テラチート戦闘練習
主人公テラチートの練習作品
ストレス発散に書き始めたら意外と筆が進みました
最後の方飽きて適当になってますが
それでもいい方はどうぞ^^;
「さぁ、早く本気を出してください」
私は今、現在滞在中の町から10キロほど離れた所にある森の中にいた。
何故こんな処にいるのかといえば、ギルドで依頼を受けた盗賊の捕獲、もしくは殲滅のクエストの最中だからである。
現在盗賊の生き残りは7人ほどであり、盗賊は当初の30人から大きく人数を減らしている。
残るは頭目とそれを守っている5人、そして正体不明の黒いローブの人物だけだ。
私は20メートルほど先にいる3人の男たちを挑発するように言葉を投げかける。
「まだ本気ではないのでしょう? まさか、これで本気だなんて言わないでくださいね」
戦闘が開始されてから10分ほどが経過しているが、3人の男たちの服装――元は武装だったのだろう――はボロボロになっており、既に満身創痍といった表情であった。
それに対し、私は無傷。掠り傷は言わずもがな、服にさえ、傷らしい傷は見当たらない。
「この・・・くそアマぁ・・・」
「絶対に、跪かせてやる」
「奴隷にして、ひぃひぃ言わせてやるから、覚悟しろ・・・」
まだそれだけのセリフが吐けるなんて、力量差も分からない屑なのか、それとも男のプライドなんてもので『女性に負ける訳にはいかない』なんて、くだらない事を考えているのか。
どちらにしても、私が楽しめればいいのですが―――
「うおらあああああああああああああああああああ」
左側にいた長身の男が声を振り絞ってこちらに突っ込んできた。
その男が長身を生かし剣を振りかぶり、上から下へと振り下ろす。
それに対し私は右手に持った剣で対応する。
男の剣を持つ手には力が入っておらず、簡単に防ぐことができた。
鍔迫り合いにすらならず私は剣を弾き、そのままの勢いで男の首を断ち切る。
「次に死にたいのはどちらの方でしょう? 早くしてくれませんと、頭目達を逃がしてしまうのですが」
「う・・・うわあああああああああああああああああああ」
二人の男たちは自棄になったのだろう、狂ったような奇声を出しながら私の方に向かってくる。
(面倒ですね―――)
「術式解放:二重起動:『焔』『颯』」
ゴウ!!
男たちの前に巨大な火球が現れ、肉体どころか存在すらも焼きつくす勢いで過ぎ去っていった。
そして、火球が過ぎ去った後に残ったのは焼けた地面と、煙、そして肉を焼いた後に残る独特の匂いだけだった。
今の魔法を簡単に説明すれば、下位レベルの炎系統『焔』を、同じく下位レベルの風系統『颯』によって強化しただけなのだが、本来下位レベルの魔法でさえ、私の魔力量で使用すると暴走してしまい、単語詠唱と封印式を併用することで無理やり魔力の使用量を上げ、さらに二重起動や多重起動――宮廷魔道師でも使用できるものは少ない――を使用することで安定化を図っている。
下位レベルの詠唱ありで単一起動を行っていた場合、この付近100メートルは地形が変わるかもしれない。
「少々やり過ぎたかもしれませんね」
私はそんな感想――実際はやり過ぎどころの話ではない――を呟き、頭目の位置を確認することにする。
「捜索」
簡易的な術式を起動させ、頭目の現在位置を割り出す。
ここから南西に1.5キロ、と言ったところでしょうか。
術式を起動させたまま、その方向に走り出す。
術式解放:複合術式:万能無限
肉体強化に思考強化の複合術式を無詠唱で行い、トップスピードまで一気に加速する。
この魔法を使用したことによって、私の最高速度はほぼ音速の域に達するのだが、木々を避ける為に時速150キロ程度のスピードまでしか出していない。
このスピードなら頭目の現在位置まで、数分とかからないだろう。
あのローブ姿・・・どこかで見た気がするのですが―――
私の関心は頭目よりも黒いローブの人物に移っていた。
盗賊は既に壊滅状態、残っているのは頭目と数人だけなのだから、ギルドの依頼達成の証明に頭目の首が必要だが、それも瑣末な事だと思っている。
目標まであと100メートルですか。
とりあえず、強化魔法を解き自身の身体能力の身で走り出す。
それでも時速30キロほどの速度は出ている時点で、私の異常性が分かるだろう。
「これは、どういうことでしょう」
