まおうとゆうしゃとはかいしん
没ネタです。
と言うか新しくマジメに(?)設定とか入れて書き直したらぜんぜん違う物になったので………
広大な敷地に大きな城、しかし人の気配はなくかつての面影は残っていなかった。
その城の一番小さな部屋の隅に一人の少女がいた。
少女はまだ幼く、まだ幼女といってもいいぐらいだ。
髪はぼさぼさで、だいぶ痩せている。
いつから着ているのか服もボロボロで、元の色さえ分らない。
何時からそこに居たのか、少女の周りには埃が積もり、少女が居る部屋の隅から扉までの道のりだけ埃が避ける様に積ってはいなかった。
少女は膝を抱え、怯えていた。
物音が立つたびに希望に満ちた瞳でそちらを向き、
何も居ないと確認しては、落胆したようにまた膝を抱え怯え始めた。
少女は一人でいることが怖かった。
怖くて怖くてしかたなかった。
寂しくて、辛くて、悲しくて、でも死ねなくて、少女はいつも泣いていた。
でも、その日はいつもと違った。
ガシャン―――
自分以外誰も居ないはずの城の中に、大きな音が響いた。
少女は、恐る恐る音のした方に歩いて行った。
音がした部屋は、書庫だった。
そこで、彼女と出会った。
そこで、彼女は出逢った。
此処はとある城。
ぶっちゃけ魔王の城。
「バラすの早くないですか!?」
で、こいつ魔王。
「さらにですか!」
ついでに今は、破壊神召喚の儀式の真っ最中。部屋はロウソクの明かりで薄暗く、床には幾何学的な模様が描かれていたりする。
「やめてください。せめて、せめて破壊神が召喚されるまで黙ってて欲しかった!」
ほんとに黙っていいの?
「すいません。話が進まなくなるのでそれだけは………」
さっさと召喚の儀式始めろよ。暇なんだよ。
「私の描写ぐらいしてくださいよ」
ただの人間に興味ありません。
「魔王ですよ? わたし」
美少女以外の描写なんかしたくありません。
「わたしだって美少女ですよ」
自分で言うのもどうかと思うよ。
「まだぴっちぴちの十七歳で、たれ目で優しそうな顔、腰まで届く黒髪を赤いリボンで縛って、平均身長でもボンキュボンって感じで、…ってなんで自分描写を自分でやっているんですか、わたし!」
もうそれでいいじゃん、大体お前サバ読み過ぎ、身長だって百五十センチだろ。平均以下じゃねーか。たしか体重は………
「やめてください。体重だけは、体重だけは!」
じゃあ、スリーサイズ。上から………
「わー! わー! わー!!」
お前が描写かけって言ったんじゃん。
「そこまで詳細な描写は求めていません!」
もういいよ、召喚始めろよ。美少女召喚しろよ。
「なにか納得いきませんが………仕方ありません。いきます。
―――我ここに願う」
彼女が呪文を唱え始めると、床に書かれた魔方陣が光り出し、薄暗かった部屋が明るくなった。
「破壊の神にして創造の神―――」
彼女の声に反応するように、魔法陣も光を増していく。
「我はマオ、その名のもとに希う―――」
これ以上ないくらい魔方陣が輝き、部屋中が真っ白になった。
「今ここに全能の神よ! 降臨せよ!」
呪文が終わると同時に光が弱まっていき、魔法陣の中心に何か、いや、誰かがいた。
「はじめまして? かな?」
見るからに平凡。
何処を取っても平凡としかあらわしようの無い、少年がいた。
しまったーーー!! あまりの事に、男なんかの描写をやっちまったーーー!!
「あなたが破壊神さんですか?」
部屋の真ん中に、一人の少年が立っている。
「如何にも、俺が破壊神だ。名前はスラッシュ=D=ジップ。スラ様、Dさん、職人。好きに呼べ」
漆黒の短髪に気の強そうな釣り目、しかし美少年という訳ではなく、何処にでもいるような平凡な少年だ。
なんで美少女じゃないんだろう。
「ずいぶん親しみ易そうですね。じゃあ…」
「おススメは、はーたんだ」
「えっと、はーさんには、何ができるんですか?」
「本当にその名で呼ばれたのは初めてだよ。まあいいか。私に出来るのは、地の文に介入することぐらいだよ」
――――ッ!!!???
何でもない事の様ように言うが、俺にとっては相当な脅威だよ!!
「本当ですか!?」
お前も目を輝かせるんじゃない!
「だって……」
だってじゃない。
「どうでもいいが。私は何のために呼ばれたんだ?」
「忘れるところでした!」
「忘れるなよ。で、何をすればいい?」
「はい。私と友達になってください!」
「いいだ・・・は?」
「だから、友達になってください。だめ、ですか?」
潤んだ目で小首を傾げるとは、これを断れる男はいないと断言してもい―――
「断る」
キッパリ言いやがって、キサマそれでも男か。
「二次元にしか、興味ありませんから」
こいつ漢だ!
「うぐ…うっ…うっ……」
お前があんなにキッパリ断るから、泣きそうだろ。
「いや、まあ、何ていうか、その、えっと、まあ、一週間くらいなら居てやっても良いって言うか、その……」
いきなりそこまでしどろもどろって………
「たった……一週間、ですか………?」
「わかった。一ヶ月。それ以上は伸ばさん」
「仕方ないですね。それで我慢しましょう」
「いきなり態度でかくなったな。しかし、こちらからも条件がある」
「条件……ですか?」
「そうだ。まず私が過ごしやすいように、生活環境を整えさせていただこう」
「それぐらいなら……」
「そして……キサマには、これを着てもらう!」
「それ………って?」
それは奇跡の………スク水メイド(ケモノ耳仕様)!!
「もちろん、耳は地の文に選ばせてやろう」
マジすか!? 一生ついて行きますぜ、兄貴。
「え? え? ええええ!?」
「私が生活環境を整えている間に、キサマはそれを着ていろ」
「待ってください。私着るなんて一言も……」
「何だ、まだ着ていなかったのか」
「え、何でドアから?」
ちょっと待てよ。今までここに居たのに、どうして外から入ってこれるんだよ。
「ちょっと、百年前に行って来たからな」
ちょっと? 百年ってちょっとか?
説明しよう! そう、破壊神は百年前にタイムスリップし、オタク文化を普及させて来たのであった。
「こんなとこか」
お前地の文を改正するなんて、していいとおも・・・ああああ! なんかエロゲとかが話題になってるし!
「いやあ、歴史を変えずに普及させるのには・・・苦労した」
そんな事はどうでもいい。元に戻してやる。
「ふん、くだらん。そんな事はさせん」
破壊神のもくろみは、百年前の勇者によって―――――され、それにより――――って、邪魔すんなよ。大事なとこだけ棒線に変えやがって、これじゃあ意味が分からん
「しかしこの世界いろいろおかしくないか?」
何がだよ。
「100年前に行ってまず電化製品を発明しようとしたら、魔力で動く冷蔵庫とか普通にあったんだが」
気にすんな、この世界にも色々あるんだよ。
「そんなもんか」
そんなもんだ。
「よし、魔王を見てみろ」
魔王を見ると、いつの間に着たのか。メイド服を着込んでいた。
しかも、ただのメイド服じゃない。トップもスカートも極端に丈が短く、全体的に露出が激しい。そして……そして、その下に見えるのが、あの伝説の『スク水(名札アリ)』だ!!
そう、これがあのスク水メイドだああああぁぁあぁあぁぁぁあああ!!
