ショックだった
次の日、学校に行くと机に
死ね 消えろ お前なんてゴミ以下 男子と仲良くするなと大きく書いてあった。
赤い字で。黒い字で。消えないようになっていた。まるで私の心みたいに…。
そう。私には学校に居場所なんてなかったのだ。苦しい、辛い頭がくらくらする。
何これ?今までこんな事なかったのに…。誰がこんな事…。光田さん達に決まっている。でも…もしもそうじゃなかったら…そう思うと怖くて立っていられなくなる。
そこに仲の良い男子がやって来て「玲奈?どうしたん」と言い近寄って来る。
私は思わず「来ないで!」と言ってしまう。本当は来てほしかったのに。
あいつは驚きスッと離れて行った。悲しいけれどこれでいいのだ。
今日は海は休みだった。私はふと思った。もう学校に来ない方がいいと。
そしてここに自分の荷物を置いておいてはならないと。
だからロッカーから教科書を取りリュックに詰める。
机の中の物も横の物も抱え込む。クラス中の人達がクスクス笑いあっている。
光田さんの声もする。「あいつ傷ついているんだけどまじうける」
私はパッと教室を飛び出す。重いけれど必死に走る。
先生の待ちなさい!と言う声も無視する。
後ろからあいつが追いかけてきている声も聞こえる。
「玲奈!待ってや」それでも私は家に必死に逃げ帰る。
途中の橋を渡る時にはもう誰も追いかけてきていなかった。
緑の森に包まれている。家に着くと少し乱れた髪をくしで梳かしベッドに入る。
夜さん連れて行ってと強く願う。体がふっと軽くなった。
目が覚めると青空と庭園の中に倒れこんでいた。それをみた夜さんが大丈夫?と
聞いてくれた。私は首を横に振る。夜さん…じゃなかったら縦にふっていただろう。
夜さんは「そっか」と言い「大変だったね」と言ってくれた。
彼だけは私の事を理解してくれた。私はそう思った。
あいにく今日はまだ誰もいなかった。夜さんと二人で過ごす。
庭園は思っていた以上に広かった。もっと奥に行くとバラ園があった。
赤いバラが輝いているのにさっきの赤い文字を思い出してしまう。
夜さんが「菜の花畑を見に行こう」と言ってくれた。
本当にわかってくれているようだった。嬉しかった。さっきまで怖かった分とても。
菜の花畑は本当に可愛くて綺麗だった。黄色の小さな花がたくさん咲いている。
屋敷の裏まで来ると藤の花が屋根のようにたくさん咲いていて幻想的だった。
ここが私の居場所なのだって。ずっとこんな日々が続くのだってそう思っていた。
その日は皆やって来た。皆がそろったのはなんと十時だった。夜の。
その時だった。夜さんが真剣な顔をしてこう言った。
「君達に今から大事な話があるんだ」
皆、息を呑んだ。大事な話ってなんだろう?
夜さんは「君達はここにいつまで来られると思っている?」と聞く。
私は「いつまでも」と言い楓真は「死ぬまで」と言った。
東海林君は「中学を卒業するまで」と言い椿さんは「一年かしら」と言った。
風田川君は「大人になるまで」と言い薊さんは「二十歳になるまで」と言った。
そんな私達に夜さんは「長くて二年だよ」と言った。
皆、固まった。東海林君も自分で言っておきながら。私もショックだった。
ずっとここに居られるとついさっき思ったのに。
ここにいつまでも居たいのに。夜さんはまた爆弾発言をした。
「ただし、そのまま死んでもいいなら永遠にここにいられる」
それは重くこのリビングルームに響きわたった。
夜さんは「ここに人を呼んだのは初めてだ」と言った。
私は不安になって来た。自分の未来が暗くなるばかりで。
そんな私達に夜さんは「大丈夫だよ。僕は君達を見捨てない」と言う。
どういう意味なのかよくわからなかった。だけど、少しだけ安心している自分がいた。
その時、東海林君が「皆は今日学校に行ったか?」と聞いてきた。
一斉に皆、固まる。東海林君は聞かない方が良い事の区別がつかないようだ。
私は仕方なく楓真には話していたし夜さんも知っている事だから話した。
楓真の時みたいに泣く事はなかった。途中つっかえる事はあったけれど。
話し終わると皆、茫然としていたなか東海林君は「茜さん俺は絶対味方だ」と言う。
その言葉がもしも本当だったらと思うと嬉しかった。
次に楓真が口を開いた。「俺は、親に捨てられたんだ」
内容は、親に捨てられた俺を五十木さんが拾ってくれた。
その人は皆のアイドルみたいな人だった。
俺にも居場所をくれた。だけど五十木さんは亡くなった。その時、俺は小六だった。
次第に俺は自分の居場所を見失い学校にも行けなくなって部屋に籠った。
五十木さんの子どもの阿月さんは優しい人だった。でも、気が弱かった。
俺が引き籠っても何も言えずに毎日ご飯を届けに来てくれた。
楓真の話は終わった。皆なんて言ったらいいかわからなかったなか。
東海林君は「結局それって誰が悪かったんだろう」と呟いた。
