君の涙が愛しくて
***BL***その涙を見たのは偶然。それから彼の事が気になりだして。ハッピーエンドです。
好きな子の涙を見た事があるか?
俺はある。
*****
その涙を見たのは、偶然。
「お前を好きだったのは、本当だ。間違い無い、、、但し、子供の頃の話だ。実際結婚となれば女性とが良い。子供も欲しい。何より、彼女の柔らかい肌は、お前には無いだろ?」
学園の食堂で、人目も憚らず彼は別れを告げられている。
彼は俺が食事をしている席から、一つ空けて斜め前の席に座っていた。
「婚約したいと言ったのは、ラインバウトだよ、、、」
「そうだな、、、まだ、男も女も区別の付かない、小さな子供の戯言だ」
身体が小さく、まるで女性の様な顔付きの彼は、ギュッと握り拳を作り
「、、、分かりました。この婚約は無かった事にしましょう、、、貴方の御両親から、父にお話しを頂ければ直ぐにでも、、、」
毅然とした態度で涙を流した。
回りには興味津々の生徒達が、時に立ち止まり、遠巻きに様子を伺った。ラインバウトと呼ばれた男は嬉々としている。そして彼の横、つまり俺の隣に座る女からは、香水の甘ったるい香りがした。
ああ、食事が不味くなる、、、。
振られた彼はランチもそこそこに席を立ち
「ご機嫌よう、アークウェット様。どうぞそちらのご令嬢と、末永くお幸せにお過ごし下さい」
と、美しい挨拶をすると、涙を拭う事無く、その場を離れた。
俺は彼の泣き顔が忘れられない。
涙を拭いたら負けだという様に口元をキュッと結び、ゆっくりと立ち去る彼の姿を何時迄も目で追っていたかった。
*****
それに引き換え、ラインバウトと呼ばれた男とその横にいた女は、仲睦まじくキスを交わす。
まるで、この世界の主役は自分達だとばかりに、、、。
まだ、正式に婚約破棄もしていないのに、貴族として、その振る舞いはどうかと思いながら、観覧者達はパラパラと散った。
**********
僕がラインバウトに初めて会ったのは、本当に子供の頃だった。
恋と言う言葉も、まだ知らない小さな子供。
彼と何度か遊ぶ内に、彼から結婚しようと言って来た。
僕は、はっきり言って嫌だった。だって男の子同士だったから、、、。
しかも、ラインバウトの性格は少しキツくて、僕はいつも彼の顔色を伺っていた。
正直彼と過ごす時間は、凄く疲れた。
それでもラインバウトは譲る事無く、僕の屋敷で駄々を捏ねた。
イヤだイヤだとホールに寝転び、泣き喚く。僕はびっくりして、母様のドレスの後ろに隠れた。
母様も僕がイヤがっているのが分かり、そっと手を繋いでくれた。
その後、父とラインバウトの父上とで話し合い、結局、僕は彼と婚約する事になった。
僕は今でも、ラインバウトが苦手だ。だから彼から婚約破棄の話が出て、正直嬉しい程だった。
でも、それと同時に今まで努力して来た自分と、この長い時間は一体何だったんだろう、と思っている。
そう、この涙は悲しみとか淋しさの涙じゃ無い、、、。僕の努力が報われ無かった悔し涙だ、、、。
*****
暫くして、正式に婚約取消しの話し合いの場が持たれた。
ラインバウトと彼の父親が訪問し、僕の父と四人で。
彼の父親は、何も言わずに頭を下げて謝った。
「本当に申し訳ない、、、。婚約を結ぶ時もラインバウトの我儘を通したと言うのに、、、」
「アークウェット伯爵様、ラインバウト様はあの可愛らしい御令嬢と御婚約なさるのですか?」
僕は確認したい事を聞いた。
「は?えっ?」
彼はこの場にそぐわぬ声を発した。
ラインバウトが真っ青になる。
「彼女と御結婚されるから、僕との結婚を破棄したいのですよね、、、」
彼の父上は、真っ青になった後、怒りで顔が真っ赤になった。
ラインバウトは、とんでも無い話をしてくれたな!という目で僕を睨んだ。
きっと令嬢との件は話さなかったんだ。
彼は自分に都合の悪い事は、話さないタイプだもの。
「まさか、その令嬢が懐妊しているという事は無いだろうね?」
流石の父も怒りが滲み出ている。
「ラインバウト?!」
「まぁ、子供が産まれてくれば分かるものだ。もし、、、」
「懐妊していますっ!俺達の愛の結晶なんですっ!
