夜さんの正体
私の名前は薊 桜花。七月七日皆で会えると思うとわくわくする。
正直言うと私は友達を作るのが苦手だった。
いつも空回りしてしまった。周りから浮いていた。
次第に不登校になってしまった。髪もぼさぼさなまま過ごすのが当たり前になっていた。それが悪い事だとは思わなかった。周りの人達だって悪いと思った。
だから、私に友達ができるなんて二か月前までは予想していなかった。
だけど二か月前、夜さんが迎えに来てくれて私は救われた。
玲奈と仲良くなれた。彩音ちゃんとも話すようになった。
生きるのが楽しくなった。それまでの憂鬱な日々が吹き飛ばされていった。
だから本当は、ずっとここにいたかった。でも…無理そうだ。
悠月君は本気みたいだった。幻の桜を見つける事。必死に探していた。
だけど…玲奈はずっとここに居たいと思ってくれているはずだ。
あの時、玲奈は同意しなかった。それが私のかすかな救いになった。
時間と言うものはあっという間で必死に道を調べていたらもう六日だった。
慌てて荷物の準備をする。次の日の朝家を飛び出す。
辿り着ける事を祈りながら何回も乗り換えをする。
途中地下で迷子になりかけ駅員さんに聞いた事も何度もある。
玲奈や楓真君に会いたかった。私、実はひそかに楓真君が気になっている。
だから、今日は精一杯おしゃれして家を出た。
楓真君はきっと玲奈の方が好きだろうけれど。
玲奈と話す時の楓真君はいつも楽しそうで幸せそうだった。
後、二年も経てば皆と離れ離れなのかな?
そんなの嫌だよ…。皆と居たい。忘れたくない。永眠したって良いから‼
私に初めて幸せをくれた。皆が幸せだと思えるようにしてくれたのに…。
忘れてしまうなんて残酷すぎる。私…皆のいない世界なんて嫌だよ。
悠月君はきっと永眠する気なんてないのだろう。
ならば私が勝つしかないのだ。絶対に勝って皆に自分で会いに行くのだ。
私は心の中でそう誓い月空駅に降りた。自然豊かな町だった。
まぁ私の町もそうだけれど…。着いた時間は昼の一時だった。
着くとそこには玲奈と彩音ちゃんがいた。そりゃそうか。地元だものね。
私は「玲奈!彩音ちゃん!」と呼ぶ。玲奈は振り向き「桜花!早かったね」と言った。
私は「全然そんな事無いよー」と笑う。玲奈が来ていてとても嬉しかった。
その後「楓真君はいつ来るかな?」と聞くと玲奈が「桜花、楓真が好きなの?」とニヤニヤしながら言ってきた。
私は慌てて「まだ好きじゃないし」と言う。
すると玲奈はもっとニヤニヤして「まだ、なんだ」と言ってくる。
彩音ちゃんまでニヤニヤし始める。本当に困っちゃう。
だけど、友達が現実に居る事がとても嬉しかった。幸せだった。
こんなふうに毎日ずっと会いたいと願ってしまうのはわがまま?
こんなにも傍に居たいのに…。神様はどうしていつも残酷なの?
そんな疑問すら浮かんでくる。だけど…それが運命なら仕方ないと受け入れるしかない。現実は残酷だけれどだからこそこんなにも幸せな気持ちになれるのだと思い知る。
僕の名前は風田川 伊吹。玲奈先輩に今日やっと現実で会えると思うとドキドキする。
昼の十二時に家を出て何回か乗り換えをして着いた。
まぁ僕が一番近かったんだろうけれど…。
とにかく月空駅に着き降りる。改札を出ると玲奈先輩と薊先輩と椿さんがいた。
薊先輩って僕より遠かったのに早かったなと思いながら
「玲奈先輩!」と言う。すると彼女はこっちを見て優しく微笑む。
「伊吹君!久しぶりー」と言う。その瞬間がスローモーションみたいだった。
そのくらい僕は玲奈先輩にみとれていたのだろう。そこに「よっ」と悠月先輩は来た。
振り向くと…知らない男の子が車椅子に乗っていた。僕は「えっ?」と思わず言う。
だってその子は夜さんに少し似ている気がしたから。
僕は「えっと…その子は?」と聞く。悠月先輩は「俺の友達」と言った。
ますますこんがらがっていると悠月先輩は「名前はこいつに言ってもらう」と言う。
そして悠月先輩が「皆来たらな」と言う。その後、皆が揃ったのは三時だった。
悠月先輩が「皆、驚かないで聞いてくれこいつが夜さんだ」と言った。
皆、茫然としていた。夜さんはもっと髪の色も濃いし身長も高い。