頭目まで30メートルほどの地点で森を抜けてしまった。
森の中に隠れながら逃げるならまだしも、ここまで開けた場所に逃げる意味が分からない。
「来たな、漆黒の魔女」
頭目のそばには生き残りであろう盗賊たちと黒いローブの人物、そして足元には数人の縛られた少女達がいた。
「ヴァイス! 約束道理奴を誘き出したんだ! ちゃんと殺してくれるんだろうな!?」
頭目が黒いローブに怒鳴っている。
ヴァイス・・・記憶に無い名前ですね。
まぁ、偽名の可能性もあるとは思いますが。
「ああ、約束は守るさ」
ヴァイスと呼ばれた男――声からして女性の可能性は低い――は頭目に対して余裕の声で応じる。
「ヴァイス・・・と呼べばいいのかしら? 貴方、何者?」
「ああ、それで結構。漆黒の魔女にその名で呼んでもらえたことだけは、神に感謝してもいいかもしれんな」
「私ってヴァイスと会った事ってあったかしら? 記憶に無いのだけれど」
「記憶に無くて当たり前だ。俺とお前は初対面だからな」
「初対面にしてはよく私の事を知っているようだけど?」
「当たり前だ、お前は自分が有名人だということを自覚した方がいい」
「それはご親切にどうも」
やはり私の記憶に間違いはなかった様だ。
私はこの男―――ヴァイスとは出会った事はない、となれば相手の目的は腕試しか、それとも恨み辛みの代行だろうか?
まぁ、気にしたところで私の対応は変わらないのだが―――
「ヴァイスの旦那! そんな事はいいから! 早くしてくれ!! こっちは仲間が何人も殺られてんだ!」
頭目が何か騒いでいるようだが―――
「黙れ」
とりあえず黙って居てもらう。
これだから低能は―――
「で、そちらのヴァイスさんは何が目的?」
「目的? 目的が分かったところで貴様の行動に何か変化があるのか?」
本当に私の事、良く調べてあるみたいね。
「なら、始めましょうか―――」
「始める? 既に始まっているんだよ!!」
ヴァイスは叫ぶと同時に大量の魔力を放出した。その量は一般的な魔術師10人分にも匹敵する量だった。
この魔力量、普通じゃないわね。
「我願う:闇を司るモノ:死を司るモノ:ここに来りて割れの願い聞き届けたまへ」
ヴァイスが唱えると同時に足元が光りだした。
まさか!?
地面にはヴァイスを中心に30メートルほどの巨大な魔方陣が描き出されていた。
円を基本形に星と月、それにこれは・・・日蝕を表す記号が混じってるわね。
召喚用の魔方陣に闇属性・・・これは拙いわね。
闇系、それも高位の魔族――ないし魔人――が召喚されるのであろうと予測されるが・・・あの少女たちッ!
ヴァイスは拉致って来た少女達を生贄に、今行っている召喚儀式を成功させる気なのだろう。
「ぅっ・・・」
「っ・・・くぁ・・・」
少女たちが苦痛に顔を歪ませる。
いけない! 彼女たちの魔力が枯渇すれば、精神が壊れる可能性がある。
「今すぐその術をやめないさい。そうすれば命だけは助けてあげる」
「はっ! 命なんかいらねぇよぉ!!」
ダメだ、ヴァイスは完全にアッチの人だ。
何としてでも、少女たちだけは救わなければ!
「術式解放:多重詠唱:展開:待機」
私を周囲に大小合わせて50以上の魔方陣が展開される。
魔方陣は宙に浮いたモノから地面に展開されたモノ、私の体や武器までいたるところに展開されている。
私の魔法は基本的に封印式と呼ばれるものは、一度発動する瞬間まで起動させた魔法を一時的に封印し、封印解除のキーワードと起動時の魔力供給によって魔法を放っているのである。
もちろん、封印式では魔法を封印している間、常に魔力を封印術式に流し続けなければならないため多くの魔力を必要とするが、元々の魔力総容量と魔力回復が多い私は在庫が減るほど、魔力は増えていくことになるのである。
今発動したのは1ヶ月以上放置してあった在庫を全て発動させるモノで、相乗効果や重複を考慮していない。単に戦闘準備のため、ある程度の魔力の空き容量が欲しかっただけだ。
全ての魔陣の展開が完了する。
「在庫処分!」
私が声を発すると同時に、下位魔法から上級魔法、補助魔法と様々な魔法が一気に発動した。
半分以上が攻撃魔法だったため、大小合わせて40ほどの魔法がヴァイスに向かって行く。
「ハッ! 馬鹿にしてんのかテメェ!!」
ヴァイスが右手を上から下へと振り下ろす。
ゴバァ!!