ステファーヌには出来ない事だ!彼女だけが俺の子供を産めるんですっ!」
まるで僕が悪いみたいだ。
「、、、アークウェット伯爵、、、二人だけで話がしたい」
彼は真っ青になりながら、父に着いて行く。
代わりに執事が部屋に入り、僕とラインバウトが二人きりになるのを防いでくれた。
ラインバウトは小さな声で
「よくもあんな話しを始めてくれたな、、、」
と僕を睨む。僕は聞こえないフリをした。
「聞こえないのか?ステファーヌ。お前があんな話しを始めるから、穏便に婚約解消出来る筈が、面倒な事になったじゃ無いかっ!」
「僕はただ、あの令嬢と結婚されるのか聞きたかっただけです、、、」
テーブルの上の紅茶を見つめながら返事をする。
婚約者で無くなるなら、もう自分を殺して彼に合わせる必要は無い。
彼が婚約を取り消したい本当の理由を、皆んなに知って貰いたいだけだ。
バシャッ!
いきなり冷めた紅茶を掛けられた。
え?
「ステファーヌ様っ!」
驚いた執事が駆け寄り、ハンカチで僕を拭く。
「どうぞ、こちらへ」
と部屋を出る様に促し、近くにいた侍女を呼ぶ。
*****
婚約が白紙になり、僕は自由になった。
「ステファーヌ、話がある」
学園内でラインバウトに話し掛けられて、周りの人達が少し騒めく。嫌な感じしかない。
「どうぞ」
「場所を変えたい」
父に、絶対にラインバウトと二人きりになるなと言われていた。
「この場でお話し頂ければ幸いです」
「俺の方が家格は上だぞ。お前の意見は聞かない」
この人の、こう言う所が嫌いだ。
僕は溜息を一つ吐いた。
「わかりました。父から二人きりになるなと言われているので、誰か
「大丈夫だ、二人きりでは無いシスティーナも一緒だ」
、、、尚更、行きたく無い、、、。
「それなら、俺がステファーヌの付添人になろう」
振り向くと、ローシュテアが立っていた。
「さぁ、どこへ行く?」
にっこり笑う。
ラインバウトは嫌そうな顔をした。
校舎から離れ、人の来ない庭に移る。ガゼボがあり、僕とラインバウト二人になった。
ローシュテアとシスティーナは少し離れている。
二人は仲良く話している様だった。
「ステファーヌ、お前の父に賠償金を下げてくれと頼んでくれ。システィーナはこれから子供が産まれる。賠償金の所為で俺達は父から何も援助を貰えない、お前から頼めば少しは何とかなるだろう?」
僕は呆れた。
何故、僕がそんな事をしなければいけないんだろう。
「父は、一度決めたら考え方を改めません。無理です」
「それを何とかするのが、お前の役目だろう?」
何故?