白と黒のツートンカラーの下に見える、スク水がいい感じだ。
「いつの間に着たんですか!? まったく着替えた覚えが無いんですが」
そんなのは、気にしたら負けだ。
「スク水により圧迫された胸が完璧だな」
これなら、猫耳でなくてもいいな。犬耳、うさ耳、狐耳。迷いどころだな。
「立ち耳か、たれ耳か。悩みどころだな」
何がいいと思う?
「そうだな。とりあえず日替わりで」
立ちかたれかは、その日の気分で、
「俺達の!」
獣耳!
「獣耳の前では!」
皆平等!
「かわいいは?」
皆正義!
「獣耳を汚すものは!」
『サーチ&デストロイ!!』
「どうしたらいいんでしょう……わたし」
魔王政が始まり早数十年。
人々は、平和で豊かな暮らしを取り戻し始めていた。そんな時代の中、民衆は新たな希望の光を見出していた。
すべての行動は感謝の対象。
そこに居るだけでフラグが立ち。
日々弱者を虐げ。
どんな罪にも問われない。
極悪非道にして、極めて残虐。
その名を、
勇者とよ
「ちょっと待て」
ここはとある酒場だ。RPGとかに出てくるあんな感じの。
そこでオレの邪魔をする者、
人はそれを勇
「だからやめろ!」
何だよ。今、良いとこなんだけど。
「それじゃあ、俺がただの悪役だろ」
大体なんで、地の文が読めんだよ。そっちの娘もびっくりしてんだろ。
こいつの向いの席には、美少女が座っていた。
年の頃は十八前後。切れ長の蒼い目に、腰まで届く銀色のポニーテールがよく似合っている。顔のつくりもよく、スラッとしているが出るべきところは出ている。完璧な美少女がそこに居た。
どうして酒場に入れるかは、気にしたら負けだ。
「どこが驚いてるんだよ」
この娘クーデレだから顔に出にくいんだよ。
「知らねえよ。それより前言……前文撤回しろよ」
どこに間違いがあるって言うんだよ。
「全てだよ!」
彼女が美少女じゃないと言いたいのか、キサマ。それとも、ロリコンか。ロリにしか萌えないのか。
「そこじゃねーよ。勇者の描写だよ」
民家に侵入してタンスを物色し、壺を壊す。自分より弱いモンスターを見つけては惨殺、さらに所持している金品を奪う。しかも、それにより民衆から感謝される。何か間違いが?
「なにも間違っておりませんわ」
「お前そっちの味方!?」
「あなたの仲間になった覚えなど、ありませんわ!」
だよな。こんなやつさっさと埋めて、新しい仲間探そうぜ。
「仲間にするなら美少女がいいですわ」
美少女の描写ならまかせろ。百合百合な展開でも、全然いけるぜ。
「俺の名前すら出てないのに!」
「勘違いしないでくださいね」
「え? 俺の名前出てた―――」
「私はバイです」(キリッ
「誰も聞いてねぇ!」
「貴方の名前だって誰も聞いてませんわ」
「せめて紹介しろよ!」
お前なんか勇者Aで十二分だ。
「なら自分で言ってやるよ! 俺は」
「私はレナ=フィールドですわ」
オレは地の文ってんだ。よろしくな。
「俺の名前ーーー!!」
叫ぶ勇者を一人残し、レナは酒場を後にした。
ダンジョンへ移動中
移動終了
「なぜだーーー!」
「あら、まだ叫べるなんて余裕ですわね」
走っていた。
「スライムなんて、余裕だと思ってたのに」
何でたかがスライムから逃げてんだよ。
「見ろよ!後ろを見ろよ!」
塵も積もれば何とやらって感じだな。そこには大量のスライムが、うようよ、うねうね、ぷるぷる、でろでろ。
それはまさにスライムの軍。
千のスライム軍がそこに居た!
だが、あえて言わせてもらおう。
たかがスライムだろ。
「限度があるわ!」
「スライムはやはり、ぷるですわよね」
俺的には、でろもありだけどな。
「どうしてですの?でろなんて気持ち悪いだけじゃないですか」
想像してみろ。美少女が、でろスライムに襲われている姿を。
「なるほど、それはそれで、背徳的な感じがしていいですわね」
鼻血鼻血。
「お前ら、結構余裕あるよな!」
俺、地の文だし。
「私は、エルフですから」
エルフは人間よりも、高スペックなのだ。
「それ、今考えたろ」
それに何か問題が?
「俺にも、なんか設定付け加えろよ」
やだ。
「あなたなんかスライムに殺されてしまえばいいんですわ」
「お前から言われるの!?」
弱者の恨み。思い知るがいい。
「せめて何か武器を」
「仕方ないですわね。何か一つ、出して差し上げましょうか」
「お前ほとんど丸腰じゃん!」
「四次元的なポケット~」
その白っぽいポケットは!
「秘密道具!?」
「火炎放射機~」
秘密兵器じゃん!?
「どうやって使えばいいんだ?」
「そこの安全装置をお外し下さい」
「外したぞ!」
「それから、『わはははは、キサマら如きが、私を倒せると思っていたのかー』と、憎しみを込めつつ言い放ちながら、その引き金を引けば、先端から火炎が出ますわ」
「それ絶対やらなきゃダメ!?」
「もちろんですわ」
「そ、即答だな。わ、わははは、貴様ら、如きに? 私を倒せると思っていたのか~」
カチッ
……………。
「…………」(白けた表情のレナ)
「…………」(驚愕に目を剥く勇者)
そんなんじゃ駄目に決まってんだろー!!
「全然心がこもっていませんわ」
「今出たよね、炎。そこら辺焦げてるし!」
何の事か、さっぱりわかんねーな。
「そうですわ。炎なんかまったく見ませんでしたわ」
「まって、見たの俺だけ?俺だけ!?」
地の文に描写がないから、炎なんて出てないんだよ。
「お前が描写しなかっただけだろ」
「そんな事無いですわ。私も見ていませんから」
「わかったよ!ちくしょー!」
ったく。最近の若者話これだから。
「キレる十代ですわね」
「このやろ………。『わはははは、キサマら如きが、私を倒せると思っていたのかー!!』」
その言葉と共に火炎放射機の銃口から、勇者の技とは思えない地獄の業火がスライム軍に向けて放たれた。
地獄の業火に焼けるスライム軍は成す術も無く焼かれて逝く。
スライム達の怨嗟と怨念によって煌々と照らされた夜空は、何処か哀愁を漂わせる星が瞬いていた。
後に、生存者は語る。
『ちょっと、道を聞こうとしたらこれだよ』
『俺たちが何かしたか!? 日々を雑草と水だけで慎ましく暮らしている俺たちが!』
『だから、人間って嫌いなんだ………くっ―――!』
最低だな、勇者。
「最低ですわね」
オレとレナはその光景を目に焼きつけ、勇者への断罪を決意するのであった。
「お前らがヤれって言ったんだろ!?」
破壊神(笑)を召喚後、早くも三日が過ぎようとしていた。
その間に在った事は、オレには語りつくす事が出来ない。
ぶっちゃけ特に何も無かったっちゃ無かった。
ただちょっと世界破滅の危機って奴をマオが救っただけだ。
まさか、タコ焼きがあんな所に落ちているなんて………
とまあ、そんなどうでもいい事は置いといて、
おいマオ、侵入者だ。
「えーっと、密林さんですか?」
確かに密林に生息しているであろうスネークは、段ボール箱1つで侵入してくるかも知れんが、流石に完全武装で此処に乗り込んでくるのは勇者くらいだぞ。
「あ~、久しぶりですね」
1ヵ月振りって感じか、今回は勇者に魔法使い、補助まで居やがるな。後は後衛に弓使いっぽいのも居るな。
「今回はまたどうしてそんな事に」
此処での『どうして』は、どうして勇者がわたしの家に? という意味では無い。
まあ、此処は魔王の城だし、勇者ぐらいバッチコーイって感じではある。
今回は中央のお偉い方が利権欲しさと、諸外国への牽制の意味を込めての勇者派遣らしい。
「それはまた、かわいそうな事をします」
なら何時も通りだな。
「お前ら、何の話をしているんだ?」
掃除の話。
「世の中の掃除は大変なんですよ」
「世の中を掃除する前に城を掃除したらどうなんだ」
「わたし基本この部屋しか使わないですから」
お前、地の文使えるんだから城の掃除くらい一瞬で終わらせちまえよ。
「お前たちは何も分かっていないな」
な、何がだよ。
「俺は、埃すらも破壊し尽す破壊神様だ!」
な、なんだってー!!
