02 ほどく
僕は大学生だ。日中は授業。合間にファミレスのバイトに入っている。それなりに忙しい日々を送っているのだが、兄はそんなことお構いなしで僕に命令してくる。
「瞬! 次の商売思いついた。協力しろ!」
「ええ……」
兄が用意したのは、何本ものイヤホンだった。
「イヤホンのコードが絡まって困ること、あるだろ?」
「まあ、うん」
「それをほどくサービスをするんだ」
兄の計画はこうだ。「イヤホンのコードほどきサービス」のホームページを開設する。イヤホンを郵送で回収し、コードをほどいて送り返す。至ってシンプル。
「ホームページの開設費と維持費だろ、広告費だろ、郵送費だろ、サービス料だろ……五千円くらいに設定するか」
「高くない?」
「利益出ねぇだろうが!」
そして、こう言うのだ。
「というわけで瞬、コードぐちゃぐちゃにしてくれ! ほどく練習するから!」
「はいはい……」
僕は片っ端からコードをひねったり縛ったりして兄に手渡していった。
「くっ……あっ……イライラするぅ!」
「頑張ってよ兄さん、自分から始めたことでしょ?」
兄のコードほどき術は日ごとに上達し、さほど時間をかけずともほどけるようになったのだが、問題は依頼である。
「なんでだ……今日も一件も来なかった……」
「やっぱりさー、五千円は高いよ五千円は」
「値下げしてみるか……三千円くらいでどうだ……」
一週間経ち、二週間経ち、三週間経ち、とうとう一ヶ月。それでも依頼は来なかった。
「なんでだよ! 俺、すっげーほどくの上手なのに!」
「まあ、ほら……需要がさ……」
「セミナーではニッチな需要に応えるのがいいって言ってたのに! あのクソ講師! 嘘ついたな!」
「ところでセミナー代っていくら払ったの?」
「三十万円」
「うわぁ!」
兄はバカだがここまでバカだとは思っていなかった。
「もういい、イヤホンからは撤退だ! ホームページも潰す!」
おそろしかったが念のため聞いてみた。
「ところでさ……このホームページ作るのいくらで依頼したの?」
「五十万円」
「うひぃ!」
兄は本当に大バカだった。
やめるのはいいが、困ったのが練習用に買った大量のイヤホンだ。僕はとりあえず実家に送りつけたのだが、父からは「使ってるのワイヤレスイヤホンだから」と返事がきた。結局、燃えないゴミと化したそうだ。