ヴァイスが、一般の魔術師なら10回殺してもお釣りがくるような魔法を無詠唱の、それもたった一つの魔法で全て吹き飛ばしたのだ。
これで召喚術式が止まってくれれば御の字だったのだが、まあ、予想の範囲内でしょう。
情報が少なすぎて、属性が判断できませんね。
もちろん無属性や補助系の場合もあるが、今の威力を加味すれば、考えるのがバカバカしくなってきますね。
「ヴァイス・・・てぇ・・・裏切りやがったのか!!」
声の方を見れば、頭目が苦しそうな声で訴えていた。
召喚魔法の生贄に巻き込まれたのか―――いや、最初から頭目も生贄の頭数に含まれていたのだろう。
「裏切ったとは人聞きが悪いね。約束は守る。漆黒もきっちりと殺してやるさ。ただ、君たちの命の保証はしないけどね」
「・・・ッ! ゲス野郎!!」
ドサッ
頭目はその言葉を最後に、倒れてしまった。
「さぁ! ついに召喚儀式も終わる! ここが貴様の墓場だぁ!!」
「うぐぅ・・・ぁっ・・・」
少女達の表情が苦痛に歪む。
「やめ――――」
「召喚!:死を司るモノ!!」
―――ッ!?
召喚が成功したのだろう。
周囲に光が満ちる。この光は召喚が成功した時の発光現象だ。
光が収まるとヴァイスの横には白い天使が居た。
その体は小さく、12歳前後の子供にしか見えない。しかし、その手には3メートルほどの黒い大鎌を持ち、その背には3対6枚の白い翼が存在していた。
「誰ぞ、我を喚ぶ者は」
その少女が言葉を発するだけで、強大なプレッシャーが私を襲う。
ハッキリ言って格どころの話ではない、次元が違う。
これは、本気を出さないと不味いかもしれませんね。
少女達は気を失ったのか、力無く倒れている。まだ呼吸はあるようだが、早く処置を施さないと危険な状態だろう。
「喚んでやったのは俺だ。奴を殺せ!」
ヴァイスが私を指しながら、呼びだした天使に命令を下す。
しかし、
「ハッ! 貴様が我を喚んだだと? 笑わせる」
「報酬は十分に用意した! 命令に従え!!」
「報酬? 此の少女達の事か?」
「そうだ。この無垢な少女達の魂が報酬だ。十分なはずだろう?」
「ハハハッ! ハハハハハハハハッ!! アーハッハハハハハハハッ!!!」
ヴァイスの言葉に天使が大声で笑い始める。
「フハハハッ! この無垢な魂が報酬か、なるほど、ハハハハッ!」
「なんだ! 何が可笑しい!?」
意味が分からないのだろう。喚き散らすヴァイスに天使が答えた。
「その様な無垢なる魂なぞ要らぬわ!」
「な――――――ッ!!!」
「我を満足させたいのであれば――――――」
天使の顔が邪悪な笑みを浮かべる。
「慾に塗れ、罪に穢れた魂を100人分持って来いッ!!」
「―――――――ッ!!!?」
天使の言葉に、今度こそ絶句するヴァイス。
なんというか、憐れとしか言い様がありませんね。
「例えば、貴様のような穢れ切った魂を」
天使が大きな鎌を振る―――いや、それを観たのは振り終えた後の鎌であり、鎌の位置が変わっていたために『振った』という過程を想像したに過ぎない。
「――――――ゴフッ・・・」
ドサッ
ヴァイスが血を吐いて斃れた。
その体は上半身と下半身に別れ、二度と繋がる事は無いだろう。
「フム」
天使がヴァイスの死体―――正確にはまだ死体ではないが―――に右手を向ける。すると、ヴァイスの体から灰色の球体が浮かび出て来た。
「むぅ・・・やはりこの程度か」
天使はその球を右手で掴むと、口へと運んで行く。
「むぐ、うむ・・・もぎゅもぎゅ、んぐ・・・」
難しい顔をしながらそれを咀嚼し、飲む込む。
やはり不味い。そう呟きながら天使がこちらを向いた。
「して、其の方は如何する?」
いや、私に聞かないでほしい。むしろ私が聞きたいくらいだ。
「そこの少女達を助けて、いえ、見逃して頂けるのであれば、それ以外に望みはありません」
私はなんとか応えるが、
「駄目だな。これは我が手に入れたモノだ。返して欲しいのであれば、其れ相応の対価を貰おうか」