「いえ、はーさんが破壊神(笑)だって事は理解してますが?」
掃除してる理由にはなってないよな。
「自分が利用する処を自分が掃除する。そこに妥協は許されない。これは常識以前にモラルの問題だ」
ぐ……破壊神の癖に。
「はーさんは真面目ですねー」
「それよりそっちの件はいいのか?」
「まあ、問題ないですよ~」
そうだな、どうせ此処までは辿りつけないだろ。
「ですよねー」
むしろ面倒なのはその後の事後処理だな。
「ですよねー」
「だから、さっきから何の話をしているんだ」
勇者が来たから抹殺計画と奴隷化、復讐の話。
「それは、よくあっても……いい事事なのか?」
「年に一度はありますし、多い時は毎日ありますよ」
ああ、あの時は、時代が悪かったんだよ………
「世界滅ぼしてやろうかと思ったのは、後にも先にもあの時だけですね」
「いったい、何があったんだ………」
ちょっと勇者が来過ぎて世界滅ぼしちゃおうとしただけなんだぜ★
「待て、やっぱり聞きたくない」
まあ、世界がまだ続いてるんだから。滅ぼしてはいないのは分かり切った事だろう。
「ああ、そういえばそ」
この世界が、滅ぼそうとした世界と同じだとは言わないがな。
「それ、絶対に世界一つ滅ぼしてるよな」
過去の事は(どうでも)いいんだよ! オレ達は今を生きるぜ!
「そうです! 今が大事!」
おっと、勇者共が第一の関門に到達したようだぜ。
「勇者さん、短い人生でしたね。怨むなら自国の宰相とハーレム特性を怨んでください」
「まさか勇者のパーティーは女性率が高いのか!?」
「はーさん、二次元と現実を混ぜるのはよくないですよ」
そうだぜ、現実に美少女幼馴染とか、美幼女魔法使いとか、美人弓使いが存在して居る筈が無いだろ。
「そ、そうだよな。悪かった」
だから、奴らは殺しても構わない。
「存在していないんですから。殺しても問題無いです」
「それはただの逆恨みって奴じゃないのか!?」
―――ッ!?
「どうしたんですか~?」
奴ら第一の関門を突破したぞ!!
「ば、馬鹿な!?」
ってまぁ、第一の関門ぐらい突破してもらわないと楽しくないよな。
「ですよねー」
「お前ら絶対に楽しんでるよな」
「もちろんです!」
もちろんさ!
「魔王って勇者に斃されるのが物語って奴だよな」
魔王を倒すその勇者が一人目って事は絶対にない。断言しても良い。
「勇者一人で魔王が斃されるなら、わたしだって魔王やってないんですよ」
「なんだ、この妙な説得力は……」
さぁ、第二の関門『スライム地獄』に入った勇者一行を待ち受けるモノは!
「絶対にスライムが待ち受けてるよな!」
ふ、甘いな。
待ち受けているんじゃない。誘い攻めだぜ!
「なん……だと!?」
おおっと、ここでスライムの溶解液からの触手攻めが決まったぁぁあ!!!
「その映像詳しく!!」
な、ここでまさかのタネ攻撃!!??
それはいくらなんでも……!? まさか、スライムの奴らあれを!!
「勇者さん―――お元気で」(敬礼しつつ)
「ねぇ! 何やってるのか教えてよ!!」
決まったぁぁあああぁぁぁあ!!! 此処で弓使いが脱落だ!!
「詳しく教えろおおおおおおおお!!!」
安心しろ、後で映像にして送ってやるから。
「地の文……お前、いい奴だな」
あったりまえだろ!
「イエーイ」
イエーイ。
「バカやってないで、さっさと実況して下さいよ」
ああ、勇者一行なら第三の関門、凌じょ……もとい、『ゴブリン地獄』に入った様だぜ。
「今あからさまに素晴らしい単語が聞こえたんだが」
気のせいだ、気にするな。
「そうか、分かった」
さあ、弓使いが居なくなった勇者一行。
それでも、この面子ならゴブリンくらいは楽勝だと思うんだが如何思う。
「こっちはゴブリンなんだろ? なら余裕で勇者側が勝だろ」
「それが、そうは行かないのが魔王城の魔王城たる所以なのです!」
そう、こっちのゴブリン達は――――
全裸で装備が×××とピンク××××!!
「………!!!」
声も出ない様だな。だが、お前はまだ知らない。
「まだ、何かあるのか………?」
フロアボスには、電気マッサージ………その名も電魔を装備させている!!!
「!!! ――― !??! ……!!!」
ようやく分かった様だな。第三の関門の恐ろしさって奴がよ。
「ああ、俺は、見縊っていたよ。所詮は……殺すことしかできない魔王サイドなんだって」
ああ、争いは何も生まないんだ。
「そうだった、そうだったんだ。そんな簡単な事も、俺は忘れていたんだな」
良いんだよ。これから、勇者サイドをタップリと辱めてやろうぜ。
「ああ、そうだな!」
え? まさかの幼馴染脱落だと!?
あ、ああああああああ!!
ちょ、ちょっと待ってそれはやめ、あああああああああああ!!
「どうしたんです? 何があったんですか!?」
此処で、残念なお知らせ――――
勇者が、魔法使いルートに入った模様。
「リア充氏ね!」
「リア充爆ぜろ!」
爆散しろ!!
ま、次が最後の関門。『触手地獄』だ!!
「王道だな」
「むしろ外道ですけどね」
オレ達魔王サイド!
「卑怯外道邪道は褒め言葉!」
イエーイ
「イエーイ」
「イエーイ」
マオも乗って来たようである。
もうダメだ、早くなんとかしないと。
それにしても、マオさん良い笑顔である。
おっと、勇者が身を挺して魔法使いを助けている!
そこに魔法使いの追撃、援護!
迫る触手!
煌く聖剣(笑)!
「負けるな触手! こっちには性剣がある!!」
魔法使いが足を絡み取られた。
「そこです! 魔法使いを緊縛してしまいなさい!」
うねる触手が魔法使いの服を溶かして………!?
勇者が助けに―――行けない!!
私の事は良い! だから、早く先に進め!!
なんて健気な言葉を言い出す魔法使い。
走る勇者!
そして、最奥の扉が、今、開かれる。
ごごごごごごご
ぎぃー
「よく来たな、勇者よ」
あれ? マオさんキャラ変わってない?
「(いいじゃないですか、ちょっとくらい魔王らしくしてもいいじゃないですか)」
「お前が、魔王か!!」
恨みの籠った殺気混じりの視線をこっちに向けてくる勇者。
「そうだと言ったら?(怖い、恐いです~。あの視線で100人くらい殺せますよ!!)」
「民を苦しめ、世界に混沌を振りまくお前を、僕は許さない!!」
男の僕ってどう思う?
