第二話 フリーダム災害
2021年、36歳
【令和3年9月2日】
食事の時間、モウルドB036を摂取する。
ロックが話しかけてきた。
「知っているか、エーテル能力ってヤツをッ」
「知っている。エーテルリアクター縮退炉は児童学習の基礎だ、点検したこともある」
「そうじゃないッ。エーテル能力は個人的な能力で、訓練次第で誰でも扱えるものらしいッ」
「何だそれは」
ロックの説明はこうだ。
エーテル能力:脳内から発せられるエーテルを操り、ナノマシンに送り込むことで、体内のナノマシンを変質させる能力、変質運動により抽出できる物質が存在する。
【ナノマシン変質による効果】
①身体の任意の場所を硬質化する。
②自身のエーテルが、別個体のナノマシンに干渉し、相手の感情や存在を感知する。
・変質運動によりダークマターを抽出し、極小な縮退炉を形成して特殊な現象を引き起こす。
③重力を操る
④エネルギーを発生させる
⑤次元跳躍を可能にする。
「つまり、脳みそがエーテルリアクター同様、エーテル粒子を放ち、ナノマシンがgcp粒子素材の役割を果たすことで、体内でエーテルリアクター縮退炉を形成するってことか?」
「その通りだッ、さすがだなッ」
「エーテルなんか出したことないぞ」
「出せるんだなこれがッ」
ロックの額から、青白く淡い光が発せられた。
「ほらなッ?」
俺は、未知との遭遇に高揚した。
【エーテルリアクター縮退炉】
隔離都市の主電力のブラックホールエンジン。
リアクター内でエーテル粒子を増幅させ、gcp粒子素材と結合させることで変質運動を繰り返し、ダークマターを抽出。
ダークマターを励起状態にすることで極小ブラックホールを形成させる。
ホーキング放射によって質量をエネルギーに変換しながら蒸発しており、ブラックホールの質量が小さければ小さいほど、蒸発速度=エネルギーの放出速度は大きくなる。
重力を操り、空間をねじ曲げるとこで次元跳躍を可能にする。
【エーテル】
異星人の核から発せられる光の粒子。
【gcp粒子素材】
エーテル粒子と結合することで、引力、反発力、安定を一定のリズムで循環して繰り返す素材。
【令和3年9月3日】
今日から点検場所が変わる、初めて来る場所だ。
なんのために犯罪者を冷凍保存しているのだろうか。
とりあえず、管理番号NP3228コールドスリープマシンの点検を開始した。
背後から誰かがぶつかってきた。
俺は盛大に転んだ。
誤作動が起こったのか解凍フェーズが始まる、振り向くと、もうそこには誰も居ない。
200年前の犯罪者NP3228と接触、色々と聞かれたので現状を説明すると、NP3228は激怒して走り去って行った。
どうしたものか。
とりあえず連絡して、LUNA58の指示を仰ごう。
すると、管理センターが激しく揺れだした。
とりあえず落ち着いて、LUNA58の指示を仰ごう。
壁が崩れてきた、LUNA58の指示は、まだ来ない。
【令和3年9月5日】
管理センターが爆破、LUNA58も破壊され街は火の海に。
住人はLUNA58からの指示を待ち続け、逃げることはなかった。
そのため負傷者12052名、死者583名という被害が出た。
破壊された管理センターの壁に『お前達は自由だ』と書かれた謎のメッセージが発見される。
俺は逃げる選択をしなかったが、何とか生き延びた。
このままではマズイので、瓦礫の奥に入り、隠れられる場所を探し、そこで身を潜めた。
当たり前だが、食事の時間になっても配給はない。
モウルドB036の噛み応えを想像して過ごす。
とりあえず水道の破損箇所でも探すか。
【令和3年9月12日】
NP3228による7日間にも及ぶ破壊行為が続き、隔離都市は壊滅。
NP3228は姿を消した。
この大事件はフリーダム災害と呼ばれた。
腹が減って倒れそうというのは初めての感覚だ、水がこんなにも重宝するものとは思いも寄らなかった。
【令和3年9月15日】
皆が犯人探しをしだした。
原因が自分だとバレればただでは済まない。
とりあえず身を隠す、食料と工具を手に入れた。
マイクロチップを取り出そう、管理番号を書き換えて、、、書き換えるにしてもデバイスが無い、困ったことになった。
ライトに照らされた、バレた、終わった。
「、、パンクかッ?」
ロックだった、よかった、とりあえず軽く殴った。
誰かと一緒に居る、図書館の同僚のようだ。
「デバイスを持ってきたぞッ、未登録のマイクロチップも見つけたんだ、これで何とかしようッ」
「こんな大量のマイクロチップを見たのは初めてだ、これで他の局員の分も賄える」
「他のヤツなんかほっとけ、まずは自分の事だけ考えろッ」
「たしかに、自分が助かった時に考えよう」
俺達は互いに、後頸部にあるマイクロチップをカッターで取り出した、激痛が走ったったが、傷は直ぐ完治した。
まず自分の管理番号を確認し、SSRをSSSに変えて未登録マイクロチップにデータを移した。
次はインジェクターを使ってマイクロチップを後頸部に挿入した。
俺達は管理番号を改ざんした。
ロックの同僚は、お礼を言って何処かへ消えて行った。
ロックが酒を何処からか調達して来た、困ったやつだ。
2人で乾杯をして、昔話などを語り合った。
久しぶりに笑った、俺の不安は消し飛んだ。
(開発局、図書館、管理局の職員は管理番号がSSRから始まる、他の隔離都市住人はSSSから始まる)
【令和3年9月16日】
管理番号の心配は無くなったが、心配は他にもある、管理局員の顔は知られている。
俺は身を隠しながら、この大量のマイクロチップを改ざんして他の職員にばら撒く事にした。
「俺は、この現状を打開すべく仲間を集めるッ」
まったくこいつの行動力には驚かされる。
「落ち着いたらまた会おう兄弟ッ」
そう言ってロックは腕をクロスさせ、姿を消した。
俺は少しだけ、兄弟を誇らしく思った。