此れでも契約は守らねばならんのでな。と続ける。しかし、対価か・・・
それならば―――
「私の魔力では代用できませんか?」
「駄目だな」
「では、そちらの頭目では?」
「ふざけて居るのであればこう言ってやる。殺すぞ」
これは本格的に不味いわね・・・
「貴様の魂を寄越すなら考えてやろう」
流石は天使、といった所だろうか。私の異常性を看破する。
「それは遠慮したいところね」
魂抜かれてまで生きて行けるほど、人間は辞めていないつもりだ。
「しかし召喚された我としては、此のまま帰るのも面白くは無い。ふむ、そうだな。暇潰しにこの世界の人間を千人ほど殺して来ようと思うのだが、如何思う?」
「貴方を送り返させて頂きます」
天使や悪魔は基本的に娯楽に飢えている。天使や悪魔といった存在は死ぬ事が無いからだ。殺す事も出来なければ、封印も一時的にしか効果が無い。一時的に封印することは可能だろうが、封印が解ければ何の変りも無く、そこに存在している事だろう。
「ほう、面白い事を云うな。人の子の分際で」
天使は愉しそうに言葉を続ける。
まあ、良い。天使は呟きながら鎌を振りかぶる。
「我が名はサリエル! 大天使にして死を司るモノ! 人の子よ、我に挑む愚者の申子よ。名を聞こう」
「エリー、エリー=ファルク。漆黒の魔女、なんて呼ばれ方もするわね」
「エリーよ、良い暇潰しに成る事を、期待しよう」
天使―――サリエルにとっては私を殺す事に意味なんて無いのだろう。私を殺した後に999人殺したところで、満足もしないだろうけれど。
まあ、私が千人の一人目くらいにしか考えていないんでしょうね。
「月よ! 月夜! 今此処を満月の光で満たせ!」
急に空に月が登り、辺りが暗くなる。
昼夜逆転!? 流石天使と云ったところでしょうか。というか『もう何でもアリ』と考えた方がいいかもしれませんね。
「月は未だ三日月、ほんの欠片程度だ。満月まで、耐えて見せろ」
サリエルは言葉が終わると同時に、こちらへと跳躍する。
「―――ッ! 反転! 障壁!」
サリエルの一撃が当たる前に、なんとか間に合った反重力魔法によって体を宙に浮かせ、体の目前に張った楯によってダメージを軽減する。
「ッ――――!!!」
しかし、サリエルの一撃は予想以上に強かった。
体の中をミキサーで混ぜられたら、こんな気分でしょうね・・・
鎌を楯で、衝撃を反重力魔法によって軽減したにもかかわらずこのダメージ。直撃した場合チリも残らないのが容易に想像できる。
いえ、死んだ事にも気付かないかもしれませんね。
「なんだ、その程度かエリーよ。其れでは我が愉しめんではないか」
「鎌を振っただけでこの威力ですか、こちらとしてはバカバカしいとしか思えないんですがね」
しかもこの程度とか、簡単に言ってくれますね。本当に―――
これでは戦いの余波だけで少女達の命が危ない。
・・・3分でも稼げれば、十分ですかね。
「楯よ、絶てよ、断てよ、全てを阻め、凡てを断ち切り、総てを断絶させなさい」
流石に無詠唱ではサリエルの攻撃は防げないと判断した私は3重に盾を展開させる。
「その程度で防げると思っているのか? だとしたら片腹痛し!!」
「断絶の剣、断罪の剣、敵は百の同胞、敵は百万の宿敵―――」
「接続詠唱だと!?」
さすがに驚いたのかサリエルがこちらへ向かって飛んでくる。が―――
「―――散せ!!『斬殺剣』」
私の詠唱の方が一足早かった。
サリエル目掛け百億の刃が向かっていく。
通常であれば、その一本一本が必殺の一撃となる筈の刃はしかし、サリエルに対しては目暗まし以外に効果は無いだろう。
「おい、人間・・・」
百億の刃の乱舞が終わった後、サリエルは変わらずにそこに居た。
「この程度の実力なら飽いた。何処へ也と去れ。人の子の分際で我に挑んだ褒美だ、我は追わんと約束しよう」
「いいえ、時間稼ぎと仕込みは終わりました。―――狂気に狂喜しなさい、『万華狂』」
