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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。

君の涙が愛しくて

掲載日:2026/02/05

***BL***その涙を見たのは偶然。それから彼の事が気になりだして。ハッピーエンドです。


 


 好きな子の涙を見た事があるか?



 俺はある。



*****



 その涙を見たのは、偶然。



「お前を好きだったのは、本当だ。間違い無い、、、但し、子供の頃の話だ。実際結婚となれば女性とが良い。子供も欲しい。何より、彼女の柔らかい肌は、お前には無いだろ?」

 学園の食堂で、人目も憚らず彼は別れを告げられている。

 彼は俺が食事をしている席から、一つ空けて斜め前の席に座っていた。

「婚約したいと言ったのは、ラインバウトだよ、、、」

「そうだな、、、まだ、男も女も区別の付かない、小さな子供の戯言だ」

身体が小さく、まるで女性の様な顔付きの彼は、ギュッと握り拳を作り

「、、、分かりました。この婚約は無かった事にしましょう、、、貴方の御両親から、父にお話しを頂ければ直ぐにでも、、、」

毅然とした態度で涙を流した。

 回りには興味津々の生徒達が、時に立ち止まり、遠巻きに様子を伺った。ラインバウトと呼ばれた男は嬉々としている。そして彼の横、つまり俺の隣に座る女からは、香水の甘ったるい香りがした。

 ああ、食事が不味くなる、、、。



振られた彼はランチもそこそこに席を立ち

「ご機嫌よう、アークウェット様。どうぞそちらのご令嬢と、末永くお幸せにお過ごし下さい」

と、美しい挨拶をすると、涙を拭う事無く、その場を離れた。



 俺は彼の泣き顔が忘れられない。

 涙を拭いたら負けだという様に口元をキュッと結び、ゆっくりと立ち去る彼の姿を何時迄も目で追っていたかった。



*****



 それに引き換え、ラインバウトと呼ばれた男とその横にいた女は、仲睦まじくキスを交わす。


 まるで、この世界の主役は自分達だとばかりに、、、。


 まだ、正式に婚約破棄もしていないのに、貴族として、その振る舞いはどうかと思いながら、観覧者達はパラパラと散った。



**********



 僕がラインバウトに初めて会ったのは、本当に子供の頃だった。

 恋と言う言葉も、まだ知らない小さな子供。

 彼と何度か遊ぶ内に、彼から結婚しようと言って来た。

 僕は、はっきり言って嫌だった。だって男の子同士だったから、、、。

 しかも、ラインバウトの性格は少しキツくて、僕はいつも彼の顔色を伺っていた。

 正直彼と過ごす時間は、凄く疲れた。

 それでもラインバウトは譲る事無く、僕の屋敷で駄々を捏ねた。

 イヤだイヤだとホールに寝転び、泣き喚く。僕はびっくりして、母様のドレスの後ろに隠れた。

 母様も僕がイヤがっているのが分かり、そっと手を繋いでくれた。



 その後、父とラインバウトの父上とで話し合い、結局、僕は彼と婚約する事になった。



 僕は今でも、ラインバウトが苦手だ。だから彼から婚約破棄の話が出て、正直嬉しい程だった。

 でも、それと同時に今まで努力がまんして来た自分と、この長い時間は一体何だったんだろう、と思っている。

 そう、この涙は悲しみとか淋しさの涙じゃ無い、、、。僕の努力が報われ無かった悔し涙だ、、、。



*****



 暫くして、正式に婚約取消しの話し合いの場が持たれた。

 

 ラインバウトと彼の父親が訪問し、僕の父と四人で。

 彼の父親は、何も言わずに頭を下げて謝った。

「本当に申し訳ない、、、。婚約を結ぶ時もラインバウトの我儘を通したと言うのに、、、」

「アークウェット伯爵様、ラインバウト様はあの可愛らしい御令嬢と御婚約なさるのですか?」

僕は確認したい事を聞いた。

「は?えっ?」

彼はこの場にそぐわぬ声を発した。

 ラインバウトが真っ青になる。

「彼女と御結婚されるから、僕との結婚を破棄したいのですよね、、、」

彼の父上は、真っ青になった後、怒りで顔が真っ赤になった。

 ラインバウトは、とんでも無い話をしてくれたな!という目で僕を睨んだ。

 きっと令嬢との件は話さなかったんだ。

 彼は自分に都合の悪い事は、話さないタイプだもの。

「まさか、その令嬢が懐妊しているという事は無いだろうね?」

流石の父も怒りが滲み出ている。

「ラインバウト?!」

「まぁ、子供が産まれてくれば分かるものだ。もし、、、」

「懐妊していますっ!俺達の愛の結晶なんですっ!

