神様が役に立たない
ダメだったよパトラッシュ………
てことでボツネタ入りです。
書き途中だった部分も含めてあるので、最後の方は読みにくい状態です。
あしからず。
憎い。
憎い、憎い、憎い。
神が憎い。
妹を殺した存在が憎い。
両親を殺した運命が憎い。
この人生を用意した存在が憎い。
この世界の運命が憎い。
何よりも―――
そうだ、何よりも―――
何も出来なかった自分が、憎い。
なぜ自分が生きているのかが分からない。
今までの人生には意味が無かった。
これまでの人生に意味は無かった。
それも終わる。
意味の無い、無駄しかなかった人生が終わる。
この体はもう限界だ。
改めて考えても、私の人生に意味は無かった。
両親が死んで、妹が殺されて、最後に残った私も死ぬ。
やっと終わる。
顔には右上から左下にかけて大きな傷。
体にも無数の刺し傷、特に腹に受けた刺し傷は背骨を断ち背中まで貫通している。
右手はもう動かない。
左手はいつの間にか肘から先が無くなっていた。
唯一の救いは、消し炭にされた下半身の感覚が無い事かもしれない。
まあ、傷に関係なく、私の体は病に冒されているから、半年はもたないらしいが。
半年が数分になった程度、それでも私は安堵を感じている。
救いを感じている。
やっと、やっと死ねる。
死ぬ最後の瞬間まで世界を憎悪していた私。
最後の瞬間まで、神を憎悪している私。
ハハハ――――
みんな死んでしまえ!
何此処?
いや、何処とか以前に、真白過ぎ。
目が痛い。
ああ、疲れた。
体だるいし。
寝たいんだけど、電気消してくれない?
「こらこら、寝るな」
「誰? 私寝るから、3時には起こして」
「だから寝るなっつってんだよ」
「何よ、私疲れてるの。さっきまで―――」
あれ? 私何してたんだっけ?
ええぇ? 記憶……はあるわね。
「お主は死んだんじゃよ、ふぉっふぉっふぉっ」
「黙れクソ野郎」
「………」
20歳前後の青年がしょぼくれていても可愛くない。
そうだ、記憶をしっかりと辿ればいいんじゃないか。
そう、朝起きて、戦って、夜は寝て、朝起きて、戦って、夜は寝て―――
って、いつからこんな生活してたんだっけ?
あっ!?
今日は魔王城に攻め込む日じゃない!
「そこのお前、今何時だ!?」
「此処に時間なんて概念は存在しない」
「はぁ? いや、私急いでるんだけど」
「お前が参加した城攻めなら、負けたよ」
「―――!?」
まって、ちょっと待ちなさい。
え? 負けた? 国の総戦力で挑んだ戦に負けた?
「出鱈目な事言わないで!」
「結果が知りたいなら今から流そうか?」
「何を、言って―――」
真白だった空間に、突如現れる極彩色。
白しか認識していなかった意識の中に、カラフルな映像は意外と堪える。
「水月2週、第5の日、6:57時より開始された魔王城侵攻作戦」
青年の言葉とともに、映像が動き出す。
「7:35時、戦場は王国軍優勢で推移」
ああ、私が居る。
その行動も、姿も、戦い方も、別の人物の様に感じはするが、間違いなく私だ。
「9:01時、魔王殲滅班『ピースメーカー』が城の最墺、つまり魔王の部屋に到着」
そうだ、あの扉を開いた先に魔王が居た。
悠然と、悠々と玉座に座り、私たちを見下ろす魔王。
「9:03時、魔王と戦闘が開始、その後20分程、『ピースメーカー』が善戦を繰り広げる」
ああ、そうだ。
間違いなく押していた。
魔王を倒せる後1歩の所まで迫ったはずだ。
「9:25時、『ピースメーカー』の楯を庇って前衛の1人が死亡、そのまま戦闘は魔王優位に推移し始める」
え?
いや、そんな、まさか。
おかしい。
だって今まで、あれ?
