど……、やっぱり悲しすぎます……」
突然のあたしの言葉に、ご両親はちょっと驚いた様子を見せた。
あたしの頭の中ではつながっていたけど、ご両親からしてみれば、笑顔で話していたはずなのに唐突な言葉だったからだろう。
それでも、あたしは言わずにはいられなかった。
「どうにか助かる道はないんですか?」
すがるような目で問いかけるあたしに、ご両親は力なく、黙って首を左右に振る。
「そんなのって……」
涙が溢れてきた。
ご両親はその様子を、黙ったままではあったけど、優しく見つめてくれていた。
ベティさんたちも、なにも言わず、黙ったまま。
いや、なにも言葉にはできなかったのだろう。
あたしにだって、わかってる。
どうにかできるようなら、今までキャラちゃんが生きてきた十五年のあいだに、どうにかしている。
せめて最後に、同世代の子にお友達になってほしかった。
ご両親の言う「最後」が、本当に最後の最後なんだというのも、理解している。
だけど……だけど……。
あたしは、理解はできても納得まではできず、ただ涙を流すことしかできなかった。




