第3話 小さな魔法使いは、話し合う。
三日後の朝――。
エルフィーナは眠そうな目をこすりながら、窓の外を覗いた。
相変わらず、あの二人はいた。ゼルネとリーネ。
彼らは結界を張ったその日からずっと近くに陣を敷き、そこで野宿を続けていた。
「……この寒い中、よくやりますね。お仕事ご苦労様です」
まるで他人事のようにエルはつぶやく。
その頃、テントの中ではゼルネとリーネが今後について話し合っていた。
「そろそろ結界も切れるだろうと思ってたんだが……」
「……三日経ってもまったく揺るがないわね。普通は一時間が限界のはずなのに」
二人は試しに攻撃魔法をぶつけてもみたが、まったくの無傷。
少女が瞬時に張った結界とは思えないほどの強度だった。
「おーい、お嬢ちゃん。せめて話だけでもさせてくれー!」
ゼルネが結界の外から声をかける。
その声は、エルフィーナの耳にも届いていた。
結界はあと1ヶ月は維持できるが、このまま貼り続けていれば町の人たちにも気づかれてしまう。
そうなれば、余計に面倒なことになるのは目に見えていた。
(……仕方ありません)
渋々と立ち上がり、エルは結界を解いた。
そしてドアを開け、ふたりを迎える。
「ゼルネさん、リーネさん……ごめんなさい。いきなり結界なんて張ってしまって」
エルフィーナは深く頭を下げる。
「改めて名乗ります。ここに住んでいるエルフィーナ・ノクターンです。……私はただ、静かに暮らしたいだけなんです」
その切実な言葉に、リーネが優しく微笑んだ。
「私たちこそ、突然押しかけてごめんね。……でも、正直に聞かせてほしいの。エルフィーナちゃん、あなたはどんな属性の魔法が使えるの?」
一瞬だけ迷ったが、リーネの穏やかな態度から悪意は感じなかった。
エルフィーナは静かに答える。
「……一応、全部の属性を使えます」
その瞬間、ゼルネとリーネの口がぽかんと開いた。
「ぜ、全属性……!?」
「それが本当なら……この国が建国されて以来の、いや、歴史的な存在になるわ……」
リーネが慎重に言葉を選びながら尋ねる。
「疑うつもりはないけど……見せてもらってもいい?」
エルフィーナはうなずき、庭に出て魔法の構えをとる。
そして――
火、水、風、土、雷、光、闇、無。
それぞれの属性魔法を、すべて初級レベルで順に行使してみせた。
「すごい……本当に全部……」
ゼルネは思わず息をのんだ。
「でも、君はそれを隠して、静かに暮らしたいんだな?」
「はい。私は注目されるのが嫌なんです。
静かなところで、魔法の研究をしながら生きていきたいだけです」
まだ10歳にもかかわらず、どこか達観したその言葉に、ゼルネはしばし黙り込んだ。
そして、ゆっくりと口を開く。
「……エルフィーナ。提案があるんだが――」
その“提案”が、彼女の運命を大きく変えるとは、
この時のエルフィーナには、まだ想像もついていなかった。