「(無いな、それより奴の言葉は本当なのか? マオを見てると、そんなことをしている様には見えないんだが)」
まあ、一日中ぐうたらしてるからな。無理も無い。
「(そこ! 今大事なお話の途中なんですから!)ほう。許さないか、では、どうするというのだ?」
「お前を斃す!!」
実際、政治関連はマオの方針で平和っていうか、むしろそこらの国より善政って感じだぜ。
「(なら逆恨みって奴か?)」
それがそうでも無い処がミソでな。
魔王直轄領では魔人に亜人、魔物と魔族が平和に暮らしているんだよ。
「(平和なのは良い事だろ?)」
ついでに変人奇人で有名な人間も、こっちに住んでたりするんだけど。
「(それがどうかしたのか)」
魔人達の魔法と人間(天才)の科学が混じって魔王領だけ文明が500年は先に進んでるな。これが文明レベルが異常な事のタネ。
こっちも譲歩して劣化版(それでも性能は異常)を輸出したりしてるんだけどさ。
それ使った犯罪者がいるらしいのよ。
「(それは……)」
まあ、こっちに非が在るとは思わんけど。
それでもあっちとしては、そんなモノを売っているこっちが悪い、見たいな。
「(…………いや、完全に逆恨みだよな!?)」
「(こっちは真面目にやってるのに二人だけ楽しそうです!)」
ほらほら、マオさん。勇者さんがお呼びですよ。
「行くぞ! 魔王!!」
「(ちょ、ちょっと待ってください)はハハはは! 人間風情が! 調子に乗るなよ!!」
ザッ(走り出す勇者)
「僕は今代の勇者! ゼノン!」
ポチっとな。
「この名をその身に『ガコッ』うわあああああああぁぁぁぁぁぁぁ」
ぁぁぁぁぁぁぁぁ。。。。。。。。。。。。
分かった?
ついでに言っておくと、その技術欲しさで他国が攻めてくる訳よ。
でも普通の軍じゃ勝てないからって、勇者を出撃ってチート過ぎるよな。
「それよりその勇者の姿が見えないんだが」
さっき落とし穴に落とした。
「………」
「いやー、迫真の演技でしたよね、わたし!」
おう、完璧な演技だったぜ!
御褒美にお菓子出してやるよ、ホレ。
「わーい」
「それで、いいのか………?」
はーさん、マオが正面から闘って、勝てると思うか?
はーさんはお菓子を嬉しそうに頬張るマオを見て、
「無理だな」
ですよねー
よし、これが完成した映像だ。
たっぷりと、楽しんでくれ。
「ふふふ、お主も悪よの~」
いえいえ、はーさんほどでは。
注意事項として、脳に直接映像を流すタイプだから気をつけろよ。
「ふ、愚問だな」
一回入れると2、3週間は頭に映像が焼き付くからな。
「ほう、素晴らしい。なら俺は、早速お楽しみだ」
いってらっしゃ~い。
マオは魔王の部屋に居るだろうから。安心して楽しんで来い。
「逝ってくるぜ! ヒャッホー!!!」
走って行ったが、二次元と現実の区別をつけろと、しっかり忠告してやったのにな。
その数分後、魔王城に突如響き渡る声。
「ガチムチ勢じゃねぇか!!!」
争いとは、常に虚しいものである。
「なあ」
「なんでしょうか」
「ここって、第一のダンジョンだよな」
そうだな。まごう事無き最初のダンジョン。
出てくるモンスターの平均レベルは1。
それをいたぶる勇者。
「最低ですわ」
ああ、最低だな。
「レベル1はレベル1でも………」
どうした、たかがレベル1だぞ。
「どうしてドラゴンが居るんだよ!」
…………
ドラゴンだな。
「ドラゴンですわね」
如何でもいいことだけど、ドラゴンって性欲強そうだよな。
「ぐふっ」
レナさん、鼻血鼻血。
「失礼しましたわ」
「お前ら余裕だな!」
たかがドラゴンだからな。
「そうですね、性欲は強くても(ダバダバダバ)たかがドラゴンですから」
鼻血止めてから言えよ。
「我が生涯に、百万の悔いあり………」
「悔いあり過ぎだろ!」
悔いの多い人生だったぜ………
「地の文、お前もか!!」
雑談はこれくらいにして、さっさと逝けよ。
「イントネーション違わない!?」
「早く逝ってください」
「ドラゴンの巣窟とか本気で逝くから!」
勇者の男気、見せて貰うぜ。
「いやいや、何此処で行かなきゃ勇者じゃないみたいなこと言ってんの?!」
「これが、勇者と言うモノなのですね」
ああ、オレ達じゃ出来ない事を平然とこなす。
流石勇者だ。
「私、勘違いしてましたわ」
「何で俺の意見と全く違う処で俺の評価が上がってんの!?」
いいから逝け。
「さっさと逝きなさい!」
レナに背中を蹴られ、無理やりダンジョンに押し込まれる勇者。
縄張りに侵入してきた勇者に対し警戒心、と言うよりも敵対心を顕わにするドラゴン5頭。
ああ、これで旅が終わる。
「長いようで、短かったですね」
俺達は勇者の、最後の勇姿を目に焼き付けるように(期待に満ちた目で)一瞬の瞬きもせず、いや、瞬きすら許されない空気の中で、それを見た。
「ごふぁぁ」(勇者がドラゴンAの尻尾に弾き飛ばされる)
「ぶるぁあ」(勇者がドラゴンBの爪で引き裂かれる)
「うがぁっ」(勇者がドラゴンCのブレスによって焼かれる)
「………」(勇者がドラゴンDに対してマジ土下座)
「やっぱ無理だっどぶぁぁっ」(勇者がドラゴンEに蹴り飛ばされる)
おかえり~。
「お帰りなさいませ。はぁ、この勇者使えませんわ」
いろいろあってダンジョン入り口に帰還した勇者。
マジ使えねぇ………
「お願いします。最初はスライムとかで、お願いします」
そのスライムにも負けそうだったじゃねぇか。
「アレは、明らかに量がおかしいだろ!」
意外と元気出し、もう一回放り込んでみない?
「ホント、すいませんでした! 私はスライムにも劣るダメ勇者です!」
「ダメ勇者でしたら、ここで居なくなっても構いませんわよね」
むしろドラゴンの餌になるだけ世の為、人の為って感じがするけどな。
「俺にどうしろと?」
涙目で語る勇者。
こんな勇者の姿は見たくなかった………
「ほら、さっさと行きますわよ」
「え? でもドラゴ」
おもむろに前に出るレナ。
「天国の扉を叩け☆」
レナの魔法によってドラゴン達が消え去った。
「……………」(呆然とした勇者)
オレ、言い忘れてたんだけどさ。
「なんだよ」
ここ、レベル1と言っても―――
EX Lv1 なんだよね………
「それ裏ステージ的な場所だよな!」
「何をしているんですの?」
「今行きます!!」
完全に尻に敷かれてるよな。
「逆らった瞬間に、俺は死ぬと思う」
その意見には全面的に同意しよう。
「ここが、最奥の部屋で………いいんだ、よな?」
満身創痍だな勇者よ、何と情けない。
「これまでの道程を考えてから言ってくれ………」
これまで?
レナさん大活躍。
これ以外に何か有るなら聞こう。
「言った俺が間違ってたよ」
良く分かってるじゃないか。
「ほら、早速ステージボスのご登場ですわ」
扉を開けたその先には―――
巨大な体躯を持ち、
その手足口には鋭利な爪や牙、
透き通るような全身、
その頭にはこのダンジョンの王に相応しい金の冠、
そう、このダンジョンのボスであるキングドラゴンスライムが居た!
