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ティアーズマジック  作者: 沙φ亜竜
第6話 「涙は未来をつなぐ架け橋」 依頼人:ティラミスリル 担当:マリオン
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-1-

「ちょっと来るのが遅れちゃって、ごめんね、キャラちゃん!」

「あっ、来てくれたのね! ありがとう~!」


 あたしは病室に入り、ベッドに横になっている女の子に明るく声をかけた。

 その声に反応して、女の子――キャラメリーノちゃんは、そっと上半身を起こし笑顔をこぼす。


 同い年の友人として接してほしいので、キャラちゃんって呼んであげてください。

 お母さんからお願いされていたあたしは、言われたとおりそう呼ぶことに決めていた。


「えっと……マリオンちゃん?」

「うん、こんにちは! お花を持ってきたから、飾るね!」

「わ~、綺麗~! ありがと~!」


 そうやって軽く会話を交わしたあと、用意していた花瓶に水を入れるため、あたしは一旦病室から出る。

 病室の外には、キャラちゃんのご両親が静かにたたずんでいた。

 あたしは軽く会釈だけして、その前を通り過ぎる。

 そして水道の蛇口から素早く花瓶に水を注ぎ込んだ。


 ここはあたしたちの町で一番大きな総合病院。

 総合病院は、科学技術と万物の精霊さんの力を合わせた、最先端の医療を施す場所となっている。

 今回の仕事は、そこに入院しているキャラちゃんのご両親からの依頼だった。

 病気の娘さんを元気づけるために、同い年のあたしが呼ばれたのだ。


 実は今回、あたし以外に、ベティさん、ペロちゃん、パー子さんの三人も来ている。

 今もキャラちゃんのご両親と一緒に、病室の外で待機しているのだけど。

 四人で病室に入るのは多すぎるし、せっかく呼んだ同い年のあたしの存在がかすんでしまうというのもあって、ひとりでお見舞いすることになった。


 他に人がいないほうが、気兼ねなくお話できると考えたのだろう。

 あたしとしても、そう思う。

 大役を任された感じではあるけど、キャラちゃんと楽しくお喋りできるよう、あまり気負いせずに自然体でいこう。


 花瓶に挿したお花から、微かに甘い香りが漂う。

 うん。これならキャラちゃんも喜んでくれるよね。

 あたしは誰に向けてでもなく、軽く頷くと、同い年の少女が待つ病室へと戻った。



 ☆☆☆☆☆



「お待たせ~! ほら見て! 綺麗だよ~!」

「わ~、ほんとだ~!」

「それに、いい匂いもするよ~! そっちの棚の上に置こうか!」

「うん!」


 あたしの問いかけに、元気いっぱいの声で答えてくれるキャラちゃん。

 依頼を受けて、今日初めてこの病院へと足を運んだわけだから、キャラちゃんとあたしは初対面ということになる。

 それなのに、まるで古くからの友人のように、キャラちゃんは屈託のない笑顔を向けてくれた。


 あたしもそれに応えて、仲のよいお友達のつもりで接しようと心に決めていた。

 ううん、「つもり」じゃない。もうあたしとキャラちゃんは、立派にお友達だ。

 彼女の笑顔が、それを証明してくれている。


 花瓶をベッドのすぐ横にあった棚の上にコトリと置くと、爽やかな香りが辺りを包み込んだ。


「わっ、ほんと! いい匂~い!」

「でしょ?」

「マリオンちゃん、ありがとう!」

「どういたしまして」


 素直でまっすぐなキャラちゃんに、あたしの頬も緩みっぱなし。

 同い年なのに、キャラちゃんはなんだか、妹みたいに感じられた。


「ねぇねぇ、マリオンちゃん! 学校とか会社とかのお話、してもらってもいい?」

「うん、もちろんよ!」


 キャラちゃんのお願いに、あたしは頷く。

 棚のそばにあった丸椅子――おそらくお母さんが看病しているときに座っているのだろうその椅子にそっと腰かけ、キャラちゃんにあたしのことをいろいろと話した。

 キャラちゃんはあたしの話を、ベッドに上半身を起こしたまま、楽しそうに聞いてくれた。


 会社はともかく、学校にはちょっと、不本意なあだ名とか、嫌な思い出なんかもあったりするわけだけど……。

 そういった部分は端折って、楽しかった思い出だけをふんだんに盛り込んで話す。

 なにもかも包み隠さず話すほうがいい場合もあるだろうけど、キャラちゃんに関してはこれでいいのだと思う。


 学校のことよりも、やっぱり現在進行形だからか、まだ入社して日が浅い会社のほうが、たくさんお話したいことがあった。

 あたしが笑顔で話すと、キャラちゃんも笑顔をこぼす。

 仕事の失敗談とかを笑い話にすると、キャラちゃんも一緒になって笑い飛ばしてくれた。


「あはははは! マリオンちゃん、ドジ~! さすが~!」

「あはっ!」


 さすがってなによ、と思わなくもなかったけど。

 キャラちゃんの笑顔を見ていると、あたしのほうも幸せな気持ちになれた。

 ちょっと調子に乗って、おバカな失敗話を喋りすぎたからだろうか、突然、


「あははは……、けほっ、けほっ、ごほっ、ごほっ!」


 キャラちゃんはおなかを押さえながら咳き込んでしまう。

 おなかを抱えて大笑いしている、というわけではなく、苦しそうな咳の音と彼女の表情に、あたしは慌てて立ち上がった。


「きゃっ! キャラちゃん、大丈夫!? おなか、痛いの? 平気?」


 あたしは背中をさすりながら、声をかけ続けた。


「……けほっ、うん、大丈夫……。よくある、ことだから」


 キャラちゃんは苦々しい顔をしながらも、あたしの声に答えてくれる。


「……けほっ。……ん、もう平気になったみたい」


 すぐに丸めていた背中を起こすと、まだちょっと顔色は優れないものの、笑顔を送ってくれた。


「心配かけちゃって、ごめんね!」

「いいのよ、だって……友達でしょ?」

「……ありがとう! マリオンちゃんの手、温かかった」

「あはっ」


 キャラちゃんの言葉に、あたしの心も温まる感じがした。


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