午前のお茶
「ご説明いただきありがとうございます。おかげで全体像がつかめました。」
ユキの話が途切れたタイミングを見計らって、俺は素直に感想を口にする。
「それはよかったです。一気に話してしまったので、また分からなくなったら聞いてください。」
集中して話して疲れたのか、ユキは大きく息を吐くと、
「ちょと一休みしましょうか。」
お茶をお持ちしますね、と言いおいて部屋から出ていった。
一人になったのを幸いと俺も立って大きく伸びをする。
実際、初日にこれだけまとまった話が聞けることが普通だとは思えない。
(少なくとも出だしは順調か…)
せっかく立ったので肩と腰も回し、ついでに先ほどから気になっていたものをじっくりと見ることにした。
俺の席の真ん前、ユキの席の後方の棚に鎮座しているそれは、高さ20cmほどの塗り置物で、工房キノヤの名前と王家のシンボルマークが描かれている。
正面から確認しようとしゃがみこんだ時、狙ったかのようにドアが開いた。
「お待たせしました。」
「ありがとうございます。」
俺は急いで立ち上がり、座っていた席に戻った。
ちょっとだけバツが悪いが、ユキがそんな俺の様子を気にした気配はない。
「うちの職員も、ちょうど午前のお茶の時間だったので、同じもので申し訳ないですが。」
そう言って、木製のカップを二つ置いた。
「いただきます。」
自分の席に置かれたカップを手に取る。
市井のものよりも心なしか色が淡く、木目が美しい。取手のないコロンとした形は、とてもよく見かけるごく一般的なデザインである。
お茶は赤く澄んでいて、酸味が強い。酸味の奥にほのかな甘さ、そして花のような香りがする。