「スライムかよ!」
なら勇者、お前が行ってこいよ。
「そうですわね。そこまで言うなら勇者一人に任せても大丈夫でしょうし」
「俺は、たった一体のスライムなんかに、今さら負けられないんだよ!」
勇者の叫びは切実過ぎて、突っ込みづらいな。
「ここまで言ってくれてるんですから、とりあえず行かせてみましょう」
そうだな、試すか。
オレ、勇者が勝てたら……レナたんときゃっきゃうふふするんだ。
「この旅が、終わらなければいいのに」
「あからさまな死亡フラグを建てるんじゃねぇよ!」
勇者は叫びながらキングドラゴンスライムに突っ込んでいく。
ここで簡単にキングドラゴンスライム(以下『Kドスラ』)についての説明をしよう。
「わー、ぱちぱちぱち」
ありがとう。
Kドラスラはドラゴン種の中では上位に位置する強さを持つ。
ここで重要なのは、Kドラスラはスライム種では無く、ドラゴン種に分類されている事だろう。
なぜ、スライムの特徴を持つKドラスラが、ドラゴン種に分類されているのか。
簡単な事だ。
Kドラスラはドラゴン最大の特徴である硬い外皮と、生物最高レベルの生命力を有しているからである。
さらに、スライムの特徴でもある物理ダメージ無効、核を潰さない限り死なない再生力。
「そんな奴を倒すにはどうしたらいいんですの?」
それもある程度、と言っても人間でいえば最高レベルに達した者たちなら簡単な事だ。
「最高レベルって言われましても、国内でいえば10人程ですよ?」
結構いるじゃん。
10年に一度の天才とか、国始まって以来の天災レベルじゃないんだから。
「そう言われると結構いる様な気がしてくるのも不思議な話ですね」
んで、その方法なんだが。
圧倒的火力を持ってKドラスラを核ごと消滅させるか、Kドラスラの魔力切れを待ってちまちま削っていけばいいんだよ。
「……ちなみにキングドラゴンスライムの推定魔力量は?」
ざっと10万ってところだな、前後1万の余裕をもってくれればいいと思うよ。
「今の勇者がそれを削るとしたら?」
戦闘中のレベルアップも考慮したとして―――
100年はかかる。
「圧倒的な火力は?」
今までの戦闘を見る限り50年後にはきっと………
ただそれまで生きていても、魔力回復できなきゃ無意味だけどな。
「勝てる可能性は?」
無い☆
「はぁ、そろそろ助けに―――」
「ぐふううううううううううう」
行く必要はなかったな。
「ですわね」
では、いい訳を聞こうか。
「さっきの説明を………3分前の俺にしてやって、くれ……」(バタ)
しーーーーーーーーーーん
どうする?
「とりあえずボスを消して、それから考える事にしましょうか」
ああ、そうだな。
「丁度良い機会だし、今後の方針も考えなくちゃね」
レナさん、地が出てますよ。
「おっと、いけませんわね。うふふ」
ハイハイ、ちゃっちゃと終わらせてきちゃってね。
「行ってきますわ」
レナが部屋に入ると同時に、戦闘状態を保っていたKドラスラが此方に向かって飛んでくる。
あのサイズで飛ばれると、流石に威圧感満点だな。
「哀れな子ヒツジを、生贄に捧げましょう」
して、今回の生贄は?
「そこの大きな生ゴミですわ」
勇者の事か?
「そうしたいのはやまやまですが、彼にはやって貰う事があるでしょう?」
まあ、眼の前にもっと大きな生ゴミが迫ってるしな。
「―――堕ちろ、炎獄」
次の瞬間には、Kドラスラの姿どころか、影も形も存在すら消えていた。
案外あっけなかったな。
「そうでしたわね」
さっさと帰ろうぜ、飽きた。
「そうですわね」
勇者置いてっていいかな?
「どんな選択を選ぶにしろ、面倒なのは私だけじゃないですか」
いやぁ、すまんね。
「いいですわ、慣れてますから」
文句を言いつつも勇者を担ぎあげる、そんなレナさんに惚れる痺れる憧れる!
「ハイハイ」
今日は飲むぜええええええ
「貴女飲めないじゃないですか」
今日は冷たいっすね。
「私はいつもこんな感じですわ」
レナの独り言―――周りからはそう見える―――はダンジョンを出るまで続いた。
楽しげに、懐かしげに、その独り言はダンジョンの壁に反射して響く。
「ハッ! 此処は何処だ!?」
「さっさと死になさい」
どうして生きてるんだろうな、この勇者。
「俺の扱いがさらに酷くなってる」
スライムに負けたんだから当然だな。
「当然ですわね」
スライム以下。もはや雑草にも劣るな。
「もはや生ゴミにも劣りますわ」
「早く、生物になりたいです……」
既にお前は生物だよ、ゴミだけど。
「今日は何して遊びましょう?」
どうした、マオ、頭にカビでも生えたのか?
「今日はいい天気だからな」
外はジメジメした曇り、間違ってもいい天気では無い。
「二次元にとってはいい天気だ」
どうでもいい天気だろ。
「そうとも言うな」
「二人ともわたしの事無視しないでください!」
二人? 今此処にはお前と破壊神の二人しかいないんだが。
「地の文さんも一緒に遊びましょう!」
――――ッ!
母さん。娘は、頭は緩くても、真直ぐな良い子に育ちました。
「とっても失礼な事を言われた気がします」
何言ってるんだ? オレがお前の事をバカにしない訳がないだろ?
「結局失礼です!」
「で、これから何するんだ」
「これをして遊びましょう!」
そして取り出したるは闇のゲーム。
ま、まさかそれは!
「地の文、お前、あれを知っているのか!?」
知らない。
「何言ってるんですか! 前にもやったじゃないですか」
前って何時の事だよ。
「26年くらい前でしたかね」
26年前? ………あ!
「思い出してくれたんですか!?」
いやぁ、やってもいいけど、頭数は足りているのか?
「昨日の勇者さん達でギリギリ揃いました!」
よし、ならやるしかないな!
「イエーイ!」
☆-(ノ゜Д゜)八(゜Д゜ )ノイエーイ
「何を始める気だ。まったく分からないんだが」
簡単なゲームだ。
「そうですね」
ルールは簡単。
「勇者を選んで」
レッツ、トトカルチョ!!
「勝ち残れば」
豪華景品が君の手に!
「まったく分からないんだが、詳しく」
いや、26年前は毎日のように勇者がやってきてな。
「あの時は本当に大変でした」
「いやお前の歳はいくつだよ」
で、マオは殺したくない、勇者の捕虜は増えて行く。
「無視か、そうか無視か」
勇者派遣した国共は勇者派遣した事実は認めたくないから、勇者を引き取りに来ない。
囚われた勇者たちを助けるために新たな勇者がやって来る。
さらに、勇者が殺されたって勘違いして、新たに暗殺者とかも来る。
とまあ、悪循環に次ぐ悪循環でな。
「最終的に何人くらい集まりましたっけ?」
ざっと、143689人くらいじゃね?
「ざっと……? てか多過ぎだろ」
「あの時は、時代が悪かったんですね」
そうだな。
勇者たちに事実を伝えて、それで魔王領に住むようにも説得したんだ。
でも奴ら勇者だろ?
「いや、勇者と言えども人の子だろ? と言いたい」
勇者過ぎて『魔王=人類の敵』って等式が頭ん中に刷り込まれててな、もう洗脳の域に達してたぜ。
説得も虚しく、魔王軍に降るぐらいなら自決するって奴が………1万人くらいいてな。
「洗脳されてたのはむしろ少数派だろ!」
細かい事は気に済んなよ。
その1万人をどうするか、マオと話し合ったんだよ。
「なんだ、結局殺したのか?」
マオがそんな事する様に見えるか?