私の言葉とともに強い光が生まれる。
「人の子・・・いやエリーよ! 先ほどの言葉は撤回しよう。我は敬意を持って全力で貴様と戦おう!」
我に幻術を掛けるとはな――――その言葉を最後にサリエル動かなくなった、いや、動けなくしたのだが。
サリエルに対し幻術の効果は良くて3分、今のうちに少女達を助けなければ―――――
「術式解放:『捜索』」
少女達の元に向かいつつ魔法を発動させる。
魔法で調べた少女達の状態は最悪ではないが、一刻を争う事に変わりはない。
「術式解放:二重起動:『演算』 『雫』」
範囲を固定し、回復魔法を少女達の周りに固定する。
「術式解放:『転移』:少女達をフィングライアまで!」
回復魔法をかけた状態で少女達を転移させる。
送った先には私の知人が居る。そいつに任せておけば最悪、命だけは助かるだろう。
「気は済んだか、エリーよ」
「あら、幻術が解けたのなら教えてくれればいいのに」
また掛け直してあげるから、と割と本気で応える。
「何、気が付いたのは、エリーが人の子を送った後だ。気にするな」
あの幻術が本当に3分程度しか持たないなんて・・・流石に御前天使相手では私も本気を出さないと不味いですね。
「さて、邪魔なモノが無くなったのだ。そろそろ本気を出さないか? エリーよ」
「そうですね。ではその期待に応えましょうか」
サリエルの方を向きながら、私はリミッターを解除。
「魔力放出:無制限:『天限』」
「な・・・ッ! 貴様、其の魔力・・・本当に人間か!?」
サリエルの言葉を無視して、私は次元の狭間に世界を創る。
流石にこの状態で戦ったら、この世界が滅びるだろう。
「堕ちろ『焔獄』」
世界が変わった。
先ほどの夜空から一転、全てが炎に包まれた世界。
周囲には灼熱のマグマが漂い、地上も空も、全てが燃えていた。
「心象世界の顕現、これが貴様の本性か。憐れだな」
「これでも抑えている方ですよ」
「何が其処まで憎いんだ?」
「今さら天使のマネ事は辞めてくれます?」
「ハハッ、其れもそうだな。ならば、狂乱を始めようではないか!」
サリエルが空に魔法陣を描き出す。
「天空の星よ! 夜空の月よ! 其は罪を暴く懺悔の光、其は罰を下す断罪の剣! 『月詠』!!」
空に描かれた魔法陣から無数の光が降り注ぐ。
私はただ呟いた。
「喰い尽くせ、天狼」
私の言葉に応えるように、地面から現れた狼の顎が無数の光に向かって突き進み、光の雨を喰い散らしていく。
「天狼の部分召喚だと!?」
サリエルが驚くのも無理はない。
私が一部分と言ってもワンスペルで喚んだのは神獣の中でも高位に位置する天狼。
この程度で驚かれても困るんですけどね。
天狼の顎は空の光りを喰い尽くすとサリエルに向かって行く。
「来なさい、龍燈鬼、天燈鬼」
「お呼びですか御主人」
「ご命令でしたらなんなりと、主様」
私に呼ばれて、二匹の子鬼が現れる。
一匹は頭に燈篭を乗せた赤い子鬼。
もう一匹は左肩に燈篭を乗せた蒼い子鬼だ。
「時間を稼ぎなさい」
「御主人、私達が斃してしまっても?」
「出来るモノなら殺ってみなさい」
「主様、どれ程の御時間を稼ぎましょう?」
「そうね、5分もあれば十分よ」
GAROOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO
子鬼への命令を終えたタイミングで、天狼の叫び声が聞こえた。
そちらを見れば、大鎌によって上顎と下顎を切り離された天狼が魔力の粒子となって消えて逝くところだった。
「さぁ! 次は何だ!? 此処まで我を愉しませてくれたんだ。最期まで失望させてくれるなよ!」
「行きなさい龍燈鬼、天燈鬼」
「「御主人(主様)の御心の侭に!!」」
子鬼たちがサリエルに向かって文字通り飛んで行く。
これで私は魔法に専念できますね。
これから発動させる魔法は、私でも長い詠唱と魔法陣の補助が必要不可欠なモノだ。それでも発動さえすれば、確実にサリエルを斃す事が出来るだろう。