ステファーヌには出来ない事だ!彼女だけが俺の子供を産めるんですっ!」

まるで僕が悪いみたいだ。

「、、、アークウェット伯爵、、、二人だけで話がしたい」

 彼は真っ青になりながら、父に着いて行く。

 代わりに執事が部屋に入り、僕とラインバウトが二人きりになるのを防いでくれた。

 ラインバウトは小さな声で

「よくもあんな話しを始めてくれたな、、、」

と僕を睨む。僕は聞こえないフリをした。

「聞こえないのか?ステファーヌ。お前があんな話しを始めるから、穏便に婚約解消出来る筈が、面倒な事になったじゃ無いかっ!」

「僕はただ、あの令嬢と結婚されるのか聞きたかっただけです、、、」

テーブルの上の紅茶を見つめながら返事をする。

 婚約者で無くなるなら、もう自分を殺して彼に合わせる必要は無い。

 彼が婚約を取り消したい本当の理由を、皆んなに知って貰いたいだけだ。


バシャッ!


 いきなり冷めた紅茶を掛けられた。


 え?


「ステファーヌ様っ!」

驚いた執事が駆け寄り、ハンカチで僕を拭く。

「どうぞ、こちらへ」

と部屋を出る様に促し、近くにいた侍女を呼ぶ。



*****



 婚約が白紙になり、僕は自由になった。

「ステファーヌ、話がある」

学園内でラインバウトに話し掛けられて、周りの人達が少し騒めく。嫌な感じしかない。

「どうぞ」

「場所を変えたい」

父に、絶対にラインバウトと二人きりになるなと言われていた。

「この場でお話し頂ければ幸いです」

「俺の方が家格は上だぞ。お前の意見は聞かない」

この人の、こう言う所が嫌いだ。

 僕は溜息を一ついた。

「わかりました。父から二人きりになるなと言われているので、誰か

「大丈夫だ、二人きりでは無いシスティーナも一緒だ」

、、、尚更、行きたく無い、、、。

「それなら、俺がステファーヌの付添人になろう」

振り向くと、ローシュテアが立っていた。

「さぁ、どこへ行く?」

にっこり笑う。

 ラインバウトは嫌そうな顔をした。



 校舎から離れ、人の来ない庭に移る。ガゼボがあり、僕とラインバウト二人になった。

 ローシュテアとシスティーナは少し離れている。

 二人は仲良く話している様だった。

「ステファーヌ、お前の父に賠償金を下げてくれと頼んでくれ。システィーナはこれから子供が産まれる。賠償金の所為で俺達は父から何も援助を貰えない、お前から頼めば少しは何とかなるだろう?」

僕は呆れた。

 何故、僕がそんな事をしなければいけないんだろう。

「父は、一度決めたら考え方を改めません。無理です」

「それを何とかするのが、お前の役目だろう?」


 何故?


