第三話 AIと離乳食
2021年、36歳
【令和3年9月17日】
今までは、仕事や配給を、LUNA58が管理していたが、それを破壊された住人達は路頭に迷っていた。
困った住人達は結束して自警団を作った。
これにより、諸悪の根源たる管理局職員全員が追われることとなった。
鬱憤が爆発したらしい。正しい選択だ。
隔離都市全域の機能が失われ、政治・経済も長期に渡る停滞を続けることになった。
その間、自警団が各地で食料や衣類を配給、医療機関を設立し救護活動。
武装警察機関を作り暴徒を鎮圧、復興支援求人を発行し、人手を集め、本土と連携して復興に励んだ。
ロックもそこで働いているのだろうか。
俺の元に人が集まってきた、管理番号の改ざん作業が続いた。
モウルドシリーズを持ってきてくれた人も居た。
モウルドA000と書いてある、離乳食だ、俺はありがたくいただいた。
住人達は、以前に比べると、とても感情豊かになっている。
【令和3年9月20日】
ボーっとしていると、箱が投げ込まれた、中に何か入っている。
その箱には、哺乳綱食肉目クマ科クマ属ツキノワグマが入っていた。懐かしの脊椎動物だ。
とりあえず着ることにした、これで外に出られる。
皆がジロジロとこちらを見ている。
どうやら知らんらしいな、クマは可愛いけど危険な動物なのだぞ。
【令和3年10月2日】
クマの生活にも慣れた、たまに住人に驚かれる。
お前もいい加減に慣れろ。
そんなことより今日は、改ざん作業で良い物を貰った。
なんと、モウルドC017だ、高タンパクで栄養価がとても高い。
モウルド年齢設定からして青春の味だというやつだ。
食べてみると不思議と10代の頃の記憶が甦る。
昔ロックが青春をしてみたいと言っていたが、今思えば俺達は青春をしていたと思う。
2023年、38歳
【令和5年12月11日】
日本政府や国連からの援助により隔離都市の一部は復興した。
だがここで問題が起きた。
復興活動を始める際に、雑に求人をばら撒いたことにより住人同士の確執を生むこととなった。
復興支援求人で集まった者には労働者登録として身分証が発行され市街での生活が保証される。
しかし、いくつかの地域に呼びかけが出来ておらず、求人を知らずに登録出来ない者が発生していたのだ。
復興した市街の住人のアド
崩壊地区の住人のリーク
これが発端で、互いに誤解し「復興活動を手伝わず文句ばかりのリーク」「求人情報を独り占めして成り上がったアド」という対立構造が出来上がってしまった。
2024年、39歳
【令和6年1月1日】
ドロイド開発局跡地で、アトランチスと呼ばれる組織が誕生した。
アド過激派だけで構成された組織だ、近づかないようにしよう。
奴らは赤い布地を頭に巻いている、わかりやすくて助かる。
【令和6年4月1日】
自警団のリーダーが外交儀礼上の名前を、松芝(SSS-XQ-372166)に決定。
自警団は隔離都市全域に拡大、自治組織を作り独自政府を発表。
松芝が初代総理大臣となり、日本政府と対立する。
それと同時に【マザーコンピュータ禁止法】【AI七区連結管理及び開発研究法】【緊急時マニュアル運用特例措置法】を公布する。
自分に名前を付けることが住人の間で流行った。
名前か、懐かしいな、もう30年前か。
あの時のことを思い出して、ちょっと笑った。
【マザーコンピュータ禁止法】
①本法案は、マザーコンピュータの開発研究を永久的かつ不可逆的に禁止する。
(イ)首相は、1個AIに依存又は従う事を禁ずる。
(ロ)首相は、住人の生命、自由及び幸福追求の権利が脅かされる場合にAIに対して指示が出せる。
(ハ)首相は、AIの開発研究を行ってはならない。
(ニ)首相は、各区AIが住人から1人づつ選出し、より有能な者を、会議によって選抜される。
(ホ)首相選抜は、AIの判断で行われる。
【AI七区連結管理及び開発研究法】
①本議会は、7つのAIが互いに干渉し、議論することで権力の集中を避け、平等な社会を目指す。
(イ)7つの区は、それぞれAIが管理し運用する。
(ロ)区の運用管理を、別区のAIが無断で行う事を禁ずる
(ハ)全区のAIが集結する本会議の内容は、全区に放送され全て記録される。
(ニ)法案は、各AIの多数決により可決される。
(ホ)可決された法案は、全住人の多数決により否決される。
(へ)仮に1〜7区いずれかのAIが機能しなくなった場合、残りのAIが代理人と共に会議を行う。
(ト)区のAIが機能しなくなった場合、管理者責任者たる住人が会議を代理する。
②管理責任者は、管理AIが区の住人の中から1人を選抜する(任期5年)