「えへへ」
「見えんな」
ですよねー。
そこで、俺たちは考えた!
「企画立案、わたし」
細かい調整、実況はオレ。
「その他提供は勇者でお送りします」
第1回!
「魔王城使った、リアル人生ゲーム!!」
これは魔王城をマップに見立てて、先に進む簡単なゲーム。
「魔王城の各所には各種マスに応じて様々なイベントが発生します!」
ゴールは此処! 魔王の部屋。
「スタートは牢獄、地下3階!」
しかし、ここは腐っても魔王城。
各種マスで起こるイベントは強制発動、回避不可!
ルール違反者には過酷なペナルティ。
「さぁ、熾烈な戦いが、今、始まります」
「で、それを眺めて楽しむと?」
「その通りです!」
「悪魔か………」
「褒め言葉ですね。その王様、魔王ですよ」
今何人いたっけ?
「昨日の勇者で千人貯まりました!」
おお、それならそろそろ放出してやらないとな、勇者たちが可哀想だ。
「準備しますから、はーさんは捕虜に魔王領の事実でも伝えて来て下さい」
「は?」
いやいや、強制参加って言っても魔王領に住みたいって奴はそのまま暮らして貰うし、争いが嫌な奴だっているだろ。
まあ、説得してきてくれって事だ。
「まぁ、何となく理解した。牢獄は地下三階だったな」
おう、俺がナビゲートしてやるよ。
「ああ、任せる」
そして、オレ達は人生ゲームの準備を始めるのだった。
準備は出来たか?
「説得は上手く行きました?」
「上手く行った。―――とは言えるのか、基準が分からん」
最終的には600人程残ったようだぜ。
「残ったのは6割程ですか、グッジョブですはーさん」
説得が巧過ぎて全員住み付いちゃうんじゃないかって、オレはハラハラしてたけどな。
「そんなに上手かったんですか?」
いや、上手いんじゃない、巧いんだよ。
600人残ったのが不思議なくらいだぜ。
「それではこっちも始めましょうか」
「いや、準備は終わってるんだから、俺達がやる事はスタートの合図をするだけだろ」
「何言ってるんですか、はーさん」
それじゃ俺たちが楽しくないだろ。
「じゃあ、何をするんだよ」
「最初に言ったじゃないですか」
レッツ、トトカルチョ!!
「まさか、賭けるのか」
その通り!
「そのまさかデス!」
賭けるのは何でもいいぜ。もちろん賭ける対象だって選び放題。
最終的なクリア人数から最初にゴールした奴。
「途中の脱落者から最初の脱落者」
何を賭けても!
「何に賭けても!」
OKだ!
☆-(ノ゜Д゜)八(゜Д゜ )ノイエーイ
「よし、ならレース前の予想を聞こうじゃないか」
はい、こちら解説席の地の文です!
「牢獄の中の方はどんな状況でしょうか」
えー、今回で第32回を迎える勇者杯in魔王城ですが、参加者のそれに対する意気込みはあまり感じられません。
「やり過ぎだろ!」
言っただろ、26年前は毎日のように勇者が来てたって、人数が溜まり次第消化するようにしてんだよ。
大体千人区切りでな。
そんな事は置いといて、ただいま牢獄ではざわざわと声が聞こえてきますね。
解放するという言葉が、未だに信じられない勇者たちの心情が伝わって来るようです。
「今回のレース、地の文の予想はどんな感じでしょうか」
今回は難しいですね。
なんと言っても、昨日捕える事に成功した勇者ゼノン。
彼はここの最年少となりますからね。体力では誰にも負けないでしょう。
「と言う事は、勇者ゼノンが一番期待出来ると云う事でしょうか」
いやいや、そうでも無いのが勇者杯。
魔王城の地下には魔法と科学の結晶、『時の狭間』が置いて在りますから。
「待て、『時の狭間』とは何だ?」
はーさん『時の狭間』をご存じでなかった?
「初耳だが」
「あ、そう言えば説明してませんでしたね」
説明しとけよダメマオ~。
「ダメじゃないです! バカなだけです」
馬鹿だって自覚はあったんだな。
「マオがバカなのは今更だろ、早く説明の方頼む」
え~、『時の狭間』と言う魔道具は、簡単に言えば時間の流れを変える事が出来る装置だ。
「時の、流れ?」
その中に入った奴は老いる事が無く、食べる事も必要なくなる。まあ、極論だけどな。
実際にはこっちでの数年が、奴らにとってはたったの一日ってところだ。
たまに食材持ってくの忘れてクレームが来るけどな。
「それは、実際に時が止まっているのと変わりない気がするんだが」
「牢獄の中で一生を過ごして死ぬなんて可哀想です!」
「その一生を無意味に伸ばしている奴が言えるセリフじゃないよな」
と言う事で、ゼノンに次ぐ二番目の期待星、勇者ジン!
勇者ジンはここでは一番の古株、最古参!
彼の時代で培われた技術は現代に勇者に通用するのか!
「おお、それは期待できそうだ」
おっと、まだまだだぜ。
それでは、
ここからはマキで紹介の方をして行くぜ!
何時捕らえたのか分からない勇者の従者、『最狂メイドメルカ』!
去年の夏に捕らえた魔法使い、『破邪の眼光ミンス』!
今年の大侵攻の時に捕らえた狂人、『狂獣ウォッカ』!
一昨年の大災害時に侵入してきた盗賊、『開け師のリン』!
そして、その他580人と諸々でレースの方を開始したいと思います。
さぁ、魔王のゲームを始めよう!
では、合図をどうぞ。
「あー、あー。マイクテストマイクテスト。勇者のみなさーん、聞こえてますか~」
『ざわざわ』
「感度は良好ですね」
「ん? この音はなんだ?」
ああ、この城中に張り巡らした盗聴器の音だよ。
「は?」
「ちゃんと映像もありますよ~」
「さっき準備してたのはこれか」
「わたし、頑張りました!」
毎回やってると慣れるもんだぜ。
「慣れって、恐いもんだな」
ああ、まったくだ。
「大丈夫そうですね。では、
とてつもなく強情な勇者どもにはこれからゲームを行って貰います」
『―――! !? ざわ? ざわざわ!!』
「静かにしてくださいね~」
『――――――――――』
「自由の身になりたいかああああああああああああ」
『うおおおおおおおおおおおお』
「シエンス国に行きたいかあああああああああああ」
『うおおおおおおおおおおおお』
「魔王領に住みたいかあああああああああああああ」
『――――――――――』
「ノリが悪いですね。では余興は置いといて、ルール説明にまいりましょう」
「なあ、あのマイクの出力って」
ああ、たぶんその予想は当たってる。
「ならこのゲーム自体もか?」
はーさんも理解したと思うんだが、はーさんの説得でも説得されない勇者どもだぜ?
これ以上の説得は無理だ。だったら、逆に洗脳しちゃえばいいんだよ。
「その事をマオは」
知ってるよ。
はーさんが来る前は、準備してたのはマオだけだぜ?
オレが説明しつつ準備してたんだ。
いくらマオがバカだからって、分からない訳ないだろ。
ただ、一回の説明でマオが理解しているかどうかは、オレには分からないけどな。
「各所にはトラップの代わりに各種イベントマスと言うモノが存在しています。
それを踏んだ場合、そのイベントはマスの周囲10メートル以内に存在していた人たちも強制参加とさせてもらいます。
では最後に―――
ルールが無いのがルールです。
どんな事をしてもでも、この魔王の部屋を目指して下さいね!」
『うおおおおおおおおおおおおおおお』
掛け声とともに勇者一斉にスタートを切りました。
さぁ、始まりました勇者杯、ここからは魔王城の各所に張り巡らせた監視カメラと、盗聴器で勇者杯を見守っていきましょう。
「わー、ぱちぱちぱちぱち」
なお解説、実況はこの地の文で、お送りさせて頂きます。
「賭けはいつまで有効だ?」
「今回、はーさんはゲストですから」
そうだな、今回は長丁場になりそうだし、開始後―――今から2時間後まで有効にするか。
「では早速賭けさせてもらいましょう」
お、早くもマオが動いた!