 僕は、心底彼と別れて良かったと思う。


「先日、お茶を掛けられたお詫びも頂いておりません」

「ステファーヌッ!」

いきなり頬を叩かれた。

 何が起きたかわからない、気がついたらガゼボに置いてある椅子が目の前にある。

 頬は熱く、掌に小さな石が食い込む。

「お前は俺の言う事を聞いていれば良いんだっ!」

熱を帯びた頬は、ジンジンと痛み、涙が出そうになる。

 頬を抑えたまま、立ち上がる事も出来ない。

 初めて人に叩かれた僕は、ショックで何も考える事が出来なかった。

 ラインバウトが、僕の横に跪き

「わかったな、君の父上に賠償金を下げるように言うんだ」

と囁いた。



**********



 ドサッと言う音がして、ガゼボを振り向くとステファーヌが倒れていた。

「まぁ、、、」

システィーナ嬢が小さな声を出して、そっと俺に触れる。

「ステファーヌ様、どうされたのかしら、、、」

ラインバウトの身体で彼の表情は見えない。

「ローシュテア様、、、。わたくし、聞いて頂きたいお話しがありますの、、、」



*****



 ラインバウトが立ち上がると、ステファーヌが頬を抑えているのが見えた。

「ローシュテア様、、、わたくしもラインバウト様に、、、」

そう言ってシスティーナは頬を撫でた。

 ローシュテアは、眉間に皺を寄せ、嫌悪感を露わにした。自分より弱い人間に暴力を振るうなんて信じられない。

「アイツ、、、」

システィーナはローシュテアの腕を掴む。

「お願いです、、、わたくしを一人にしないで、、、」

微かに怯えるシスティーナ嬢。

「ラインバウト様に、貴方を引き止める様に言われました。もし、貴方があそこに行ってしまったら、わたくしは後で彼から、、、」

そう言って、自分の身体を抱くと涙が溢れそうな瞳でローシュテアを見つめた。



**********



 大体、ステファーヌは男のクセに図々しいのよ。ラインバウト様と婚約したり、ローシュテア様に気に入られたり。はっきり言って迷惑。男は男らしく、貧乏な子爵家の娘でも娶れば良いモノを、欲に目が眩んでるんだわ。本っっっ当にイヤっ!


 ラインバウト様は身長も高く、顔も整っているの。スタイルも良くて、男らしく、女性なら彼に惹かれる人も多いわ。

 頼り甲斐のある男性で、わたくしは一目で気に入ったのに、、、彼が欲しいと思った時は、もう遅かった。婚約者ステファーヌがいたのよ。

 婚約者は男性だった、、、。

 顔はまぁ、可愛らしい。

 でも、本物の女性であるわたくしに敵う訳が無い。

 だから、わたくしは彼からラインバウト様を奪ったの。

 本当は子供なんて出来ていない。わたくしがそんな失敗する筈無いじゃない。

 それでも、後ろめたいラインバウト様は、わたくしの嘘を信じたわ。


 最後まで堂々としていれば良かったのに、あの男は私が妊娠していると話してしまった。

 その場にわたくしはいなかったから、何も出来なかったけれど、ラインバウト様の所為でわたくし達はアークウェット伯爵家からの援助が受け取れなくなってしまった。



 ホント、馬鹿な男、、、。



 それにしても、ローシュテア様は素敵。ステファーヌには勿体無いのよ、、、。

 ローシュテア様はラインバウト様とは違う良さがあるわ。女性より、男性に人気があるわね。細い割に逞しい筋肉質の身体、少し低い声。とても魅力的。彼に抱かれたら、どうなるのかしら、、、。


