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「ふんふんふ~ん♪」
われは鼻歌まじりにモニターに向かっていた。
つい数分前までは、そんなことはなかったというのに。
べつに不機嫌だったわけではないし、むしろ機嫌はよかったのだが、ここまで気分がよくなるとは、われ自身も思っていなかった。
☆☆☆☆☆
ふ~む……。
数分前、われ――ショコラレットは社長室にこもり、社員たちの書いた業務報告に目を通しながら、つぶやきを漏らしていた。
新入社員のマリオン、なかなかやるではないか。
先日の教会の件では、勝手な行動に出てしまったわけだが。
もちろんそれも、プラス要素になっていると言っていいだろう。
与えられた仕事をただこなすだけではなく、自分らしさを忘れずに行動する。
それも大切なことだ。
まぁ、場合によっては大失敗につながる危険性をはらんでいるわけだが。
主婦さんやパー子があんなにも必死になって、マリオンを責めないようにと、われに訴えかけてくるとは。
それだけ仲間の信頼も得ているということだな。
いやはや、実に素晴らしい人材だ。われの目に狂いはなかった。
もっともマリオンは、学校への求人広告で応募してきた生徒だったのだが。
われはマリオンの面接には関わっていない。
ただ、彼女の通っていた学校はわれの母校でもあった。校長とも知り合いだったことから、われは学校まで足を運び、離れて様子を見させてもらった。
マリオンは、確かに少々おとなしい印象で、仲間内でもからかわれる傾向が見られるようではあった。
だが、われは彼女の泣き顔を見てキュンと……いや、ピンと来たのだ。
最初から採用することは、ほぼ決めていた。
とはいえ、われの一存だけで決めてしまうわけにもいかない。というわけで、主婦さんに面接を任せたのだ。
しかし、ここまで有望な人材だとまでは思ってもいなかったな。
彼女の涙腺のゆるさは、この会社の仕事内容にピッタリと合っている。
だが、それだけで続けていけるほど甘い仕事ではないのもまた事実。
人によって方向性は様々だと思うが、内面的にキラリと光るものが必要なのだ。
マリオンは見事、その部分でも合格点を得ることができたと言えるだろう。
☆☆☆☆☆
そんなことを考えながら、われは仕事依頼のメールに目を通していた。
ティアーズマジックはまだまだ規模の小さい会社ではあるが、町の人たちにもそれなりに知られるようになり、依頼のメールや電話も増える傾向にある。
ともあれ、主に女の子が出向いて泣いてくれるという仕事内容からか、怪しい依頼なんかも多いのが実情だった。
その辺りを見極めるのも、われの役目なのだが。
メールは直接われのところに届くし、電話依頼に関しても、主婦さんが書類にまとめて届けてくれる。
われは一日あたり数十件にも上るそれらすべてに目を通し、内容を見極め、各社員に仕事を割り振っていかなければならない。
ふぅ……。社長という立場も楽じゃないな。
主婦さんが淹れてくれた紅茶を飲みながら、われは次々とメールをチェックしていた。
「……ほう」
そのうちの一通に、われは目を留める。
エクレールという名の女性からの依頼だった。
そしてそのメールには、最近噂を聞いて依頼をしてきたとの前置きがあり、なんとマリオンにお願いしたいと書かれてあった。
「はっはっは、もう指名まで入るようになったか。いやはや、ゴールデンルーキーだな、マリオンは」
思わず笑みもこぼれてしまうというものだ。
とりあえず、今受けている仕事のこともある。調整は必要になってくるが、数日後にはこの依頼人のもとへ、マリオンを向かわせるとしようか。
われはそう決めると、残りのメールや書類にも目を通していく。
自然と鼻歌まじりになっていたわれの気持ちも、理解してもらえることだろう。