「ジェイル=ルーザインが一番にゴールするに、『化○語ブルーレイ全巻ボックス』を賭けましょう!」
「誰だよ!?」
おっと、大穴狙いとはマオさんやりますね。
「ちなみに倍率は?」
ええっと………前評判では562倍だな。化物○全巻ボックスだから、当れば約6793Gの払い出しだな。
「Gって、ゴールドか?」
いや、グングニル。
「単位が物騒過ぎる!」
1グングニルは約1万帝国金貨だな。
「物価もおかしい!?」
いやいや、この国の技術が高すぎるんだよ。
その所為でちょっとな。
ちなみにGの上にはA、他国に合わせるためにGの下にはRがある。
「読み方は」
アイギスとレーバテイン。
「想定の……範囲外だった」
1アイギスは1000グングニル。1レーバテインは100帝国金貨ってところだな。
「それよりもレースです」
おお、あっちも動きがあったようだな。
開け師のリンが1階ロビーに辿り着いた模様。
おっと、地下2階では早くもイベントマスを踏んだ奴が居るな。
「マスを踏んだのは誰ですか?」
マオが賭けてたジェイルだな。
「そんな! でも、まだ勝負は分かりません!」
あ………
「何が、いったい何があったんですか!? 映像が無くて分かりません!」
ジェイルくん、リタイヤっぽい。
「そんな、まさか………」
「リタイヤって事は死んだのか?」
洗脳完了で魔王領色に染まったって事。
ジェイルに巻き込まれて数十人が一気にリタイヤしたな。
「平和って、素晴らしい」
現実逃避したところで、現実は何も変わらないんだぜ!
「言われなくても、分かっている……」
「飽きてきました……」
「早すぎるだろ!!」
マオは一発外すと飽きるタイプだからな。
これは仕方無い。
おっと、最古の勇者ジンが開け師のリンを抜いて2階へ到達した模様だ。
開け師は1階ロビーで何かしてるっぽいが―――ああ、なるほど。正面玄関を開けようとしてるのか。
「ふふふ、勝負から逃げるなんて、わたしが許しません!」
「今さっき勝負を投げ出した奴とは思えない発言だ」
ルールが無いのが一つのルール。
それは観戦者側にも適用される。
逃げるもアリだが、果して逃げ切れるかな?
「ポチっとな」
マオさん、早すぎません?
「いいんです! ただの奴当りですから」
納得。
「何を作動させたんだ?」
「正面玄関脱走者専用マス。その名も『ホイホイくん』です!」
開け師のリンに、敬礼!
「ビシ!」(`・ω・´)>
アイツは、いい奴だったよ。
全く知らない奴だけどな!
「何が起きるんだ?」
「見てれば分かります」
ああ、見ていれば、ってもう始まったな。
あの中央画面を見ろ。
「まさか、あれは―――!?」
「今回は過激にしてみました」
おお、マオさんグッジョブだぜ。
録画録画―――よしおっけい!
「今度こそ、その映像は―――」
任せろ(キリッ
「任せた」(ビシッ
オレ達は、植物らしきモノに蹂躙されるリンの映像を、心行くまで楽しむのだった。
ちなみに白い液体は魔王領特製の『性脳液(白濁バージョン)』だ。決して○液では無い。
緑、青、黄色とバリエーションは豊富、人体に無害(?)、一口飲めばあら不思議、その場で貴方も魔王領の人間になれる優れモノ!
今ならなんと!
全種セットで驚きのお値段!
「ハイハイ、非売品ですから勝手に売らないでくださいね」
(´・ω・`)ショボーン
「地の文、言い値で買おう」
マジっすか!
流石はーさん、話が分かる!
そこに痺れる憧れる!
「非売品ですからね~」
くっ……神は我等を見放した!
「くくく、俺の地の文へ介入する程度の能力を駆使すれば、性脳液を手に入れるぐらい造作も無い!」
地の文に介入するとか、そんな設定あったね、忘れてたよ。
でもそんな事はどうでもいい。
オレには、はーさんが神に見える!
「一応破壊神は神にカテゴリされると思うんだが」
そう言えば破壊神でもあったんだね。
忘れてたよ。
いやマジで………
「わたしは魔王です!」
うん、知ってる。
「常識だな」
最狂のメルカと狂獣ウォッカが1階に到着。
遅れて破邪のミンスは遅れて地下一階―――いや、何か仕掛けつつ上の階を目指してるな。
「ミンスは何をやってるんだ?」
たぶん巨大な魔法陣でも作ってるんじゃないか?
平面じゃなくて立体的に作る辺りに技量の高さが窺えるな。
「これも失格にはならないのか」
マオさん、そこの処はどうなんでしょう。
「アリです!」
GOサインが出たようなので、このまま実況の方を続けたいと思います。
「よし、俺は勝負に出るぞ」
はーさんが、ついに動いたあああああああ!!
「ゼノンが一番最初にゴールする事に、巣作りド○○ンを賭ける!!」
あの名作を!?
ちょっと待つんだ! 早まるんじゃない!!
確かに一番の期待星だが、それでも、お前は賭けるのか……?
「漢に二言は無い。代わりに―――」
「か、代わりに?」
「賭けに勝った場合、性脳液を全セットで渡して貰おう!」
な、なんだってー!?
こいつ、神に見える!!
「俺は、神だ!」
「破壊神も神と言えば神ですよね」
このやり取りもさっきやったな。
「あ、あれ見て下さい!」
マオ、どうし――――ッ!!
画面を見れば、先行していた最古のジンがトラップに引っかかっているだと!?
いったいオレ達が雑談をしている間に何があった?
ジンは何も出来ずに此処で終わってしまうのかぁ!?
しかも、地下の方でも数百人が脱落した模様だ。
一人がマスを踏んでそのまま玉突事故の様にぞろぞろと………
精鋭揃いの勇者も形無しだな。
「それには激しく同意したい気もするが、このゲームの主旨を考えると同意しずらいな」
「気にせず楽しんでしまえばいいんですよ!」
人生楽しんだ者勝ちだぜ!
お、ジンのマスイベントが終了したようだぜ!
「そんな! バカな!!」
「なん……だと!?」
ありえ―――ないだろ?
ジンは何事も無かったように先に進み始める。
まさか、イベントによる洗脳が効いていない?
ふふふ、洗脳も聞かない最古の勇者……これを待っていた!
「ついに、ついにわたし達の本領が発揮できます!」
「よく分からないんだが……」
説明しよう!
洗脳マスってのは―――
「待て、漢字がおかしい」
これが仕様だ、諦めろ。
「アイコピー」
説明を続けるぞ、始まってもいなかったけど。
洗脳マスってのは一回でも踏めば、それで洗脳が完了する様になっている。
オレ達は正義の勇者じゃないから、スタート地点でも出し惜しみは無い。
要するに、何処でマスを踏もうが一発アウトの即死トラップでもある。
しかし、奴はイベントが終わった後でも洗脳されていない。
「それは、やばいんじゃないのか?」
大丈夫だ、問題ない。
「それは死亡フラグだ」
実際、偶に居るんだよ。
洗脳耐性みたいなの持ってる奴。
「今までで何人いたんだ?」
0人。
「コイツが初めてかよ!」
だってー。
「だってじゃない」
「だってー」
「マオもちょっと黙ってろ」
「(´・ω・`)ショボーン」
「その顔文字はどうやって発音してるんだ?」
不可能など、存在しない!