 妊娠していない事は、いずれ、私の勘違いだったと話しをする予定だったし、ローシュテア様がラインバウト様から(わたくし)を奪ってくれれば良いのに、、、。



**********



 二人の話は終わった様で、ラインバウトがこちらに歩いて来る。

 すれ違い様にラインバウトは俺を睨みつけて舌打ちをし、システィーナ嬢の肩を抱いて、一緒に連れ帰った。

 俺は早足でステファーヌに近寄る。

「大丈夫か?」

頬を押さえながら、放心した顔で振り向く。唇に少し血が付いていた。

 ステファーヌは俺の存在を忘れていた様だった。

 俺がハンカチを差し出すと

「あ、ありがとうございます、、、」

と小さな声でお礼を言い、ハンカチを受け取る。

 頬を抑えた手で分からなかったが、彼の左頬は真っ赤で、少し腫れていた。

「これは、酷い、、、」

そう言うと、彼はハンカチで頬を押さえながら、涙をポロポロ流した。

 先日の涙とは違い、儚い涙だった。

「ハンカチを、、、」

と言って、返して貰う。

「唇が切れています」

ハンカチの一番柔らかそうな面でそっと拭う。

、、、」

「申し訳無い、、、」

彼の顔を見ると、可愛らしい顔が痛みで歪み、恥ずかしそうに笑った。

 その瞬間、また涙が溢れ落ちて、俺はつい、指で涙を拭ってしまった。

 泣き顔が可愛い、、、。

 彼の顔が真っ赤になるから、こちらまで恥ずかしくなる。



 俺は、ステファーヌの手を取り、二人で椅子に座った。

「アイツとは、婚約破棄したのですか?」

と聞いた。

「はい、、、先日、、、」

「淋しいですか?」

「いいえ。全く、、、。僕、あの人の事、苦手だったんです。破棄されて良かった、、、」

「でも、ランチルームで涙を流されていましたよね?」

「貴方もいらしたんですか?」

「何も出来なくて申し訳無い」

「良いんです。涙を流したのは、ずっと我慢していた自分が可哀想だなって、、、。長い時間無駄にしたなって思ったからです」

ステファーヌが小さく笑う。



 何だか可愛い人だな、、、。



 その事件をきっかけに、俺とステファーヌは親しくなり、いつも一緒に過ごす様になった。



*****



 その日、ステファーヌは学園にいなかった。


 放課後、システィーナが近寄って来て、ラインバウトの事で相談したいと言われた。

 場所は、あの時のガゼボ。

「ラインバウト様に手を挙げられるのです、、、。婚約をしているからと、無理矢理彼の部屋で、、、人には言えない様な事を強要されて、、、」

、、、何故、俺に相談するのか分からず、俺は適当にあしらっていた。

「見て下さいっ!」

そう言って、制服の胸元を大きく開く。

「此方にもっ!」

スカートの裾を捲り、太腿を見せる。

 、、、何も無い様だが、、、。

「今は、大分良くなりましたが、酷く腫れて、気持ち悪く変色してしまいました、、、。女性にこんな事をするなんて、、、」

と言いながら、俺の胸にしなだれた、、、。

 俺、コイツに興味無いんだよな、、、。溜息が出る。

「ローシュテア様、、、」

「はい」

わたくし、どうしたら良いのでしょう、、、」

、、、そんなの、俺が知るか、、、。



**********



 アークウェット伯爵は緊張している様だった。

 父は冷静に努める。

 ラインバウトはイライラしているようだ。

 僕はこれから何が起こるか不安だった。


「あの娘は妊娠していませんでした。彼女の勘違いだったのです」

妊娠していなかった?

「勘違いする様な行為があったのだろう?」

「いえ、私は手さえ繋いだ事はありません」

嘘だ。ラインバウトは嘘をいている。

 彼は僕に、「彼女の柔らかい肌は、君には無いだろ?」と言った、、、。俺達の愛の結晶と叫んだ。

 でも、僕は本当の事が言えなかった。ガゼボで叩かれた事が蘇ったから、、、。

 僕は視線を落として、握り拳を作った。

「それで?」

父が静かに問う。

「それで、、、あの、、、賠償金を少し、、、その」

父は紅茶を一口飲んで、暫く考えていた。

「私の息子が頬を腫らして帰って来た日がありました。その日、御子息からも、その話しがあったそうです。確か、唇も切れていましたな」

あの日、直接父に会っていなかったけど、母様か執事長から話しを聞いていたんだ。僕はホッとした。

 アークウェット伯爵は、またもや落胆し、丁寧に詫びてから静かに帰っていった。


「父上、ありがとうございました」

「いや、ステファーヌ、辛い思いをさせて済まなかった。最初に彼との婚約を断っていれば、お前も傷付く事は無かったのに。彼らはもう二度とこちらには来ないだろう。安心しなさい」

