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文芸部のお話 1話目

作者: 雄太

 

 少し茶色がかったショートボブの桜崎菫(さくらざき すみれ)は月に一度の定期監査のために文芸部に見回りにやって来ていた生徒会から生徒会特別監査役と言う謎の肩書きを与えられたと本人は言い張っている。と言っても通常時から経理担当として日々各部長達と火花を撒き散らしているのだが。


「いつから、この部室はラノベ部屋に成り果てのかな?ここは確か文芸部だったと思うんだけど……ね、部長さん」


 そう冷たい微笑みで問いかけられたこの文芸部の部長篠田剛(しのだ つよし)は立ち上がり、部長に就任したからと部費を大盤振る舞いし新調した本屋御用達の黒色のアルミ棚の一つを見つめる。

 その棚には各種出版社から発売されたラノベが周りを侵食するように日々増えている。

 青に黄、緑、赤、各種ラノベが所狭し自分のカラーを出張している。流石に漫画は部費では落とせなかったのかここにはないが過去にこの部にいた誰か自主制作した50ページほどの本が10冊程度、端っこの方に申し訳なさそうに置かれていた。


「別に私も本読むから全部捨てろなんて酷いことわ言わないわ、でもラノベって文芸部の管轄なのかしらね」


「………本、という意味では是と答えるのか正解と考えます」


 たっぷりと時間をかけて出て来た言い訳は幼稚なものであった。問い詰められた相手が桜崎ではなければもう少しまともな回答が出たかもしれないが桜崎に淡い感情を抱いている部長では多々打ちできない。


 そもそもの話この文芸部の活動時間は決まっていない。

 一応、午後の授業が終わって5時までの2時間程度と生徒会に提出しているが部活に来るも来ないも各自の自由、いつ帰るさえ各々の判断である。



「ねぇ、このまま行くと四階の全フロアが文芸部だけで埋まるかも知らないよ」


 忠告も兼ねてなのか桜崎は言った。別に生徒会としてワンフロア文芸部になっても問題はないとの見解が出ている。この5階建ての部活棟はいろんな部活の部室として使われているが全部活中で最大勢力の部員数を誇る文芸部は4階の5教室を文芸部として使っている。部員は今現在200人近くが在籍していると言われているが全員が集まることはない。篠田部長でさえ全員の顔を覚えられないと言って諦めている。


「それにこの文芸部ってほんと何やってるの?そこで卓球やってるし、あっちはには望遠鏡が置いてあるし、もう文芸部じゃないじゃん」


 桜崎の言う通りこの部室は文芸部とは似ても似つかないほど多種多様な部活用具が揃っている。

 この学校の文芸部の他の学校と比べると範囲はかなり広い。

 簡単に言うと部員が集まらないような細々とした部活を全て統一して元からあった文芸部にくっつけて、活動している。


 そして多くの部員は部活はしたいけど別に優勝やら県大会を目指すほどやりたくない層である。


 陸上部には入りたくないけど運動はしたい派

 野球部ではなく野球同好会として数人でたまにキャッチボールしている奴ら、

 卓球部から一式借りて来て温泉卓球を楽しんでいる層に凧揚げにかるた、クイズ研究会、落研に流れ星観測会、山岳部と呼ばれる一派、鉄道同好会、写真同好会、料理研究会。音フェス、推し活。


 などなど文芸部は人数集まらなくて部活にできないだけど部費は欲しい奴らが集まった共同生命体である。


「それは過去の生徒会が部活整理とか言う名目で部活の大掃除したせいだろ。多くなり過ぎた部活という名の同好会を一掃し部活動のスリム化を図った結果、その当時ちゃんと文芸部をやっていた文芸部は生徒会に脅迫……じゃないな説得され人数不足で廃部になりかけの部活を統合させられた。と俺の先輩は言ってた」


 それが今では文芸部自体が同好会化し多種多様な部活動が入り混じったカオスとなってしまった。一応文芸部部長としてこの部活をまとめているのが文芸部最大勢力の書籍一派の篠田と言うわけである。部費は活動人数によって均等に分けていることもあり文句は出ていないが、この文芸部だけで20ほどの同好会が所属していると思われる。


「別にそれは間違ってないけど……でもさ、この文芸部に何個同好会が存在するの?」

「ん?30近くあるんじゃないか?部員1人のも含めたら50近くなのかな?」


 部長自身正確な数の把握などしてないようだ。したら後々面倒なとこになるのは目に見えている。厄介事はみんな嫌いなのだ。


「わかった。」

「わかってくれるか!」

「生徒会特別監査役の権限で文芸部の全同好会の把握を命じる。それと活動実績の提出もしてね」


「え?」


「あんた部長でしょ、なら自分の部活ぐらい把握しなさい。」

「はい、……」


 この部長に反論できる余地など残されていなかった。


「私も手伝うからね。」

「なんで?」

「1人じゃ可哀想でしょ」

 ボソボソとか擦れるように呟く桜崎の頬は少し赤くなる。

「あぁ、頼む。正直言って俺1人じゃ無理だ。」


 篠田の真面目さが桜崎の本心を遮る。

 この2人双方気づいていないが相思相愛みたいな物である。

 そもそも特別監査役なんていう肩書きなど生徒会に存在しない。桜崎が篠田に近づくためだけに生徒会を利用し適当な理由をつけて経理担当として確認に入ると言っただけである。


 別にそこまでしなくてもいいような気もしないようなするようなだが、篠田を落とすためには何か理由をつけ、既成事実を作るべきと少女漫画に描かれていたことを今実践してる。


 そして篠田部長もこのチャンスを活かすために桜崎を自分の右腕に引き込むつもりであった。桜崎と同じように人員不足だとか言って引き込み一緒にいる時間を増やし、小説にあった恋愛法を実行する算段であった。


 多少手法自体は変わったが双方ともに計画の第一段階はクリアした。


「じゃ、明日から頼める?」

「い、良いわよ、」


 初々しい相思相愛は複雑な形で成立を果たした。本人達は気づいていないが。


「部長、私の前でいちゃつかないでください。目障りです。そういうことは体育館裏とかにしてください。それか早朝のの教室とかで」


 目の前でイチャつかれるのを見せつけられ不満が溜まったのか2人のすれ違う感情を無理やり押し付けたのは名目上の副部長サラ・マクラナハンであった。机の高さがあってないのかそれともただ単に眠いだけなのか、寝ている犬のように机にベターとなっている。睡眠を邪魔され不機嫌になったサラは起き上がり2人を睨む、その拍子に腰ほどまでに伸びた金髪がゆさっと揺れるとほのかに柑橘系の爽やかな香りが鼻腔を刺激する。


「ベタだな」

「今は夕陽が見える海が良いわよ」


(妙に拗らせるわね、この2人。)


 と諦めたような呟きが聴こえたような気がしたが2人は無視した。


「じゃあ、また明日〜」


 桜崎は胸の前で静かに手を振り、先ほど入って来たドアから出ていく。篠田本人気づいていないがその表情はとろけるきってだらだらしている。


「よし!」


 出て行ったのを確認した篠田は今世紀1番のガッツポーズを見せ、頭が冷えたのかふと顔を上げるとサラの引き攣った笑顔が視界に入り、


「……こ、これで仕事が楽になった」

「まるで私が仕事できてないように聴こえますね」


サラの腰ほどまで伸びる金髪が夕陽に照らされ、黄金色に反射する。


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