記憶が無い。
此処から先は、覚えていない。
「10:29時、『ピースメーカー』最後の1人が死亡。つまり―――」
私は―――
「お前が死んだ」
「その後は言わなくても分かるよな」
そうだ、攻めの要が失敗したんだ。
王国軍は敗走を余儀なくされたに違いない。
「で、あんたは死神かなんかで、私を地獄にご招待ってやつ?」
「いやいや、俺はこの世界の管理者、君が言うところの神ってやつだ」
「お前が―――」
こいつが、神………
憎み続けた存在。
こいつさえ、殺せれば。
「そこでお前に提案です!」
テンション高いなこいつ。
「あなたも神になってみませんか?」
ああ? 髪? いや神か。
「死ね」
「そうそう、今ならなんと―――ぇ?」
「私、神様が死ぬほど嫌いなの……もう死んだ出るんだっけ? なら、さっさとくたばれ」
私の人生には無縁どころか、死ぬまで憎み続けた神になる? 私が?
笑えない、冗談じゃない。
「今なら神様特典も付いてくるよ?」
「さっさと私のこと解放してくれない? それとも転生?」
「この世界には輪廻転生システムは無いから、死んだらそれまで、ハイさよなら」
それは良かった。
こんな胸クソ悪い世界でもう一回人生やり直せとか言われたら、さすがの私も発狂している自信がある。
「いいから、さっさと私を消して、あんたの顔見てると殺したくてしょうがないから」
「妹に会えると言っても?」
「…………」
「疑うような目で見るな、神様嘘付かない」
「本当に、逢えるのね?」
死なせてしまった妹。
もう会えないと思っていた妹。
謝りたかった、償いたかった。
たった一つだけの、後悔。
「神様になれば結構仕事が多いんだよ。その秘書兼補助係として、生前に出会った事のある人物の中から、既に死んでいる者を指名できる制度がある」
「それじゃあ!」
「魂が消えて無ければ―――」
「今すぐ私を神にしなさい」
「怖いから離れろ。ちゃんと説明する」
「早くしなさい」
渋々神の胸元から手を放す。
「いきなり神様って訳じゃない」
「さっき神になりませんかって勧誘受けたんだけど?」
「最初は候補からだ、神候補になった者には、未来の秘書権補助係を1人選ばせている。神になったから選べといっても、その時に魂が消滅していたら選ぶ事が出来んからな」
「妹の魂はまだ存在しているんでしょうね?」
「ああ、ちゃんと存在しているぞ。魂の保管期間は限界寿命の2倍、つまり人間なら200年って決まっているからな」
神候補になれば妹に会うことが出来る。
その事実だけで即決。
はい、Yes。それ以外の選択肢は存在していない。
「神候補になると、その他にも様々な―――」
「もういい」
「―――は?」
「さっさと私を神候補とやらにしなさい」
「ハッハッハッ、いい性格してるぜお前」
償えるチャンスを貰えるのだ。
それだけ果たせば、もう神候補とやらに未練は無い。
さっさと辞めてしまえばいい。
「最終確認だ、汝、リリアーク=アハトリア―――神を望み、神に挑む事を此処に誓うか?」
「誓ってやるよ、悪魔辺りにな」
「良い返事だ。これからよろしく」
「死ね、クソ野郎」
今、私は廊下を歩いているらしい。
いや、さっきまで居た空間と同じく真白い廊下。
壁や天井、床との境目さえ分からないほど真白過ぎる。
自称神が廊下だと言っていたので廊下だと判断しているが、ここが広い空間だと言われても、私は自称神の事を信じるしかないので判断しようがない。
まあ、数歩横にズレて手を伸ばすと何か触っている感覚はあるから、狭くて長い道を歩いている事だけは分かる。
流石に、精神的に疲れてきた。
同じ様な―――ここの場合は全く同じ空間と言っても過言では無い―――場所を歩き続けているんだ。その疲労度は底が見えない。
「ここだここだ」