「カッコ良く言っても、カッコ良くはないからな」
大丈夫、何とかなるさ。
どうせ、肉体的な意味でマオを殺せる奴なんて居ないんだからな。
「は? それはどういう―――」
おっと、ゼノンが狂獣ウォッカの作った道を使って3回に到達!
狂獣ウォッカが何時の間にか1階から3階までの天井をぶち破って居た模様。
ウォッカ本人は3階で、これまた何時の間にかリタイヤしております!
さぁ、ゲームもいつの間にか終盤に差し掛かって来ました!
最初にゴールするのは先行している4階の最古のジンか!
怒涛の追い上げを見せる3階の最新のゼノンか!
はたまた、マイペースに進む2階の最狂のメルカか?
魔法陣を作りつつ進む破邪のミンスからもも眼が離せないぞ!
「他の500人くらいは何処に行ったんだ?」
もうリタイヤしました。
「そうか……」
「見せ場も無かったですね……」
儚い、人生だったよ。
オレは、あいつ等を忘れない―――3分くらい。
あ、カップラーメン作って来る。
「もう忘れかけてますよ!」
もう忘れたよ。
「早すぎます!」
どうでもいいじゃん。
「それもそうでしたね」
「納得するなよ……」
しまった!
「どうしたんですか?」
不味い事になったかも知れん。
「お前が焦るなんて珍しいな」
破邪のミンスの奴、この城を吹き飛ばす気だ。
「――――え?」
あの野郎……じゃなかった、あの美少女チマチマ小細工してると思ったら、大魔法陣に全魔力注いで、命と引き換えに魔王城を墓場に変える気だ。
「それはいけませんね」
「意外と冷静だな」
マオ……アレの準備だ。
「アレって……まさか!」
そう、そのまさかだ。
「何でしたっけ?」
忘れんなよ!
アレだよ! さっさと準備始めろ。
「だからアレって何ですか!?」
ほら、部屋の隅の方に在るでしょ、さっさと準備しろボンクラ。
「あ、アレの事ですか。あれは疲れるからあんまり―――」
いい訳すんな早くしろ。
「何をする気だ?」
準備中の魔法陣に大量の魔力を注ぎ込んで、ぶっ壊す。
「できるもんなのか? 俺が調べた限りじゃ、発動するための魔力の10倍は流し込まんと無理だったと思うが」
此処に居るのが、誰だと思ってるんだ?
「準備できましたよー」
よし、
「目標確認」
魔力固定。
「限界魔力、推定26万」
余裕だな、やっちまえ。
「いっきまーす」
―――メキッ―――
―――――メシッ―――――
「むむ、意外と硬いですね」
ミンスの奴が対処し―――いや、アイツこのまま発動させる気か!?
「やらせません!」
――スゥ――――
魔法が発動―――
バリン!
しなかったな、流石に。
「ふぅ、危ない所でした」
いやぁ、実際ギリギリっぽかったな。
「俺の見立てだと、コンマの差でこっちの勝ちだったな」
おお、マジかはーさん。
ホント危なかったんだな……
「ともあれ、ミンスさんの方は無事ですか?」
ああっと――――ああ、生きてはいるな。
「『生きてはいる』?」
魔力枯渇状態だ。
3日もすれば元気になるだろ。
「そう言えばゲームの方は」
やっべ………
ジンが部屋の前に居るんだけど。
「!?」
「!!」
ギィイ――――
今、貴方の目の前にってか?
「魔王よ」
「はい?」
やだ、ちょっと声が渋くてカッコイイ。
「(他の奴は、特に俺が賭けてたゼノン)」
残ってるのは奴だけだ。
「(つまり……)」
負けた。
「願いを、叶えてくれると聞いた」
「ええ、ここに辿り着いた者の願いは一つだけ、何でも叶えてあげるとは言いましたね」
「たとえそれが。お前の死、だとしてもか」
「ええ、貴方が、わたしを殺せるなら」
真面目な話、だるいな。
「(俺、自分の部屋に帰っていいか?)」
ダメ。
「(俺、必要ないだろ)」
俺が退屈だから。
「(納得した。だが断る)」
そう言って、破壊神は自分の部屋に帰って行った。
あ、テメェ! また地の文改変って、もういねぇ!!
「(ちょっと静かにして下さい。今何か真面目なんですから)」
はぁ。だるいわぁ。
「叶えて貰いたい、願いがある」
「わたしにできるんだったら……と言っても、出来ない事の方が少ないかもしれませんが」
「お前の心臓は魔力消失病の特効薬になると聞いた」
「ああ、そう言えばそんな噂もありましたね」
あったなぁ、どっかの宰相が流したデマだけどな。
「娘を助けるには……もう、それしかないんだ」
魔王の心臓とか、誰が手に入れた事あるんだって言いたいよな。
「(ごもっともですけど、この人必死ですから)心臓くらいならあげますけど」
「ほ、本当か!?」
「娘さん、もう死んでいるかもしれませんよ?」
「な………出鱈目を言うな! まだ半年は猶予がある筈だ!」
「ちなみに、今は帝国歴で1568年ですよ?」
「まさか……そんなバカな!!」
「ちなみに娘さんのお名前は?」
「レナだ、レナ……ジルドレット」
「ちょっと待っててくださいねぇ(どうなんですか地の文さん)」
ちょっと待て、調べ……もとい、思いだすから。
ってか情報が少なすぎる。
もっと質問して。
「死亡予定日はいつでした?」
「帝国歴で1543年の冬は超えられないと、診断されていた」
1543、1543で、レナレナレナああああああああああああああああ
「どうしたんですか!?」
「―――っ?」
「いえいえ、こっちの話ですからぁ(地の文の所為で、わたし頭悪い人みたいじゃないですか)」
安心しろ。おまえは元から頭が悪い。
「(そういう問題ではありません)」
レナさんかぁ。
「(―――え?)」
お前も知ってる。
あのレナさんだよ。
「えええええええええええ!?」
「何か……あったのか?」
「あのぉ……とても言い難いと言いますか、何と言いますか」
「言ってくれ、頼む」
「娘さん―――」
「――――やはり……」
「生きてますよ」
「間に合わなか――――は?」
「その内、此処に来ると思いますけど」
「生き、てる……? 娘が? 生きてる!?」
感動の瞬間って奴だな。
「娘さんが来るまで、此処で暮らしますか? と言っても、城下町に宿を取って貰いますが」
「娘は元気なのか? 病気はどうなった!?」
「元気ではあると思いますけど」
「何時会えるんだ、すぐに来るのか!?」
「ええい、黙りなさい!」
マオさん、杖で叩くのはやり過ぎだと、ほら、ジンさん気絶しやったじゃない。
「幸せそうな顔ですね、ドMだったんでしょうか」
その結論は無い。
「まぁ、放っておきましょう」
ここに置いておくの邪魔じゃない?
「外にでも」
了解。
はーさん、安心しろ。
今度こそ本物だ。
「本当だろうな? 美少女のアレな姿なんだろうな?」
バッチリ映ってるぜ。
しかも、無修正だ!
「早くそれを寄越すんだ」
ハイハイっと。
「今夜はお楽しみだぜひゃっほおおおおおおおおおおいいいいい」
性脳液の事はスッカリ忘れてるな、はーさん。
はーさんを見送りつつ、俺は今後の予定を考える。
面白くなってきたな。いやまったく。
新まおうとゆうしゃとはかいしん よろしくお願いします