楓真が「俺に決まっている」と言う。
皆、一斉に「どうして?」「親だろ?」とか言っている。
それでも楓真は「違う。俺が捨てられるくらい邪魔な奴だったから」と言う。
「絶対その親ひどいよ。だけど…それでも自分が悪いって言うなら俺はそれでいい。
そう思ってしまうのは仕方ない。だけど、俺は絶対に五十木君の味方だ」と言う。
とても強くて優しい口調だった。東海林君は良い人だった。
聞いていい事の区別はできないけれど人を思いやれている。
心からその人の意思をそして自分の意思も大切にできている。
それが私にはすごく輝いてみえた。私にはできないことだったから。
次に口を開いたのは薊さんだった。
「私ね、毎日が嫌で嫌で仕方ないの。段々学校にも行けなくなった。
いじめられたとかそんな事一切なかったんだけどね」と言った。
東海林君は「そういう時期もある」と言った。
次に椿さんが言った。「あたしは皆が羨ましかった。友達がいて。
よく遊びに行ったり友達と話したりしていて」
蚊の鳴くような声だった。震えていて涙がにじんでいた。
きっと辛かったのだろう。たくさん傷ついてきたのだろう。
普通の人が聞けばじゃあ仲良くすればいいと思うだろうけれど。
椿さんはきっとそれができないから傷ついて学校にいけないのだ。
行かなかったら一生できないと分かっていながら。
それはきっと…とても苦しい事なのだろう。
夜さんは後ろで事の成り行きを見守っているようだった。
まるで親や先生のように。私は「よく今までたえた」という事しかできなかった。
それでも椿さんは「ありがとう」と言ってくれた。
次に風田川君がおどおどしながらも言った。「僕は何をする時も不安で人が怖かった。
だから…次第に学校も休むようになった。怖くて嫌でしかたなくて。
人を見るたびに悲鳴をあげそうになった。でも…今日ここに来れたのは-」と
何か言いかけたが黙り座った。最後に東海林君が口を開いた。
「俺はなんにもない」平然とした顔で言った。
皆が息を呑んだのがわかった。だが誰も何も追及しなかった。
夜さんはにこにこと笑ったまま「カードゲームでもする?」と言った。
皆まだ信じられないような顔をしていた。
だって…言い出したのは東海林君なのに。
彼は何もないと言った。ぎくしゃくしたままトランプを始めた。
夜さんがトランプをきって皆に配る。
皆、何もしゃべらない。当たり前の事だけれど。
まだ出会ったばかりだものね。その時、東海林君が「皆どうした?」と言う。
結構、東海林君が原因なのに気づいていない。天然なのかな。
ふと東海林君の言葉を思い出す。『茜さん俺は絶対味方だ』と言っていた。
嘘かもしれない。嘘に決まっている。だけど…信じていたかった。
出会ったばかりなのに…私は東海林君が噓を言うような人じゃないと思ってしまう。
彼の一つ一つの行動からそう感じた。聞かない方がいい事も聞く所とかから。
彼は人の事を心から思っている。味方でありたいと思っている。
だから、いつも相手の意見を尊重しながらも自分の意見を言っている。
それは…誰にでも出来るようなことではない。少なくとも私はできない。
いつも私はどっちかの意見を尊重してしまう。それでもきっと悪くないだろう。
だけど、私が憧れているのはそうじゃない。私が憧れているのは…。
どちらの意見も尊重できる東海林君みたいな人だった。
私はきっと次第に自分の大切な想いを忘れていた。
それを東海林君が思い出させてくれた。それはかけがえのない想いだった。
大切な理想だった。完全に思い出せたわけではないけど東海林君がいれば。
思い出せる気がする。私は「東海林君ありがとう」と言う。
彼は「ん?俺なんかしたっけ。あっ!悠月って呼んでよ」と言った。
一気に話が飛ぶ。まぁこれが悠月なのだから受け入れよう。
私は「わかった悠月。私も玲奈って呼んで」と言う。
すると悠月は人懐っこそうな笑みを向けて「当たり前だろ?」と言った。
私は悠月の事がもっと知りたくなった。彼を知りたいと思った。
でも…なんて言えばいいのだろう?どう声をかければ違和感がないのかな?
私はふとトランプの最中だった事を思い出す。
慌ててババ抜きの続きをする。皆で楽しく盛り上がる。
私はふと死んでもいいと思った。だってこんなにも幸せなのだもの。
彼らと一緒に居られないと想像するだけで苦しくなる。
気持ちが沈む。夜さんはどうして私達をここに連れて来たのかな?
幸せになれるなんて嘘だったのかな?
そんな事無い。だって今、私幸せだよ?彼らといれて幸せだよ!
夜さんが「あっ!」と大きな声を出した。
皆一斉に夜さんを見る。夜さんは「言い忘れていた事があるんだ」と言う。
夜さんは大きく息を吸ってからこう言った。
「二年たってここを出たらここでの記憶は消えるよ」
衝撃的な言葉だった。kieruそれは一瞬何を言っているのかすらわからなくなった。