30分ほど―――感覚で判断しているため、まったく当てにならないが―――歩いたところで、右側にいきなり現れた黒い木製の扉の前で止まる。
神は普通に右手でドアを開ける。
少しガッカリ。
神とか言ってるから不思議パワーで開けるのかと期待していたのに。
「―――? ああ。手を使う必要はないんだが、癖でな」
え? と言う事は、さっきのは私が気付かなかっただけで、何か不思議パワーを使用して開けていたのだろうか。
「手で開けた方が早いし、ここ自動ドアだし」
「本当に不思議パワーとか関係ねぇ!」
「いいから入れ」
部屋の中は、また真白い空間なのかと思えばそうでも無く、普通に一般人の部屋と言った感じで、少し拍子抜けした。
奥の方には本だなと机。それから、茶色い木製の扉が一つ。
本棚にはミッシリと詰まった本、机には書類やらペンやらが散乱している。
手前には来客用の机とソファー。
全体的に趣味が良い悪い以前に、質素(悪く言えば貧相)過ぎて評価のしようがない。
「お~い! お茶の準備をしてくれ。棚に茶菓子も入ってたはずだから、それも持ってきて!」
「―――は~い」
神が呼びかけると、部屋の奥から返事が聞こえた。
たぶん扉の奥は、給湯室の様なモノなんだろう。
「まあ、立ち話もなんだし座れよ」
何か釈然としないが、歩き疲れて(精神的に)疲れているのは確かなので、神の対面に座る。
神の隣? 殺さないで済ます自信が無い。
「先ずは現状確認だ」
「現状確認って―――私死んだ、自称神と契約した、神候補になった。これ以上に何かあるの?」
「自称は余計だが、鏡を見てみろ」
「鏡なんてどこに―――」
目の前に鏡が現れた。
そんな不思議現象よりも、鏡に映った姿に―――眼を奪われた。
そこに映って居たのは―――
腰まで届く、長い黒髪。
二十歳にしては、幼い顔立ち。
貧相では無いが、起伏の乏しい体。
見慣れていた、金髪碧眼では無く。
懐かしい、日本人の姿だった。
何を言っているんだと言われるかもしれないが、私は転生者と言う奴だ。
日本人として過ごしていた期間は20年程。
二十歳になった次の日にトラックに轢かれたのは、あまり思い出したくはないが、脳ミソに強く刻まれている。
居眠りしてた運ちゃんの事は絶対に忘れない。悪い意味で―――
「何でこの姿をアンタが知ってんの?」
「そう睨むな、俺が知ってたわけじゃない。お前の魂が識っていた……いや、お前の言葉を聞いた限りでは、覚えていたといった方が正しいのかな?」
「魂?」
「お前の魂を核にイメージを固めたらそうなった」
なるほど、確かに今生(?)の姿も、それなりに気に入っては居たが、やはりこの姿の方が落ち付く。
と言うか、日本人であった時は二十歳で死んだとは言っても、こちらでは19歳で死んでしまったはずなので、まだ日本人で居た期間の方が長いと言える。
精神年齢について考えた奴は出て来い。内臓引き抜いて、切り落とした四肢を替わりに詰めてやる。
「お茶入りましたよ~」
懐かしい声が聞こえた気がして、そちらを見れば―――
「エ、エリー?」
「え? 何処かでお会いしましたっけ」
「………」
「どうした?」
「――――ん?」
小首を傾げるエリー。
か、かわい―――じゃなくて!
今、私前世の姿!
この姿で「貴方のお姉ちゃんですよ~」とか言える訳が無い!
信じてくれたとしてもそれはそれでエリーの頭が………エリーは頭の良い子であって欲しい!
「あ、たぶん私の勘違いです。私たち初対面ですよ」
「そうですか。わたしエリーゼって言います。エリーって呼んでください」
何とか誤魔化されてくれたらしい。
「私はリ……リサって言うの、よろしくエリー。それと自称神、ちょっと面貸せ」
「女の子がそんな言葉使いはダメですよ」
咄嗟だったので前世の名前、名乗っちゃったし………アドリブは苦手なのよ!
