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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

短編ホラー

プール

作者: 壱原 一

例のプールに行ってきました。


最寄りのインターチェンジからナビを頼りに車で実に3時間。


さながら樹木のトンネルの如き山裾の道を経て、落石やら鹿やらへの注意喚起の標識が目立つノーガードレールの崖道を上ります。


徐々に不安が募る頃、折り重なる木立の合間にすっと現れる外観は、非日常感を伴ったモダンな隠れ家的ラグジュアリーリゾートホテルの風格を漂わせています。


近付くに連れ、広大な駐車場のアスファルトがひび割れていたり、建物が経年の風雨に薄汚れていたりする様子が見て取れます。


停まっている車も疎らな上、貧相な物ばかりで、情報通り、すっかり廃れているようでした。


がらんとしたロビーでビジター受付を済ませ、東館の最奥にあるプールエリアへ向かいます。


無人の大更衣室で所定のロッカーと壁の隙間を覗くと、本当に作業服の方が挟まっていて、「見学です」と伝えたら青いキープレート付きの鍵を頂けました。


窮屈そうな面持ちの作業服の方の視線が示すまま、斜向かいの壁に位置する「関係者以外立入禁止」と記されたスチールドアを開錠します。


開けた途端、耳が詰まった風になるくらい低く籠もった大音響に包まれ、ほんの爪先で落ち込んだ半地下の真っ暗な空間に、止め処なく疾駆する凄まじい水量の流れと出会えました。


背後から差し込む更衣室の蛍光灯の光が、極ぼんやりと対岸の壁を照らしています。水面は忙しなく揺らめきながらも滑らかで、まるで撒き餌を求めて入り乱れ合う鰻の体表を眺めている具合です。


これが彼の有名な「しずやりがわ」。かつて飢えや病に困窮した当地の方々が、心身の特性から集団の維持繁栄に寄与し難い方々を、雛流しの流し雛よろしく厄を抱え流し去ってくれる有難い存在として送り出す際に用いたとされる暗渠かと、我知らず胸が震えます。


件の配信では、工業用の超高輝度LEDで水中を照射し、機材では捉えられなかったものの、その場の皆さんは肉眼で川底にて水流に揉まれる藻のようにへばり故郷を離れじと靡く有難い方々を視認したとのこと。


その後ひき込まれてアカウントが消えて終ったのは本当に残念ですが、こうして現場を訪ね、手を合わせられて、一ファンとして嬉しく思いました。


当地にルーツを持つ創業者一族の関係者の方にお話を伺ったところ、作業服の方は以前このホテルにお勤めで半端に有難くなったお身内だとか。


水は槽に貯めて薬品消毒し、プールに活用されているそうです。



終.

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