これで本当に終わったんだと思った。



*****



  ローシュテアを好きになったのはいつだろう。

 気が付いたら一緒にいるのが当たり前になっていた。

 彼の優しい笑顔が良いなって思った時、好きだと自覚した。

 大きな手、長い指、サラサラの髪、広い肩幅、男らしい仕草、声、、、香り、、、。何もかもが好きだ。


「ローシュテアは誰かを好きになった事、ある?」

「ある」

「そっか、、、。それってどんな気持ち?」

「ステファーヌは、無いのか?」

「ラインバウトと小さい頃に婚約してしまったから、誰かを好きになりそうになると、その感情に蓋をしてたんだ。だから、恋に進展する事は無かった」

今までは、、、。

「恋がしたい?」

「、、、したい、、、ダメかな?」

「良いと思うよ」

「、、、僕は、ずっとラインバウトのお嫁さんになると思ってたから、今から結婚相手を探すのも難しそうだし、、、」

ローシュテア、どんな人を好きになったんだろう。気になるな、、、。

「今でも、その人の事、好きなの?」

「好きだな」

「素敵だね」

僕は少し淋しかった。

 いつも一緒にいてくれるローシュテア。彼の好きな人はどんな人だろう。少し、羨ましいな、、、。



*****



 ローシュテアがシスティーナ嬢と一緒にいるのを見掛けてしまった。

「ほら、ご覧になって。彼女、今度はローシュテア様に御執心よ」

「ラインバウト様はどうされたの?」

「いつものアレじゃ無いかしら?」

「いつものアレ?」

「彼女、御自分の物になると、一気に冷めてしまうそうよ。だから、今度はローシュテア様なんじゃないかしら」

僕は何だか嫌な気分になったけど、ローシュテアとシスティーナ嬢が並んでいる姿は美しいなと思った。



**********



 何故、この女は俺の側に来るんだろう。正直、話題は貧相だし、楽しくも無い。

「聞いてらっしゃる?ローシュテア様」

身体をクネクネさせて気持ち悪い。胸がデカ過ぎるのも嫌だ。そして、最悪なのが香水だ。

「もうっ!ローシュテア様ったら」

と言って胸を押し付けられた。

「失礼、友人が待っていますので、、、」

俺の腕に絡まる彼女の腕をそっと外し、距離を置く。

 早くステファーヌに消毒してもらわないと。

 俺はステファーヌを探す。

 

 いた!可愛らしい女性と一緒にいる。俺の知らない生徒だ。

「ステファーヌ」

名前を呼ぶと、振り返る。俺の顔を見ると、一瞬、嬉しそうにフニャっと笑う。

 この顔を見ると、ステファーヌが俺を好きなんだと勘違いする。

「随分可愛らしい女性と一緒にいるんだね、誰だい?」

彼女は少し赤くなった。

「ローシュテアは本当に可愛い子が好きだよね」

と苦笑した。

「彼女、君と話しがしたいそうだよ」

そう言うと、ステファーヌは彼女に

「頑張って」

と小さく声を掛けて、歩いて行く。

 俺は彼に消毒して貰わないと困るのに。


「あの、ローシュテア様、、、」

「、、、悪い、ステファーヌに

「ステファーヌ様と仲が良いんですねっ!」

「ええ、まぁ」

わたくし、お二人の事応援してます!」

「あ、ありがとうございます、、、」

そんな事よりステファーヌだ。

「ローシュテア様は、ステファーヌ様の事どう思われているのですか?」

ほんのり頬を染めて聞かれたけど、、、えっと、、、?



**********



 先程の令嬢、、、ローシュテアとどんな話しをしたんだろう、、、。システィーナ嬢もローシュテアが好きみたいだし。ローシュテアはモテるんだな。

 彼女の事、可愛らしいって言っていた。システィーナ嬢も可愛い顔をしている。ローシュテアは可愛い感じの子が好きなのかな。



「ステファーヌ」

「、、、ラインバウト、、、」

嫌な人に会っちゃった。もう、何ヶ月も会って無かったのに、、、。

「ステファーヌ、その、、、話しがあるんだ」

僕は無いよ。

「やり直したい。やっぱり、ステファーヌが良い」

え〜、、、

「僕はイヤだよ、、、」



**********



 システィーナに騙された。彼女は妊娠してなかった。俺の家から援助が貰えないと分かったら、サッサと別の男に乗り換えた。

 俺はあの騒動で新しい婚約者は見つからないし、賠償金を払う為に資産は激減した。

 子供の頃から、ステファーヌは俺の言う事に反発する事は無かった。どうせアイツにも新しい縁談なんて来ないだろう。

 俺が悪かったと謝れば元に戻れる気がする。別れ話をした時だって、納得いかない顔をして、涙を流していたじゃないか。そうだ、俺が一言謝れば、、、。


 久しぶりに見るステファーヌは可愛かった。

 コイツ、こんなに可愛かったかな?

 こんなに可愛いなら、俺の横に置いても良いだろう。


「ステファーヌ、、、」

「、、、ラインバウト」

いつも俺を避けていたのに、名前を呼んでくれた、、、。やっぱりステファーヌも俺の事、まだ、、、。

「ステファーヌ、その、、、話しがあるんだ。やり直したい。ステファーヌが良い」

「、、、僕はイヤだよ、、、」


え?