それにしても、妹に言葉使いを正されるのは何時振りだろう。
「あ、ごめんなさい。お姉ちゃんと似ていたので、つい注意しちゃいました」
「いいのよ、私の方も言葉使いが悪かったのは確かだから。では自称神様殿、少し御顔の方を拝借しても宜しいですか?」
「いいが、ここで話してもいいんじゃないか?」
「いいか………いいですか? 私が笑っている内に、可及的、速やかに、廊下へ、出て頂いても宜しいですか?」(ゴゴゴゴゴゴゴ)
「あ、ああ。分かった」
大人しく廊下へ出て行く神。
惜しい事をした。主に私が―――
「で、どういう事なんだ? ああ!?」
「何を言っているのかよく分からないんだが」
とぼけるとはいい度胸だ。
「お前最初に行ったよな? 神候補になったら妹と会えるって」
「出会えたじゃないか」
「神候補になったのはついさっきで、まだパートナー選んだ覚えないんだけど?」
「まだ選んでないのは当たり前だろ? 俺も聞いた覚えないし」
「なら、なんでエリーちゃんが此処に居るのよ!」
「お前その歳でエリーちゃんとか」
「うるさい! いいでしょ別に、内臓抜くわよ」
「それは照れ隠しにしても酷いと思うんだが」
生前では反抗期に入ってたのか、呼んでも返事してくれなくなっちゃってたのよ。
それどころか、無言で物を投げてくる事もあったし………
そうよ! 今は他人ってことになってるんだから呼んでも大丈夫じゃない! って、言ってて悲しくなってきた。
「八当たりよ。出来れば脳ミソだけでも繰り抜かせて」
「さらに酷いな」
「いいから、なんでエリーちゃんが此処に居るのよ」
「神候補だからだろ?」
「は?」
「お前と同じ、神候補。分かったか?」
いやいや、ちょっと待ってほしい。
「貴方パートナーとして蘇らせろって」
「俺はそんな事、一言も言った覚えがないんだが?」
あれ?
「妹に会えるって言ったわよね?」
「ああ、言ったな」
「パートナー選べって言ったわよね?」
「ああ、言ったな」
「つまり、神候補になってパートナーとして妹を甦らせろって事でしょ?」
「そんな事は誰も言って無いな」
なんて事の無いように嘯く神。
「悪魔かテメェは!」
「お前が誓った相手は?」
「悪魔だよ! チクショウ!」
「このお茶美味しい。エリーちゃんが淹れてくれたの?」
「あ、はい。それよりその―――」
「ん! このお茶菓子もおいし~。ね、ね、エリーちゃんも、ハイ、あ~ん」
「え、そんなむぐっ―――もぐもぐ」
先ほど、「私の事はリサって呼んで」と言ったら、「なら、わたしの事はエリーと呼んでください」と言われたので、私は堂々と彼女の事を『エリーちゃん』と呼ぶことにした。
可愛いわ、世界一可愛いわ―――ハァハァ
「あの、廊下に出て行った神様が戻ってこないんですけど……」
「ん? あの自称神様ならトイレに行ったわ」
服やスカートに付いてる紅い液体はケチャップですよ。
天然、無添加、着色料無しで、鉄分が豊富。
「神様でもトイレに行く事があったんですね!」
「何でも10年に一度は行きたくなるらしいわ」
「それが今日だったんですか」
「神様も大変よね」
家の妹は頭の良さが自慢です。
疑った奴、ちょっと屋上に行こうか。内臓引き抜いてやるから。
「まったく、神様に対してこの仕打ち……」
「アンタが悪いんでしょうが」
「お前が参加した戦線なんだが、アレのおかげでやっと魔王を倒す目途が付いた」
「は?」
「いやぁ、大変だったぜ、まったく。人間の数は減らさんといかんし、減らし過ぎても問題あるしな」
「魔力と不活性魔力についての講義になるが……まあ、分からんだろうから聞き流しておけ」
「人間は普通に生活しているだけでも不活性魔力を排出しているんだが、それを吸収して魔法を使っているのが魔物だ。その過程で不活性魔力は純魔力に転化され、それが世界を周る事で様々な不純物と結びついて魔力になる」
「人間が排出した不活性魔力、それを吸収して魔物が生まれる」
「人が魔法を使い始めたのがそもそもの問題だったんだ」
「その所為で不活性魔力が増えすぎ、結果……不死王、現魔王が生まれた訳だ」
「お前は不幸の上に幸福を感じた事は無いと言い切れるか? 魔物にもその生活が有り、幸福があった訳だ。その命を刈り取った時、その不幸を感じた時………幸福を感じた事は無かったと言い切れるか?」
「結局はバランスだ。世界はバランス、常に平行に出来ているのが世界って奴なのさ」