僕は、心底彼と別れて良かったと思う。
「先日、お茶を掛けられたお詫びも頂いておりません」
「ステファーヌッ!」
いきなり頬を叩かれた。
何が起きたかわからない、気がついたらガゼボに置いてある椅子が目の前にある。
頬は熱く、掌に小さな石が食い込む。
「お前は俺の言う事を聞いていれば良いんだっ!」
熱を帯びた頬は、ジンジンと痛み、涙が出そうになる。
頬を抑えたまま、立ち上がる事も出来ない。
初めて人に叩かれた僕は、ショックで何も考える事が出来なかった。
ラインバウトが、僕の横に跪き
「わかったな、君の父上に賠償金を下げるように言うんだ」
と囁いた。
**********
ドサッと言う音がして、ガゼボを振り向くとステファーヌが倒れていた。
「まぁ、、、」
システィーナ嬢が小さな声を出して、そっと俺に触れる。
「ステファーヌ様、どうされたのかしら、、、」
ラインバウトの身体で彼の表情は見えない。
「ローシュテア様、、、。私、聞いて頂きたいお話しがありますの、、、」
*****
ラインバウトが立ち上がると、ステファーヌが頬を抑えているのが見えた。
「ローシュテア様、、、私もラインバウト様に、、、」
そう言ってシスティーナは頬を撫でた。
ローシュテアは、眉間に皺を寄せ、嫌悪感を露わにした。自分より弱い人間に暴力を振るうなんて信じられない。
「アイツ、、、」
システィーナはローシュテアの腕を掴む。
「お願いです、、、私を一人にしないで、、、」
微かに怯えるシスティーナ嬢。
「ラインバウト様に、貴方を引き止める様に言われました。もし、貴方があそこに行ってしまったら、私は後で彼から、、、」
そう言って、自分の身体を抱くと涙が溢れそうな瞳でローシュテアを見つめた。
**********
大体、ステファーヌは男のクセに図々しいのよ。ラインバウト様と婚約したり、ローシュテア様に気に入られたり。はっきり言って迷惑。男は男らしく、貧乏な子爵家の娘でも娶れば良いモノを、欲に目が眩んでるんだわ。本っっっ当にイヤっ!
ラインバウト様は身長も高く、顔も整っているの。スタイルも良くて、男らしく、女性なら彼に惹かれる人も多いわ。
頼り甲斐のある男性で、私は一目で気に入ったのに、、、彼が欲しいと思った時は、もう遅かった。婚約者がいたのよ。
婚約者は男性だった、、、。
顔はまぁ、可愛らしい。
でも、本物の女性である私に敵う訳が無い。
だから、私は彼からラインバウト様を奪ったの。
本当は子供なんて出来ていない。私がそんな失敗する筈無いじゃない。
それでも、後ろめたいラインバウト様は、私の嘘を信じたわ。
最後まで堂々としていれば良かったのに、あの男は私が妊娠していると話してしまった。
その場に私はいなかったから、何も出来なかったけれど、ラインバウト様の所為で私達はアークウェット伯爵家からの援助が受け取れなくなってしまった。
ホント、馬鹿な男、、、。
それにしても、ローシュテア様は素敵。ステファーヌには勿体無いのよ、、、。
ローシュテア様はラインバウト様とは違う良さがあるわ。女性より、男性に人気があるわね。細い割に逞しい筋肉質の身体、少し低い声。とても魅力的。彼に抱かれたら、どうなるのかしら、、、。
妊娠していない事は、いずれ、私の勘違いだったと話しをする予定だったし、ローシュテア様がラインバウト様から私を奪ってくれれば良いのに、、、。
**********
二人の話は終わった様で、ラインバウトがこちらに歩いて来る。
すれ違い様にラインバウトは俺を睨みつけて舌打ちをし、システィーナ嬢の肩を抱いて、一緒に連れ帰った。
俺は早足でステファーヌに近寄る。
「大丈夫か?」
頬を押さえながら、放心した顔で振り向く。唇に少し血が付いていた。
ステファーヌは俺の存在を忘れていた様だった。
俺がハンカチを差し出すと
「あ、ありがとうございます、、、」
と小さな声でお礼を言い、ハンカチを受け取る。
頬を抑えた手で分からなかったが、彼の左頬は真っ赤で、少し腫れていた。
「これは、酷い、、、」
そう言うと、彼はハンカチで頬を押さえながら、涙をポロポロ流した。
先日の涙とは違い、儚い涙だった。
「ハンカチを、、、」
と言って、返して貰う。