「ぼっ、僕はずっと君が苦手だった!でも婚約者だから、頑張ってただけだよっ!紅茶を掛けられたり、殴られたり、そんな関係イヤに決まってるでしょっ!」


そんな、、、。


「子供の頃はいつも許してくれたじゃないかっ!」

「それは君が婚約者だからだよっ!良い関係を築きたかったから頑張ってたんだ!もう君の為に頑張れ無いよ!。それに、君は僕と婚約しているのに、彼女と不貞を図っただろ?そんな相手とは結婚出来ない!」

「最初から?」

「そうだよ、、、最初から苦手だった。いつかは変わってくれるかと思ったけど、人は中々変われ無いんだね、、、君は年々酷くなっていった。僕は、君から婚約破棄してくれてホッとしてるんだ。だから、やり直しなんて絶対しないよ」

「俺が変わるって言っても?」

「無理だよ、、、。僕の中に、君は恐怖を植え付けた。いつ怒鳴られるか、いつ紅茶を掛けられるか、いつ暴力を振るわれるか、ビクビクしながら一緒にはいられない、、、」


 それに、君は彼女と不貞を働いたのに、手も握った事が無いと平気で嘘をいた。そんな君の言葉は信じられない、、、。



*****



 俺は確かに傲慢だった。強い男でいたかったし、伯爵になったら家族も領地も守らないといけないと思ったから、、、。

 それに自分に自信もあった。女の子にもモテた。

 小さい時のステファーヌは、少しおっとりしていて、可愛かった。いつも俺の話を聞いてくれて、俺がイライラしていてもステファーヌがいれば落ち着いた。

 だから、俺はステファーヌを誰にも取られたく無かった。

 でも、年頃になり、少し女の身体を知ると坂道を転がる様にのめり込んで行った。女の身体は柔らかくて、甘くて、最高だった、、、。

 俺はステファーヌに甘え過ぎていたのか?

 たまに、俺に対して緊張している時もあったけど、まさか最初から苦手だったなんて、、、。


「ステファーヌ?」

「ローシュテア」

ローシュテアが迎えに来ていた。

 俺は二人を見た。何だ?、ステファーヌのあの顔は。あんな顔、俺に見せた事は無い、、、。


 二人は俺を置いて行った。



**********



 俺はステファーヌに腕を差し出した。システィーナの胸が当たった場所だ。

 ステファーヌは首を傾げながら、そっと腕を組んでくれた。

 はぁ、、、これで、やっと消毒出来る。

「さっきは、大丈夫だったか?」

「うん、やり直したいって言われたけど、ちゃんと自分の気持ち言えたよ。ローシュテアが来てくれて良かった」

「そうか」

「、、、さっきの可愛い子と何を話したの?」

「ステファーヌは、あの子が好みなのか?」

「?。ローシュテアの好みでしょ?君が可愛いって言ったんだよ?」

「ん?そうか?ステファーヌが女の子と一緒にいるから、ヤキモチ妬いたんだな」

ニヤリと笑う。ステファーヌは少し赤くなった。

「彼女は、二人の事を応援してると言ってたぞ、、、」

「ローシュテアとシスティーナ嬢の事?」

「俺とお前の事だよ」

「え?、、、んん?」

ステファーヌは、首を傾げながら考えている。

 可愛い、、、。

「分かる人には分かるのに、本人には分からないもんだな」

「え?何の事?」

俺はステファーヌの頭を撫でて

「何でも無い」

と言った。



**********



 僕はずっとラインバウトと結婚する為に準備をして来た。だから、今から方向転換するのが少し難しい。

 勉強の内容も補佐的なモノから、主任的なモノに切り替えないといけないし、結婚相手も女性になるんだ、、、。別に女性が嫌いと言う訳では無いけど、僕が旦那様になる女性は何だか可哀想に思える、、、。


