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ティアーズマジック  作者: 沙φ亜竜
第3話 「純な瞳を守るもの」 依頼人:マカロン、パルフェ 担当:マリオン
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-1-

 ティアーズマジックに入社してからのあたしは、会社のみなさんに優しくしてもらいながら仕事をこなしていた。

 そんな中で、唯一ベティさんだけはちょっと、あたしのことを快く思っていない様子だった。


 あたしとしては、年齢も一番近いしもっと仲よくなりたいなと、ずっと思っていたのだけど。

 一緒に任せてくれたショコたんのお陰と言えるのかな、前回のお仕事で、あたしはベティさんと随分仲よくなれたと思う。

 以前と比べたら格段に会話も増えたし、お仕事中以外でも一緒に買い物に行ったりまでするようになった。


 それなのに……。

 どうしてなのか、ベティさんは以前とあまり変わらず、あたしに対して嫌がらせをしかけてくる。


 なんでそんなことするの~?

 思わず口から飛び出した質問に、ベティさんから返ってきたのは、あたしの反応を見るのが楽しいから、という答えだった。

 うう~……。そんな面白半分でいじめないでよぉ~……。


 そして今日も、あたしを怒鳴りつけてくるベティさんの声が、事務所に響き渡る。


「ちょっとマリオン! あんた、またあたいのカップで飲んだでしょ?」

「ふえっ?」


 ああ、またいつもの嫌がらせが始まるのかな、なんて思ったら、今回はちょっと違っていたみたい。

 あたし自身のドジのせいだから、文句を言われても仕方がないよね。

 そう考えていたはずなのに、あたしの口からは、言い訳染みた言葉が飛び出していた。


「……あ~、その、ごめんなさい、また自分のを落として割っちゃって、お客様用のは今日も使うかもだからと思って……」

「だからって、なんであたいのを使うのよ! どうせ来るのが遅いショコたんのとかでいいじゃないの! あの人なら、洗わないで汚れたままだって構わないくらいなんだし!」

「え……、だって、一応仮にも社長だから……。ここはベティさんのを拝借するしかないわって……」

「だから、どうしてそうなるのよ!」

「はうう、頭を両側からぐりぐりしないでください~、馬鹿力で潰れちゃいます~!」

「この状況でそんなことを言うなんて、あんた、いい度胸ね! お望みどおり、耳から脳みそぶちまけてやろうかしら!」


 あたしとベティさんの言い争いは、ある意味事務所の朝の名物みたいになってはいたのだけど。

 そこへ、ゆら~りと効果音がつきそうなドス黒い雰囲気で、あたしたちの背後から現れた人影が――。


「朝から元気だな、お前たち」


 そう、それはショコたんだった。


『あっ、おはようございます!』


 突然の社長さんの登場に、あたしとベティさんは声を合わせて挨拶をする。

 でも、ショコたんは不機嫌そのもの。

 いったい、どうしたのだろう?

 首をかしげるあたし。


「われはどうせ来るのが遅いがな。だが、カップを洗っていなくても構わないなんてことはないぞ? とても綺麗好きなのだよ、われは」


 あ……さっきのベティさんの言葉……。

 そっか、あの言葉で怒ってるんだ、ショコたん。


 だけど、一番の下っ端であるあたしは、みなさんのお部屋の掃除もしているんだけど、ショコたんのお部屋はいつもすっごいことになっている。

 あれで綺麗好きだなんて、ショコたんは冗談を言ってるのかな?

 なんて余裕をかましていたら、怒りの矛先はあたしにまで向けられてしまった。


「マリオン、なにを自分は無関係みたいな顔をしてるんだ? おまえも同罪だ」

「ほえっ?」

「一応仮にも社長だから、とか言ってたよな? 一応仮にもって、なんだ?」

「はううっ!」

「ふたりとも、われのお団子クラッシュを食らいたいってことか?」


 お団子クラッシュ――それは左右にまとめたお団子状の髪を使った側頭部の頭突きで、ショコたんの必殺技だ。

 あたしとベティさんは、冷や汗を浮かべながら顔を見合わせて、首をぶんぶんと左右に振る。


「どっちも今日の仕事の指示があっただろう? こんなところで騒いでるヒマがあったら、さっさと行ってこい!」

『は……はいっ!』


 ショコたんに怒鳴られたあたしとベティさんは、声を揃えて返事をし、足を揃えて事務所を飛び出すのだった。



 ☆☆☆☆☆



「ふう、驚いたわね」

「まったくです~」


 あたしは途中までベティさんと一緒に喋りながら、依頼人との待ち合わせ場所に向かっていた。

 今回の仕事はそれぞれ別々だけど、待ち合わせ場所は途中まで同じ方向だったのだ。


「ショコたんって怖い人ではないけど、やっぱり威厳はあるんですよね~」

「威厳っていうか、迫力、かしらね。ま、もっとも今日は……」

「あっ、ベティさんも思ってました?」

「ええ、もちろん」


 あたしとベティさんは、目を合わせてくすりと笑うと、


『起きたばっかりで、寝グセがすごかった!』


 声を揃えて、失礼にも社長であるショコたんの悪口を叫ぶ。

 ショコたんに聞かれていたら大変なことになりそうだけど。

 こんな軽口を言い合える間柄。やっぱりベティさんとは、仲よしになれているんだ。


 あたしはそう実感しながらベティさんと別れ、依頼人のもとへと急いだ。

 よし、今日も一日頑張るぞ!


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