「唇が切れています」
ハンカチの一番柔らかそうな面でそっと拭う。
「痛、、、」
「申し訳無い、、、」
彼の顔を見ると、可愛らしい顔が痛みで歪み、恥ずかしそうに笑った。
その瞬間、また涙が溢れ落ちて、俺はつい、指で涙を拭ってしまった。
泣き顔が可愛い、、、。
彼の顔が真っ赤になるから、こちらまで恥ずかしくなる。
俺は、ステファーヌの手を取り、二人で椅子に座った。
「アイツとは、婚約破棄したのですか?」
と聞いた。
「はい、、、先日、、、」
「淋しいですか?」
「いいえ。全く、、、。僕、あの人の事、苦手だったんです。破棄されて良かった、、、」
「でも、ランチルームで涙を流されていましたよね?」
「貴方もいらしたんですか?」
「何も出来なくて申し訳無い」
「良いんです。涙を流したのは、ずっと我慢していた自分が可哀想だなって、、、。長い時間無駄にしたなって思ったからです」
ステファーヌが小さく笑う。
何だか可愛い人だな、、、。
その事件をきっかけに、俺とステファーヌは親しくなり、いつも一緒に過ごす様になった。
*****
その日、ステファーヌは学園にいなかった。
放課後、システィーナが近寄って来て、ラインバウトの事で相談したいと言われた。
場所は、あの時のガゼボ。
「ラインバウト様に手を挙げられるのです、、、。婚約をしているからと、無理矢理彼の部屋で、、、人には言えない様な事を強要されて、、、」
、、、何故、俺に相談するのか分からず、俺は適当にあしらっていた。
「見て下さいっ!」
そう言って、制服の胸元を大きく開く。
「此方にもっ!」
スカートの裾を捲り、太腿を見せる。
、、、何も無い様だが、、、。
「今は、大分良くなりましたが、酷く腫れて、気持ち悪く変色してしまいました、、、。女性にこんな事をするなんて、、、」
と言いながら、俺の胸にしなだれた、、、。
俺、コイツに興味無いんだよな、、、。溜息が出る。
「ローシュテア様、、、」
「はい」
「私、どうしたら良いのでしょう、、、」
、、、そんなの、俺が知るか、、、。
**********
アークウェット伯爵は緊張している様だった。
父は冷静に努める。
ラインバウトはイライラしているようだ。
僕はこれから何が起こるか不安だった。
「あの娘は妊娠していませんでした。彼女の勘違いだったのです」
妊娠していなかった?
「勘違いする様な行為があったのだろう?」
「いえ、私は手さえ繋いだ事はありません」
嘘だ。ラインバウトは嘘を吐いている。
彼は僕に、「彼女の柔らかい肌は、君には無いだろ?」と言った、、、。俺達の愛の結晶と叫んだ。
でも、僕は本当の事が言えなかった。ガゼボで叩かれた事が蘇ったから、、、。
僕は視線を落として、握り拳を作った。
「それで?」
父が静かに問う。
「それで、、、あの、、、賠償金を少し、、、その」
父は紅茶を一口飲んで、暫く考えていた。
「私の息子が頬を腫らして帰って来た日がありました。その日、御子息からも、その話しがあったそうです。確か、唇も切れていましたな」
あの日、直接父に会っていなかったけど、母様か執事長から話しを聞いていたんだ。僕はホッとした。
アークウェット伯爵は、またもや落胆し、丁寧に詫びてから静かに帰っていった。
「父上、ありがとうございました」
「いや、ステファーヌ、辛い思いをさせて済まなかった。最初に彼との婚約を断っていれば、お前も傷付く事は無かったのに。彼らはもう二度とこちらには来ないだろう。安心しなさい」
これで本当に終わったんだと思った。
*****
ローシュテアを好きになったのはいつだろう。
気が付いたら一緒にいるのが当たり前になっていた。
彼の優しい笑顔が良いなって思った時、好きだと自覚した。
大きな手、長い指、サラサラの髪、広い肩幅、男らしい仕草、声、、、香り、、、。何もかもが好きだ。
「ローシュテアは誰かを好きになった事、ある?」
「ある」
「そっか、、、。それってどんな気持ち?」
「ステファーヌは、無いのか?」
「ラインバウトと小さい頃に婚約してしまったから、誰かを好きになりそうになると、その感情に蓋をしてたんだ。だから、恋に進展する事は無かった」
今までは、、、。