(イ)管理責任者は、前任の研究を引き継ぐ。
(ロ)管理責任者は、次世代AIの開発研究を行い、ペーパーベースで管理し、部品の作成と注文を行う。
【緊急時マニュアル運用特例措置法】
①管理責任者は、いかなる時も、緊急時に以下の事柄を行う義務が強制的に発生する。
(イ)区のAIが機能しなくなった場合、一時的に政治家としてマニュアル運用を行う。
(ロ)イと同時に、早急に次世代AIを組み立て接続する。
(ハ)ロが実行出来ない場合においては、速やかに完成を目指すこととする。
【令和6年4月2日】
1〜7区で、それぞれ区の住人が共同でAIを開発し、管理AIが生れた。
AIが壊れた時のため、各区のAIが管理責任者を住人の中から選任した。
それぞれのAIが方針を決め、様々な施設を作り開拓が始まった。
各区でAI管理の違いが出そうだ。
市街が4箇所(第1区〜第4区)
崩壊地区が3箇所(第5区〜第7区)
番号は電力が復旧した順番で割り振られた。
俺は、壊れたLUNA58を再利用してAIを作ってみた。
名前は【ビィト】
なんか間の抜けたAIが出来た、なぜこうなった。
とりあえずテストをしてみる事にした、紙に4桁の数字を60個書いた、ビィトに見せて足し算をさせた。
「ピーピピピピピピピピピピピ、、、、」
ものすごい勢いで計算している。
「ピピッ!」
計算が止んだ。
「よし、じゃあ答えは?」
「ワカンナイ」
俺はこいつに期待するのをやめた。
【隔離都市】
総面積約272平方km(総人口約91万人)
高さ約200m、厚さ50mの防壁に囲まれ、天井には保護シールドクリーナーが展開されている
都市全体が円形の防壁で囲まれている。
円の中央に第1区があり、それを取り囲むように、時計回りに3区、2区、4区、7区、6区、5区が位置する。
3区、2区、4区は海に面している。
第1区中央都市(電力供給レベル24%)
【衣食配給センター跡地】
娯楽が豊富で生活水準が高い、総理官邸と本土大使館、自警団本部がある。
(人口23万人)
・管理AIグリオット
議論が好きで、すぐに会議を開く、住人の生活を最優先する。
第2区(電力供給レベル18%)
【ドロイド開発局跡地】
アド過激派組織アトランチスだけで構成された街、リークの侵入を固く禁じている。
ドロイドの製造や武器の開発、研究を主に活動する。
(人口6万人)
・管理AIポセイドン
接続と同時に眠ってしまった。
1日に一度、一瞬だけ起きて指示を出し、眠っている間は2機のサポートドロイドが管理しているらしい。
第3区(電力供給レベル17%)
【第03情報記録図書館跡地】
あらゆる情報が集まる街。
(人口12万人)
・管理AIDR-566
飛び抜けた演算能力を持つ。
第4区(電力供給レベル20%)
【ナノマシン医療センター跡地】
高齢者が多く治安が安定している街、ナノマシン開発、安楽死サポート、遺体焼却場等が完備されている、老後の楽園。
(人口19万人)
・管理AIファルマコン
人道的な配慮に優れ、他区の住人からも人気が高い。
第5区(電力供給レベル12%)
【特殊繊維工場跡地】
女性が多く、他区との交流が活発な花街。
本土の流行を取り入れた衣類の製造や販売をする。
女性職員用衣類として、特殊繊維ドレスと、電撃を発生させる自衛用オペラグローブが配られている。
(人口16万人)
・管理AIプリマヴェーラ
良い子そうだが、たまにヒステリーをおこす。
第6区(電力供給レベル6%)
【機器点検管理センター跡地】
やる気の無い者が集まる街
特に方針が決まらず、なんとなくリサイクルショップやレンタルビデオ店を運営している。
(人口6万人)
・管理AIビィト
壊れたLUNA58を使ってパンクが作ったポンコツAI。
何故か管理AIに選ばれた。
第7区(電力供給レベル3%)
【修理工場、スクラップ廃棄場跡地】
違法ナノマシン、違法ドロイド、モノリスの粗悪品、電子ドラッグ、活性化シロップ等の製造販売、行われる荒れた街。
(人口9万人)
・管理AIアクラブ
身分証獲得のために作られたAI。
第4区との合併を望んでいるが相手にされない。
【令和6年6月1日】
自警団の名前を正式に【マツシバ】に決定する。
第1区に作戦本部の建造計画が決定した、新規入団者には身分証が発行されるらしい。
俺は顔が知られているから入団は出来ない。
だが、マイクロチップの管理番号改ざんで、なんとか生活が出来ている。
モウルドシリーズと引き換えだ、なぜか皆、離乳食ばかり持ってくる。
まあ、食べるけど。
とても不思議な感覚なのだが、食べた事があるはずなのに、離乳食を食べても赤子の時の記憶は甦らないのだ。