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「優也君の命と引き換えに俺の記憶を残す」

私の名前は薊 桜花。


あまりにも残酷な言葉に私はフリーズする。この人は何を言っているの?


まずそう思った。ますます鳥肌がたつ。ここで残すと言えば私は人殺し。


そしてその罪悪感をもって生きていく事になるのだろう。


それは考えるだけでぞっとした。私には今という景色を惜しむ時間すらないのかな。


気持ちは溢れるばかりで私達が出会えた意味ってなんだったのって思ってしまう。


結局さよならの時間が近づいてきたのだ。もう会えないかもしれないのだろう。


彩音ちゃんが「優也君に生きてほしい!」と叫んだ。その言葉に背中を押されるように


私はもう記憶なんていらないから…だから「あなた達と生きたい!」そう願った。






私の名前は茜 玲奈。真っ暗の世界で一つ一つの事を思い出す。


ハジメて皆に出会った日。皆に現実で会えた日。


きっと幸せになれるはずなのに。キラキラと輝く思い出が胸を締め付ける。


どうして人は出会いと別れを繰り返さなければいけないのだろうか。


でも…それが人間なのだから受け入れるしかないのだろうね。


そんな事を考えていたら優也君が衝撃的な発言をした。


私は息を呑んだ。記憶を残す代わりに優也君が死ぬの?そんなの嫌だよ。


だって私は優也君が好きだから。私を暗闇から救ってくれた優也君が。


桜花と彩音ちゃんはもう決意したようだ。


私は「優也君が死ぬなら私も死ぬから!」と叫んだ。ありったけの声で。






僕の名前は風田川 伊吹。


ずっと、気づいていた。こうなる事は僕はあらかじめ考えていた。


大きく息を吸って深呼吸をする。玲奈先輩大好きでした。さようなら。


僕は、はっきりと「記憶なんていらないから優也君が生きて!」と言った。


玲奈先輩はきっと優也君の事が好きなのだと思う。さっきの発言だってそうだ。


そこまで好きじゃない人に私も死ぬとか絶対に言わない。


後は、楓真先輩と悠月先輩だ。僕はギュッと目をつぶって願う。


優也君が生きる事を。




俺の名前は五十木 楓真。俺は真っ暗闇の中、思い出す。


お前なんて邪魔だ 消えてしまえと言った親の声を…。苦しかった。


何がおきたのかわからなかった。五歳だった俺には何一つ理解不能だった。


ただ、怖くて仕方なかった。あざだらけになりながら逃げた。


たくさん擦り傷もできた。痛くて泣きじゃくっていた時、夜さんが救ってくれた。


なんで俺は邪魔だったのかわからなかった俺に夜さんは言った。


「君はなにも悪くないよ。だから僕の所へおいで」


優しくて自然に包まれたような言葉だった。彼は俺の命の恩人だった。


救われたはずなのに。夜さんがいない世界は一瞬でモノクロになった。


俺は次第に学校に行かなくなり部屋に引きこもってしまった。


本当にバカみたいな話かもしれない。だけど俺には本当に辛い事だった。


生きる意味を失ってしまったように感じた。俺、夜さんに言いたかった事がある。


だけど…言えないまま終わってしまった。大人になったら言おうって思っていた。


その時だった視界がパッと輝いて夜さんが現れた。俺は夢かと思った。


夜さんが「楓真、本当にごめんな。最後まで育てられなくて」と言った。


俺の目から自然と涙が思いが溢れて流れていく。どうしてあなたが謝るのだ。


そう思った。あなたは見ず知らずの俺を救ってくれたではないか。


なのにどうしてあなたは謝る。少しでも育ててくれたではないか。


俺に希望を優しさを強さをくれたではないか。実の子のように育ててくれた。


本当に嬉しかった。あなたがいてくれたから今の俺はいるのだとわかってほしい。


だから俺は、必死に伝えたかったあの言葉を言う。


「お父さん!大好きだよ。今まで育ててくれて本当にありがとう!


俺はお父さんのおかげで生きる事の楽しさを知りました。


俺の事をほめてくれてありがとう。怒ってくれてありがとう。


お父さんが教えてくれた事、絶対に忘れないよ。忘れたくないよ。


お父さんが最後の力を振り絞って作ったこの世界の事、絶対に忘れたくない。


あいつらにもいつか絶対にまた現実で出会いたい。だから…もう大丈夫だよ。


俺にはまだ大切なものがあるから。まだ生きようって思う。


お父さんが亡くなった日、自殺しようとした時に止めてくれたのお父さんでしょ。


俺、頑張って大人になる。そしてお父さんみたいな人になりたい!」


夜さんの事、やっとお父さんって言えた。ずっと恥ずかしく言えなかった。


好きだって言えた。お父さんみたいになりたいって伝えられた。


感謝している事しっかり言えた。お父さんは泣きながら微笑んだ。


「楓真は本当に、本当に優しくて強いな。とっくにお父さんより凄いよ」と言った。


俺は嬉しくて、でも悲しくて、もっとお父さんと過ごしたかったと思った。


次の瞬間、真っ暗闇になり月明かりの下に優也君が現れる。また爆弾発言をする。


皆は彼に生きて欲しいと言う。死ぬなら一緒に死ぬと玲奈は言った。


だけど、俺の答えは決まっている。たしかに自分のせいで人が死ぬのは嫌だ。


でも、それ以上にこの記憶が消えてなくなってしまうのはもっと嫌だった。


大切なものをこれ以上失わない為に俺は力強くこう言った。


「優也君の命と引き換えに俺の記憶を残す」





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