「恋がしたい?」
「、、、したい、、、ダメかな?」
「良いと思うよ」
「、、、僕は、ずっとラインバウトのお嫁さんになると思ってたから、今から結婚相手を探すのも難しそうだし、、、」
ローシュテア、どんな人を好きになったんだろう。気になるな、、、。
「今でも、その人の事、好きなの?」
「好きだな」
「素敵だね」
僕は少し淋しかった。
いつも一緒にいてくれるローシュテア。彼の好きな人はどんな人だろう。少し、羨ましいな、、、。
*****
ローシュテアがシスティーナ嬢と一緒にいるのを見掛けてしまった。
「ほら、ご覧になって。彼女、今度はローシュテア様に御執心よ」
「ラインバウト様はどうされたの?」
「いつものアレじゃ無いかしら?」
「いつものアレ?」
「彼女、御自分の物になると、一気に冷めてしまうそうよ。だから、今度はローシュテア様なんじゃないかしら」
僕は何だか嫌な気分になったけど、ローシュテアとシスティーナ嬢が並んでいる姿は美しいなと思った。
**********
何故、この女は俺の側に来るんだろう。正直、話題は貧相だし、楽しくも無い。
「聞いてらっしゃる?ローシュテア様」
身体をクネクネさせて気持ち悪い。胸がデカ過ぎるのも嫌だ。そして、最悪なのが香水だ。
「もうっ!ローシュテア様ったら」
と言って胸を押し付けられた。
「失礼、友人が待っていますので、、、」
俺の腕に絡まる彼女の腕をそっと外し、距離を置く。
早くステファーヌに消毒してもらわないと。
俺はステファーヌを探す。
いた!可愛らしい女性と一緒にいる。俺の知らない生徒だ。
「ステファーヌ」
名前を呼ぶと、振り返る。俺の顔を見ると、一瞬、嬉しそうにフニャっと笑う。
この顔を見ると、ステファーヌが俺を好きなんだと勘違いする。
「随分可愛らしい女性と一緒にいるんだね、誰だい?」
彼女は少し赤くなった。
「ローシュテアは本当に可愛い子が好きだよね」
と苦笑した。
「彼女、君と話しがしたいそうだよ」
そう言うと、ステファーヌは彼女に
「頑張って」
と小さく声を掛けて、歩いて行く。
俺は彼に消毒して貰わないと困るのに。
「あの、ローシュテア様、、、」
「、、、悪い、ステファーヌに
「ステファーヌ様と仲が良いんですねっ!」
「ええ、まぁ」
「私、お二人の事応援してます!」
「あ、ありがとうございます、、、」
そんな事よりステファーヌだ。
「ローシュテア様は、ステファーヌ様の事どう思われているのですか?」
ほんのり頬を染めて聞かれたけど、、、えっと、、、?
**********
先程の令嬢、、、ローシュテアとどんな話しをしたんだろう、、、。システィーナ嬢もローシュテアが好きみたいだし。ローシュテアはモテるんだな。
彼女の事、可愛らしいって言っていた。システィーナ嬢も可愛い顔をしている。ローシュテアは可愛い感じの子が好きなのかな。
「ステファーヌ」
「、、、ラインバウト、、、」
嫌な人に会っちゃった。もう、何ヶ月も会って無かったのに、、、。
「ステファーヌ、その、、、話しがあるんだ」
僕は無いよ。
「やり直したい。やっぱり、ステファーヌが良い」
え〜、、、
「僕はイヤだよ、、、」
**********
システィーナに騙された。彼女は妊娠してなかった。俺の家から援助が貰えないと分かったら、サッサと別の男に乗り換えた。
俺はあの騒動で新しい婚約者は見つからないし、賠償金を払う為に資産は激減した。
子供の頃から、ステファーヌは俺の言う事に反発する事は無かった。どうせアイツにも新しい縁談なんて来ないだろう。
俺が悪かったと謝れば元に戻れる気がする。別れ話をした時だって、納得いかない顔をして、涙を流していたじゃないか。そうだ、俺が一言謝れば、、、。
久しぶりに見るステファーヌは可愛かった。
コイツ、こんなに可愛かったかな?
こんなに可愛いなら、俺の横に置いても良いだろう。
「ステファーヌ、、、」
「、、、ラインバウト」
いつも俺を避けていたのに、名前を呼んでくれた、、、。やっぱりステファーヌも俺の事、まだ、、、。
「ステファーヌ、その、、、話しがあるんだ。やり直したい。ステファーヌが良い」
「、、、僕はイヤだよ、、、」
え?
