そいつは贅沢な悩みだ
つまり、君はモテてモテて仕方ない困っちゃう、と僕に自慢しに来たんだ?
どうしてそういう結論って、釣り書きで来る女性は皆、同じようで困るっていうんだろ。それも20人もいて、誰もいらないとか贅沢も過ぎる。話に出てきたのは選りすぐり美女と美少女、冴えないと言われても家名か血か資産が素晴らしい。
贅沢以外の何が?
決められないなら僕がくじ引きを作ってあげよう。神のお導きは大事だ。
深刻に話は聞いているよ。
同じように見えるってのはおっさんになったってことだよ。若い子みんな同じってうちの父さん嘆いてたし。流行りの服の差異見つけるの無理、髪型も同じようにしないでと。
君は僕より3歳年上だけど、若くしておっさんの心を手にいれたんだね。
からかってないって。老化じゃなければ興味ないんだよ。君が好きな銃も僕にとってはサイズ違い以外のなにがあるってんだ? という話じゃないか。
あ、口径とか種類とか興味ないんで。君がそういうのまくし立てるところにこにこ聞いてくれる女の子探したら? ほら、お見合いで猟銃の話。狩猟大会の血なまぐさいとこ見せてあげなよ。一人や二人くらい残ってくれるって。
僕? ドン引きだね。可愛いウサギをひき肉にしちゃった話なんか一週間はお肉食べれなくなったよ。繊細なんだよね。
あ、君が興味もてないのを解消することはできるよ。
狩猟系女子を育成しよう!
ほら、それで嫌そうな顔するから君の心は狭いんだよ。女性はそういうことはしないっていう発想。それが君が言うつまんない女性を量産してる。面白い女は養殖しないと生まれない。天然ものを狙おうなんて水底の宝石より見つからない。
普通にそういう子に会いたいならこの国での女性の立ち位置から考え直さないと。
遥か昔の貧しい時代を経てこの国は成長してきた。その成長の過程で生じた善意は肥大して今となっては問題になっているってことだよ。
昔は豊かさの象徴として、働かない女性がいたんだよ。家事労働も仕事もさせず、好きなことだけさせてあげる財力がうちにはありますよ! と。すっごいでしょ、という自慢だったんだよ。貴族の女性はそれのせいで働けない。資産家でもその傾向はあるね。働かせるなら卑しいと。そういうくせにごく潰しみたいな言い方する人もいるんだよねぇ。謙遜のつもりかもしれないけど、嫌な言い方だよ。
庶民となると遊んでいるわけにもいかないから働くけど、君はそういう階級の子と結婚はしないよね。結構面白い子いると思うけど、貴族じゃないからと足切りしている。
損してると思うよ?
まあ、ともかく、そういう家で大人しくしている女性が気に入らんというのならば、この常識を覆すことから始めないと。僕みたいなのが時々いるけど、時々だから許されるのであって全体がとなるとすっごい抵抗あると思う。
女性から? いやいや、男性側だよ。あっち側が頭が固い。
僕だって学問は女なんかにはいらないと門前払い。学院に入ったんだって色々手回しして、男装、女だとバレたら即修道院というひどい条件だったんだ。
その節は助かったけどね。
君と結婚したいというのもね、君の顔とか性格は考慮されているだろうけど、一生穏当な生活ができるかというところはかなり加味されている。
一生とは大げさというけどね。
女性は一人で働いて一人で暮らしていくことはできないんだ。特にこの国の貴族は。なにもさせないのがステータスだから生まれてからは親の嫁いでからは夫の、夫が亡くなれば息子の庇護下にいるしかない。楽でいい? そのあたりは人によるかな。庇護者が許せばいろいろできるけど、許さなければなにもできない。さらに望んでないことも強要できる。
極端な話、君みたいに結婚相手をえり好みできないってことかな。倍以上年上の後妻とかあるし。しかもいびる姑付きとかね。怖い怖い。
釣り書きの相手も望んでいるってわけでもないかもしれないよ。送り付けてくるのは親だし。
どうすれば、って。とりあえず断ったら? 気乗りしないんでしょ? 気になる相手が見つかるまで独身。
あ、僕? 嫉妬するかと思った。
あははは。
可愛いこと言うね。
断るよ。自分のこれまでを捨ててまで添い遂げる気はない。
君は君のかわいい人を見つけなよ。
それともやっぱりくじ作る?
茶化してもいないって。
僕が学びたいと言ったとき、父に言われたんだって。それ以外のものは捨てよと。それくらいしないと学べないってね。
学者になりたいくらい知りたいなら大学まで行かないとね。あそこ男しか入学資格がない。だから僕も本名じゃ卒業できてないよ。女の入学は今もゼロ。
ほら、学園は男女入れるけど、選択できる教科は違う。え、知らなかった? 由々しき問題だな。まあ、そっちじゃ知りたいことも知れなかったから詐称して潜り込んだってわけ。
それも知らなかった? わざわざ言うことでもなかったからね。家の事情は家の事情でしょ。
というわけで、誰かに嫁ぐというのは女に戻れということで、これまで積み上げてきたものを捨てろということだ。
両立ねぇ。
めんどくさい。
このめんどくさいには、世の色々なしがらみやら苦言やら善意の嫌味やらを聞くのが気が滅入るし時間がもったいないが含まれます。
総合的に、君と結婚する意味はない。愛人とか論外な? というわけで、贅沢な悩みを抱えて帰りたまえ。
結婚式には出てやるよ。
あ、ドア乱暴に閉めてくな。
……おぼえてろよって。悪役かよ。
その10年後、世論と常識をちょっと変えてきたから結婚してくれと言われるとは思わなかったのである。
絆されるか、もうちょっと頑張れと追い返されるかは不明である。