異世界転生
最後に思ったのは
「別の死に方がよかったな…」
だった。
あと分かったのは、走馬燈がみえるとか、光を感じるとか、身体が浮くような感じがするとか言うのは全部嘘だってこと。
手足が重く沈んで、自我が闇に呑まれていくのは、今までに体験したことのない感覚だった。
ああ、俺は死ぬんだな、という圧倒的な確信があった。
だから、再び目が覚めた時、そしてそれが清潔な、いわゆる病院の個室のベッドの上だった時、正直がっかりしたのだ。
死にたいと思っていたわけではないが、生き返りたいというニーズもない。あの圧倒的な確信を違えたという事実が口惜しかった。
ベッドに横たわったまま周囲を伺う。
静かだ。
ゆっくりと右手を握り込んでみる。普通に動くことを確認して、左手、右足、左足と同じ動きをしてみる。痛みはないし違和感もない。
少し考えて、上体を起こしてみることにした。
正面に白い壁があった。ここまでは想定内。
想定外だったのは、壁にプロジェクターで投影された文字が浮かんでいたことか。どこかで見たような言葉がならんでいる。
>ハイダツへようこそ
>どちらで始めますか?
> ◻︎ニューゲーム
> ◻︎つよくてニューゲーム
「つよくてニューゲームか…」
選んだというよりは、目についた文字を思わず読んでしまっただけなのだが、それが選択肢を選んだことになってしまったらしい。
投影された光が一瞬強くなり、映像が切り替わる。
どうやらこのシステムは音声入力で、一度答えてしまうと再確認されることはなく、戻ることもできないようだ。
とても現実味がない。
一連の流れも画像もゲームのスタート画面そのものなので、俺は深く考えずに質問に答えることにした。
好きな色、苦手な食べ物、住んでいた場所…、細かい質問に嫌気がさしてきた頃、映像はそれまでとは違う挙動をみせた。
ロード画面を示すかのように、虹色のドーナツがぐるぐると回る。
>行ってらっしゃいませ。
そんなメッセージに切り替わったかと思うや否や、それまでとは異なる強烈な光に飲み込まれた。