「ぼっ、僕はずっと君が苦手だった!でも婚約者だから、頑張ってただけだよっ!紅茶を掛けられたり、殴られたり、そんな関係イヤに決まってるでしょっ!」
そんな、、、。
「子供の頃はいつも許してくれたじゃないかっ!」
「それは君が婚約者だからだよっ!良い関係を築きたかったから頑張ってたんだ!もう君の為に頑張れ無いよ!。それに、君は僕と婚約しているのに、彼女と不貞を図っただろ?そんな相手とは結婚出来ない!」
「最初から?」
「そうだよ、、、最初から苦手だった。いつかは変わってくれるかと思ったけど、人は中々変われ無いんだね、、、君は年々酷くなっていった。僕は、君から婚約破棄してくれてホッとしてるんだ。だから、やり直しなんて絶対しないよ」
「俺が変わるって言っても?」
「無理だよ、、、。僕の中に、君は恐怖を植え付けた。いつ怒鳴られるか、いつ紅茶を掛けられるか、いつ暴力を振るわれるか、ビクビクしながら一緒にはいられない、、、」
それに、君は彼女と不貞を働いたのに、手も握った事が無いと平気で嘘を吐いた。そんな君の言葉は信じられない、、、。
*****
俺は確かに傲慢だった。強い男でいたかったし、伯爵になったら家族も領地も守らないといけないと思ったから、、、。
それに自分に自信もあった。女の子にもモテた。
小さい時のステファーヌは、少しおっとりしていて、可愛かった。いつも俺の話を聞いてくれて、俺がイライラしていてもステファーヌがいれば落ち着いた。
だから、俺はステファーヌを誰にも取られたく無かった。
でも、年頃になり、少し女の身体を知ると坂道を転がる様にのめり込んで行った。女の身体は柔らかくて、甘くて、最高だった、、、。
俺はステファーヌに甘え過ぎていたのか?
たまに、俺に対して緊張している時もあったけど、まさか最初から苦手だったなんて、、、。
「ステファーヌ?」
「ローシュテア」
ローシュテアが迎えに来ていた。
俺は二人を見た。何だ?、ステファーヌのあの顔は。あんな顔、俺に見せた事は無い、、、。
二人は俺を置いて行った。
**********
俺はステファーヌに腕を差し出した。システィーナの胸が当たった場所だ。
ステファーヌは首を傾げながら、そっと腕を組んでくれた。
はぁ、、、これで、やっと消毒出来る。
「さっきは、大丈夫だったか?」
「うん、やり直したいって言われたけど、ちゃんと自分の気持ち言えたよ。ローシュテアが来てくれて良かった」
「そうか」
「、、、さっきの可愛い子と何を話したの?」
「ステファーヌは、あの子が好みなのか?」
「?。ローシュテアの好みでしょ?君が可愛いって言ったんだよ?」
「ん?そうか?ステファーヌが女の子と一緒にいるから、ヤキモチ妬いたんだな」
ニヤリと笑う。ステファーヌは少し赤くなった。
「彼女は、二人の事を応援してると言ってたぞ、、、」
「ローシュテアとシスティーナ嬢の事?」
「俺とお前の事だよ」
「え?、、、んん?」
ステファーヌは、首を傾げながら考えている。
可愛い、、、。
「分かる人には分かるのに、本人には分からないもんだな」
「え?何の事?」
俺はステファーヌの頭を撫でて
「何でも無い」
と言った。
**********
僕はずっとラインバウトと結婚する為に準備をして来た。だから、今から方向転換するのが少し難しい。
勉強の内容も補佐的なモノから、主任的なモノに切り替えないといけないし、結婚相手も女性になるんだ、、、。別に女性が嫌いと言う訳では無いけど、僕が旦那様になる女性は何だか可哀想に思える、、、。
はぁ、、、。
「どうした?溜息なんて吐いて」
「僕なんかと結婚してくれる令嬢なんているかな、、、」
「え?ステファーヌが旦那様になるのか?」
「僕だって、男だからね。令嬢と結婚するなら旦那様でしょ?」
「なれるのか?旦那様?」
「酷い、ローシュテア、、、僕だっていつかは結婚したいのに、、、」
本当はローシュテアと結婚したいけど、それは無理だと思う。
「そうか、、、うーん、、、」
と言いながら、何やら考え込んでいた。
**********
本当にこの女は何処から湧いて来るのやら
「ローシュテア様!」
「済まない、急ぎの用事があるんだ」
「あら、それなら私もお手伝い致しますわ」
「いや、結構、本当に急いでいるから」
「待って、ローシュテア様っ!」
彼女は、背伸びをして俺の前髪に触れた。
「これで大丈夫ですわ。いつも通りカッコ良いです」
「あ、ありがとう、、、」
令嬢は普通、男の髪になんぞ、触れないと思うのだが、、、。
いきなりでびっくりした俺は、顔が赤くなってしまった。
慌てて、その場を去ると、今度は目の前にステファーヌがいた。
「さ、探してたんだ、ステファーヌ!」
俺は彼の腕を取り、その場を後にした。
**********
あれってキスしてたよね?