はぁ、、、。


「どうした?溜息なんていて」

「僕なんかと結婚してくれる令嬢なんているかな、、、」

「え?ステファーヌが旦那様になるのか?」

「僕だって、男だからね。令嬢と結婚するなら旦那様でしょ?」

「なれるのか?旦那様?」

「酷い、ローシュテア、、、僕だっていつかは結婚したいのに、、、」

本当はローシュテアと結婚したいけど、それは無理だと思う。

「そうか、、、うーん、、、」

と言いながら、何やら考え込んでいた。



**********



 本当にこの女は何処から湧いて来るのやら

「ローシュテア様!」

「済まない、急ぎの用事があるんだ」

「あら、それならわたくしもお手伝い致しますわ」

「いや、結構、本当に急いでいるから」

「待って、ローシュテア様っ!」

彼女は、背伸びをして俺の前髪に触れた。

「これで大丈夫ですわ。いつも通りカッコ良いです」

「あ、ありがとう、、、」

令嬢は普通、男の髪になんぞ、触れないと思うのだが、、、。

 いきなりでびっくりした俺は、顔が赤くなってしまった。

 慌てて、その場を去ると、今度は目の前にステファーヌがいた。

「さ、探してたんだ、ステファーヌ!」

俺は彼の腕を取り、その場を後にした。



**********



 あれってキスしてたよね?



**********



 システィーナ嬢が相手じゃあ、仕方が無いかな。

 ラインバウトも骨抜きにされていたし、ローシュテアともお似合いだった。

「ん?」

とローシュテアが僕の顔を見て言う。

「何でも無い」

と笑う。笑うしか無かった。



*****



 ナネットは、子爵家の令嬢。以前、僕に声を掛けてくれた、可愛いらしい女性だ。

「ステファーヌ様、、、可愛いです」

実は、あの後仲良くなって僕がローシュテアの事を相談出来る唯一の相手。

「大丈夫ですよ。ローシュテア様はステファーヌ様が好きなんですから」

ニコニコして言う。

 だけど、ナネットは「ローシュテア様はステファーヌ様が好きなんですから」しか言わないから、最近、ちょっと信用していない。

「でもね、キスしてたんだよ?」

「見間違いですよ」

「そうかな、、、?。システィーナ嬢が背伸びをして、キスしてる様だった。ローシュテアも顔を真っ赤にしていたし、、、」

「顔に着いた睫毛でも取って上げてたんじゃ無いですか?」

「そうかなぁ、、、」

「痛っ!」

「?。大丈夫?」

「目に何か、、、。何か入ってますか?」

ナネットは、左目をパチパチとさせる。

「待って、今、見てあげるから」

僕は失礼して、彼女の顔を触る。

「何も

グイッと誰かに引っ張られた。

「ステファーヌ、何してるの?」

ローシュテアがにっこり笑っている。

「ローシュテア!」

わたくしっ!ちょっと用事を思い出しましたっ!」

ナネットはそう言うと、逃げて行った。

「ステファーヌ?、、、」

え?怒ってる?だから、ナネットは逃げたの?

 ローシュテアは僕の隣の椅子を引き、座った。

 あの、近くない?