「魔法陣展開:解放:定着」
私の足もとに半径十メートルほどの大きな魔法陣が現れる。魔法陣には、円の中に一つ正三角が描かれているだけだ。
「木々よ、喜び涙し、感情に任せて爪を立てろ―――」
魔法陣の上に一つ円が追加され、緑色に輝いた。
「戦火よ、凡てを謳歌し、血で贖え―――」
魔法陣の右に一つ円が追加され、それは紅く輝いた。
「大地よ、怨念を称え、苦しみを歌え―――」
魔法陣の右下に一つ円が追加され、それは黄色に輝いた。
「黄金よ、怒り悲しみ、皮を剥げ―――」
魔法陣の左下に一つ円が追加され、それは白く輝いた。
「水よ、恐怖に絶望を、希望を求めよ―――」
魔法陣が左に一つ追加され、それは黒く輝いた。
それと同時に、緑の魔法陣から黄色の魔法陣へ、黄色の魔法陣から黒い魔法陣へと次々にラインが形成されていき、五芒星を形作る。
「我は神に望む者、我は世界に臨む者、我は新たに神を造り、我は新たに世界を創る。
木々を燃やせ、灰は土に、金を掘り出せ、水を集めろ。
世界は流転しやがては終える。
来たれ、世界の果よ!」
呪文が完成に近づくにつれ、魔法陣の輝きは強くなっていく。
「龍燈鬼! 天燈鬼! 仕上げ!!」
「なっ!?」
私の言葉に子鬼達がサリエルにしがみ付く。
「これで終わりよ、サリエル」
楽園の終焉―――――最後の呪文が私の口から放たれた瞬間に、私の前方から光の奔流がサリエルに向かい放出された。
その光は触れるモノ全てを粒子まで分解させる冒涜的な質量の奔流だ。
いくらサリエルが天使だと言っても、これに触れてしまえば消滅してしまうだろう。
光の放出は数分続き、やがて何事も無かったように、その威力に伴った傷跡だけを残して消え去った。そして光が収まった後には、何も残ってはいなかった。
「流石の天使でもこれは防げませんよね」
私は勝利を確信して、世界を元に戻す。
「……っ!?」
世界を元に戻した私は驚愕した。
なぜ、まだ空に月が!?
戦闘を開始してから半日以上はたってはいないはずだ。サリエルが死んでいるのなら、この夜は解除されて、今は青空が広がって居てもいいはずなのだ。
「ふぅ………流石に今のは危なかったぞ」
声の方を向くと、そこには無傷のサリエルが居た。
「アレをくらって無傷ですか」
「無傷に視えるだけじゃ、体全てが一度吹き飛んだからの」
「まだ戦いますか?」
「闘っても良いのだが、流石に我も限界と云うモノじゃ」
負け戦はせん主義でな、とサリエルは夜空を昼に戻す。
「なら、これからサリエルはどうしますか?」
「戦にも負けたしの。我は潔く無に還り、また何時の日か召喚されるのを待つかの」
「私と一緒に旅をしませんか?」
サリエルにとっては、誰かに召喚されるのを待つよりもマシなはずで、私にとっては、誰かにサリエルが召喚されるのを防ぐ事が出来る。まさに一石二鳥だ。
「旅、だと?」
「ええ、世界を観て周るんです。全てを観終えたら、また最初から。グルグル、グルグル。世界中、時代中観て周るんですよ」
「エリー、一つ聞いていいか?」
「ええ、私に答えられる質問でしたら」
「貴様は我と同類か?」
「いいえ、私は天使でも、悪魔でもありませんよ」
ただの、化物です。と続けた私の言葉にサリエルは愉快そうに笑った。
「それは良い。化物が二人、愉しい旅が出来そうだ」
笑顔で答えたサリエル。
「これから何処へ行きましょうか。要望があれば言ってください」
「我はこの世界を知らんからな。強いて言えば何処かで美味い物が喰いたいな」
「ではグリザ王国へ向かいましょうか。あそこは果物が有名なんだけど、それを牛肉に合わせた料理が絶品なの!」
「其れは美味そうだな! よし、さっさと行くぞ!」
二人は楽しげに王都への道を行く。
天使さんの力を封印して一緒に旅を
というプロットもあったのですが
表現が難し過ぎて無理でした……