**********
システィーナ嬢が相手じゃあ、仕方が無いかな。
ラインバウトも骨抜きにされていたし、ローシュテアともお似合いだった。
「ん?」
とローシュテアが僕の顔を見て言う。
「何でも無い」
と笑う。笑うしか無かった。
*****
ナネットは、子爵家の令嬢。以前、僕に声を掛けてくれた、可愛いらしい女性だ。
「ステファーヌ様、、、可愛いです」
実は、あの後仲良くなって僕がローシュテアの事を相談出来る唯一の相手。
「大丈夫ですよ。ローシュテア様はステファーヌ様が好きなんですから」
ニコニコして言う。
だけど、ナネットは「ローシュテア様はステファーヌ様が好きなんですから」しか言わないから、最近、ちょっと信用していない。
「でもね、キスしてたんだよ?」
「見間違いですよ」
「そうかな、、、?。システィーナ嬢が背伸びをして、キスしてる様だった。ローシュテアも顔を真っ赤にしていたし、、、」
「顔に着いた睫毛でも取って上げてたんじゃ無いですか?」
「そうかなぁ、、、」
「痛っ!」
「?。大丈夫?」
「目に何か、、、。何か入ってますか?」
ナネットは、左目をパチパチとさせる。
「待って、今、見てあげるから」
僕は失礼して、彼女の顔を触る。
「何も
グイッと誰かに引っ張られた。
「ステファーヌ、何してるの?」
ローシュテアがにっこり笑っている。
「ローシュテア!」
「私っ!ちょっと用事を思い出しましたっ!」
ナネットはそう言うと、逃げて行った。
「ステファーヌ?、、、」
え?怒ってる?だから、ナネットは逃げたの?
ローシュテアは僕の隣の椅子を引き、座った。
あの、近くない?
「ナネットの事、好きなの?」
ローシュテアの顔が目の前にあるんだけど、、、。
「好きだよ?」
好きじゃなければ、友達にならないと思う。
「じゃ、結婚するの?」
「はぁっ?結婚?何で?!」
「今、キスしていたから」
「キスじゃ無いよ!目に何か入ったって言うから、見ただけだよ?。キスしてたのは、ローシュテアでしょ?」
「はぁっ?俺がっ?誰と?!」
「、、、システィーナ嬢と、、、」
「、、、システィーナ嬢とキスなんて死んでも嫌なんだけど、、、」
「だってこの間、、、。ローシュテアも真っ赤になってたじゃないか」
「えぇ〜、そんな事あったかなぁ、、、」
「あったよ!システィーナ嬢が背伸びをして、ローシュテアにキスしてた!」
「それを見たステファーヌはヤキモチを妬いたって事?」
「違っ!違うよっ!ヤキモチなんて妬かないっ!」
「何だ、残念、、、」
「残念って、、、」
「俺はさっき、もの凄くヤキモチを妬いたのに」
「システィーナ嬢がいるじゃないか」
「あれはタイプじゃない」
「良くお似合いだと思うよ?」
「アイツにされた事忘れたの?あんなヤツ、絶対嫌だね」
ローシュテアが僕の手を取る。
「ステファーヌが良い」
「でも、、、」
「そんなにアイツとくっつけたいの?」
**********
ステファーヌの瞳が揺れる。
「分かった、、、」
ワザと溜息を吐く。
「その方が良いなら、お前は諦めてシスティーナ嬢と付き合うよ」
握った手に力が入った。
「そのまま婚約して、結婚かもな」
俺は彼の手を離し立ち上がる。ステファーヌは、空になった掌をギュッと握りながら俯いた。
「じゃあな」
と言って歩き出す。
少し離れた場所で振り向くと、ステファーヌは涙を拭いていた。
馬鹿だな。引き止めれば良いのに、、、。
俺は彼の元に戻り、手を握る。
「来て、、、」