「ナネットの事、好きなの?」

ローシュテアの顔が目の前にあるんだけど、、、。

「好きだよ?」

好きじゃなければ、友達にならないと思う。

「じゃ、結婚するの?」

「はぁっ?結婚?何で?!」

「今、キスしていたから」

「キスじゃ無いよ!目に何か入ったって言うから、見ただけだよ?。キスしてたのは、ローシュテアでしょ?」

「はぁっ?俺がっ?誰と?!」

「、、、システィーナ嬢と、、、」

「、、、システィーナ嬢とキスなんて死んでも嫌なんだけど、、、」

「だってこの間、、、。ローシュテアも真っ赤になってたじゃないか」

「えぇ〜、そんな事あったかなぁ、、、」

「あったよ!システィーナ嬢が背伸びをして、ローシュテアにキスしてた!」

「それを見たステファーヌはヤキモチを妬いたって事?」

ちがっ!違うよっ!ヤキモチなんて妬かないっ!」

「何だ、残念ざーんねん、、、」

「残念って、、、」

「俺はさっき、もの凄くヤキモチを妬いたのに」

「システィーナ嬢がいるじゃないか」

「あれはタイプじゃない」

「良くお似合いだと思うよ?」

「アイツにされた事忘れたの?あんなヤツ、絶対嫌だね」

ローシュテアが僕の手を取る。

「ステファーヌが良い」

「でも、、、」

「そんなにアイツとくっつけたいの?」



**********



 ステファーヌの瞳が揺れる。

「分かった、、、」

ワザと溜息をく。

「その方が良いなら、お前は諦めてシスティーナ嬢と付き合うよ」

握った手に力が入った。

「そのまま婚約して、結婚かもな」

俺は彼の手を離し立ち上がる。ステファーヌは、からになった掌をギュッと握りながら俯いた。

「じゃあな」

と言って歩き出す。

 少し離れた場所で振り向くと、ステファーヌは涙を拭いていた。


 馬鹿だな。引き止めれば良いのに、、、。


 俺は彼の元に戻り、手を握る。


「来て、、、」


 ステファーヌは戸惑いながら、何も言わずに着いて来る。

 校舎を出て、誰もいない場所まで来るとステファーヌと向き合う。

「何で泣いたの?」

彼は繋いだ手をほどこうとした。俺は力を込めて、それを拒否する。

「俺とシスティーナ嬢が付き合うの、喜んでくれるでしょ?」

彼の瞳からブワッと涙があふれた。

「彼女と婚約したら嬉しいでしょ?」

涙がこぼれないように、懸命に堪えようとしているのに、一粒流れてしまうと後は止まらなかった。

「彼女と結婚したら、祝ってくれるよね?」

「イヤだっ!」

ボロボロ泣きながら叫んだ。

「ローシュテアが結婚するなんてイヤだよ!」

ポカっと俺を殴った。もちろん本気じゃない。ポカポカと叩く。涙を流しながら、少しずつ力が強くなって行く、、、。可愛いな。

 俺はとうとう我慢できなくて抱き締めた。

 俺より小さな身長、細い肩。全体的に華奢で守りたくなる。サラサラの髪からは、ステファーヌの香り。

 俺の胸の中で泣くステファーヌ。

 ああ、家に連れて帰りたい、、、。

「ステファーヌ、、、」

涙が落ち着いた彼は、腕の中で俺を見上げる。

「俺の事、好きなんだ」

コクリと頷く。

「そっか、、、」

彼の涙をキスで拭う。また、涙があふれて来た。

 頬に手を添え、上を向かせると素直に目を閉じる。

「俺は、ステファーヌの事、愛してるよ、、、」

そう言って軽く口付けをする。

「僕だって、、、愛してる」

と言って上目遣いで俺を見つめる。涙で潤んだ瞳がすごく良い。

 俺はもう一度口付けをすると、彼を感じたくてどんどん攻めた。

 初めてのキスに戸惑いながら、恥ずかしそうに応えてくれるステファーヌ。

 息が苦しいのか、俺の服をキュッと握る仕草も可愛い。

 頬に添えた手を、少しずらし首に触れると、瞼に力が入り小さく声が漏れた。


 ゾクゾクゾクッと下半身が刺激され、これ以上はヤバいと感じる。

「ローシュテア、、、僕、変になっちゃう、、、」

ステファーヌはそう言うと、俺の背中に手を回して抱き付いた。


 ああ、何で此処が校内なんだ!もっと違う場所ならっ!

 俺はステファーヌをちからの限り抱き締めた。



**********



「昨日から一転して仲良しなんですね」

ナネットは、僕達が繋いだ手を見ながら微笑んだ。

 あのね、僕は恥ずかしいんだよ?それなのに、ローシュテアが手を離してくれないんだ。

「昨日のわたくしの作戦が良かったのかしら?」

ニコリと笑う。

「作戦?」

「目に何か入ったと言ったでしょう?アレは嘘です」

「嘘?どうしてそんな嘘」

「ローシュテア様は本当にステファーヌ様が大好きなのですよ?システィーナ様とキスなんてする筈ありません。顔と顔が近付くとキスしている様に見えるものです。だから、わたくし、演技をしたんですの」

「演技?」

わたくしが痛がるから、ステファーヌ様はわたくしの頬に触れ、瞳を見て下さったでしょ?。後ろから見たらキスしてる様に見えるんです。ね、ローシュテア様」

そう言って、ナネットはローシュテアの顔を見た。

「お二人にはきっかけが必要かと思いましたので」

うふふ、と笑った。

「でも、校内で不埒な事をなさってはいけませんよ。そう言う事は、誰が何処で見ているかわかりませんからね。良いですね?「誰が」「何処で」見ているからわからないのです」

そう言って、何かを思い出す様にうっとり微笑んだ。

「、、、まさか」

ローシュテアが赤い顔をして、僕を抱き締めナネットから隠した。


 

 あっぶねぇ、、、。



 ステファーヌは、キョトンとした顔をする。

 



ナネットに、告白シーン覗かれてました。あれ以上無くて、良かった良かった。

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