そんな事を思っているとその男の子が、か細い声で言った。
「僕の名前は上青木 優也」
皆が「夜さんなの?」と言うとその子は「夜さんではない」と言う。
皆もっとこんがらがったようだった。すると悠月先輩が説明した。
内容は五十木 夜さんは楓真が言ったように亡くなっている事。
上青木君は夜さんが大好きだったこと。だから、夜さんになって僕達に会いに来た。
そんなファンタジーを起こせたのだという。でも、その裏には夜さんも関係している。
夜さんが最後の力をふりしぼって上青木君の妄想の世界を僕達にくれたこと。
だけどその力は二年も、もたない事。上青木君は中学の間に亡くなるであろうこと。
上青木君はどうせ亡くなるからと言って今日ついてきた事。
皆に教えるつもりはなかったけれど悠月先輩が気付いたから今教えているということ。
上青木君も何をしたのか理解できなかったこと。これは奇跡でしかないという事。
それらを全て細かく悠月先輩は話してくれた。僕は悲しかった。
上青木君が亡くなってしまうという事がとても。
だって、今まで姿や名前は違うかったとしても一緒に館で過ごしたのに。
そんなの残酷だ。そんな事になるならいっそ何も知らないままでいたかった。
悠月先輩がこう言う。「皆、早く幻の桜を見つけよう」
僕はどうして?とまず思った。だって、僕達が過ごせるのは今だけなのに。
記憶はほとんどの人が無くなってしまうのに。ギリギリまでいようと思っていたのに。
裏切られたような気がした。悠月先輩がわからずやに思えた。
僕は、玲奈先輩が好きなのに…もっとそばに居たいのに…。
上青木君とだってもっとたくさん話したいのに。そんな想いばかり浮かぶ。
どうして皆いつも自分勝手なのだ。僕の気持ちも知らずに勝手に決めて…。
だけど、まだ希望がある。それは幻の桜がまだ見つかっていない事だ。
僕達はその後、コンビニに行って色々買って公園で他愛もない話をする。
皆、楽しそうで嬉しそうだった。上青木君も微笑んでいる。
というか上青木君ってずっと微笑んでいる。僕ふと思った。
上青木君は心配をかけない為に笑っているのだと。
だって、時折彼の顔が苦痛そうに歪む。きっと苦しいのだ。
でも、なんて声をかけよう。逆に傷つけてしまうかもしれない。
上青木君はどうして僕達を集めたのかそんな事きっと上青木君しかわからない。
彼が何を望んでいるかなんてわからない。どんなに考えても…。
それでも僕は彼に幸せになってほしいと思った。心からそう思えた。
悠月先輩は変な人だけど僕は上青木君は良い人だと思う。
彼の声を顔を見た時に思った。幸せになってほしいと。
だって、あまりにも辛そうだったから彼の瞳が…。
その瞳はどこまでも澄み切っていて優しさで溢れていた。怖いくらいに。
この人はきっと数えきれないほど傷ついてきたのだと思った。
一人でたくさん耐えたのだと闘ったのだとわかった。
上青木君が綺麗な自然を見て「この町、綺麗だね」と言った。
今にも消えそうな声で僕は苦しくなる。自分は今まで不幸だと思っていた。
だけど彼は僕なんかよりも遥かに辛かったのだろう。
生きる意味がわからなかっただろう。苦しくなる。こんなにも人を思ったのは初めてだ。
初めて助けたいと思った人がもうすぐ亡くなってしまうなんて想像するとゾッとする。
だけど、それが僕の現実なのだから受け入れるしかなかった。
辛くても、もう死にたくないと初めて思えた。
だって今、目の前に生きたくても生きられない人がいるから。
その人の分まで絶対に生きたいと思った。強く、強くそう思った。
俺の名前は五十木 楓真。女子達が他愛のない話をして笑いあっている。
そんな中俺は、優也君の事を考える。俺は、彼を救いたい。
それは悠月だって同じはずだ。だけど彼は、幻の桜を見つけたいと言っている。
これには絶対意味があると思った。
悠月は時々学校に行っているようだが俺にはそう感じない。
なぜ嘘をつくのかはわからないけれど俺は悠月も優也君も救いたいと思う。
悠月はいつも何かを抱えているように見えるから。優也君は絶対に助けたい。
すみません!
次の話とその次の話逆で投稿してしまってます!