ステファーヌは戸惑いながら、何も言わずに着いて来る。
校舎を出て、誰もいない場所まで来るとステファーヌと向き合う。
「何で泣いたの?」
彼は繋いだ手を解こうとした。俺は力を込めて、それを拒否する。
「俺とシスティーナ嬢が付き合うの、喜んでくれるでしょ?」
彼の瞳からブワッと涙が溢れた。
「彼女と婚約したら嬉しいでしょ?」
涙が溢れないように、懸命に堪えようとしているのに、一粒流れてしまうと後は止まらなかった。
「彼女と結婚したら、祝ってくれるよね?」
「イヤだっ!」
ボロボロ泣きながら叫んだ。
「ローシュテアが結婚するなんてイヤだよ!」
ポカっと俺を殴った。もちろん本気じゃない。ポカポカと叩く。涙を流しながら、少しずつ力が強くなって行く、、、。可愛いな。
俺はとうとう我慢できなくて抱き締めた。
俺より小さな身長、細い肩。全体的に華奢で守りたくなる。サラサラの髪からは、ステファーヌの香り。
俺の胸の中で泣くステファーヌ。
ああ、家に連れて帰りたい、、、。
「ステファーヌ、、、」
涙が落ち着いた彼は、腕の中で俺を見上げる。
「俺の事、好きなんだ」
コクリと頷く。
「そっか、、、」
彼の涙をキスで拭う。また、涙が溢れて来た。
頬に手を添え、上を向かせると素直に目を閉じる。
「俺は、ステファーヌの事、愛してるよ、、、」
そう言って軽く口付けをする。
「僕だって、、、愛してる」
と言って上目遣いで俺を見つめる。涙で潤んだ瞳がすごく良い。
俺はもう一度口付けをすると、彼を感じたくてどんどん攻めた。
初めてのキスに戸惑いながら、恥ずかしそうに応えてくれるステファーヌ。
息が苦しいのか、俺の服をキュッと握る仕草も可愛い。
頬に添えた手を、少しずらし首に触れると、瞼に力が入り小さく声が漏れた。
ゾクゾクゾクッと下半身が刺激され、これ以上はヤバいと感じる。
「ローシュテア、、、僕、変になっちゃう、、、」
ステファーヌはそう言うと、俺の背中に手を回して抱き付いた。
ああ、何で此処が校内なんだ!もっと違う場所ならっ!
俺はステファーヌを力の限り抱き締めた。
**********
「昨日から一転して仲良しなんですね」
ナネットは、僕達が繋いだ手を見ながら微笑んだ。
あのね、僕は恥ずかしいんだよ?それなのに、ローシュテアが手を離してくれないんだ。
「昨日の私の作戦が良かったのかしら?」
ニコリと笑う。
「作戦?」
「目に何か入ったと言ったでしょう?アレは嘘です」
「嘘?どうしてそんな嘘」
「ローシュテア様は本当にステファーヌ様が大好きなのですよ?システィーナ様とキスなんてする筈ありません。顔と顔が近付くとキスしている様に見えるものです。だから、私、演技をしたんですの」
「演技?」
「私が痛がるから、ステファーヌ様は私の頬に触れ、瞳を見て下さったでしょ?。後ろから見たらキスしてる様に見えるんです。ね、ローシュテア様」
そう言って、ナネットはローシュテアの顔を見た。
「お二人にはきっかけが必要かと思いましたので」
うふふ、と笑った。
「でも、校内で不埒な事をなさってはいけませんよ。そう言う事は、誰が何処で見ているかわかりませんからね。良いですね?「誰が」「何処で」見ているからわからないのです」
そう言って、何かを思い出す様にうっとり微笑んだ。
「、、、まさか」
ローシュテアが赤い顔をして、僕を抱き締めナネットから隠した。
危ねぇ、、、。
ステファーヌは、キョトンとした顔をする。
ナネットに、告白シーン覗かれてました。あれ以上無くて、良かった良かった。




