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第六十二話 森の民の里の危機 お土産は神の奇跡

ゴブリン退治を無傷で無事に終え、流石の実力を披露して下さったミリアさんたちと、ゴブリン実験で大怪我を負い、常識のなさが暴露された僕は不機嫌な大天使が待つ村へと帰還の途についた。


帰りも基本的なフォーメーションは変わらず、だけどもう索敵にそこまで神経を裂かなくても良いだろうということで行きには別行動だったハンナさん、ビンスさんも一緒にいる。


「ビンスさんもこれからは僕のアレ、受けられますか? 少しですけど体力とか魔力とか増えますよ」


女性陣はお肌や髪のメンテナンス&上乗せのためにちょくちょく触れていたけど、ビンスさんはそういうのは必要無いからって受けてなかったもんね。僕も無理強いするつもりは無かったけど、皆さんが体力等も増えていることに気付いていなかったのなら話は変わる。ビンスさんだってあるに越したことは無いはずだ。


「お気遣いありがとうございます、ナオ様。そのお心だけで充分でございます。私はエルフとしてもう老木に手が届くほど年輪を重ねて参りました。今以上の力を得ても、何を成すこともありますまい」


そう言って穏やかに微笑むビンスさん。見た目は20代前半にも見えるほど若々しいけど実年齢は800歳を越えているというビンスさん。エルフの寿命は約1000年、もう半ば引退状態となっており、今は王都で後進の育成に努めているのだそうだ。


「それに私のような男を触ってもナオ様は楽しくもありますまいし」


そう言ってからかうように笑うビンスさん。くっ、事実過ぎて反論できない。

男性だから、と言う理由で断ったりはしませんよというだけで、どうせなら女の子の方が良いに決まってるじゃないか!


「そういえば、常識を学ばせるってロロがさっき言ってたけどよ」


前を歩くシトリィさんが振り向きながら話しかけてきた。


「魔力の量も増えますよ、ってナオは簡単にいうけど、魔力量ってのは大体生まれつきのもんで後から増えるとかありえねぇからな」


「え? そうなんですか?」


「そうなんだよ! そりゃ、子供から大人になるうちには増えるけど、大人になって上限が定まってから増えるなんてことは聞いたことねぇ。身長と同じだ。これも常識だからな、余所では絶対言うなよ。変な目で見られるくらいならともかく馬鹿な奴等を呼び寄せかねねぇぞ」


「はい、わかりました。気をつけます」


あんなことをしでかした後なのに、僕のことを心配して下さっている。ありがたいなぁ。

それにしても、魔力量は身長と同じ、って巧い表現だな。この世界ではよくある言い回しなのかな?


身長かぁ。僕ももうちょっと欲しかったな。前世なら成長期はまだ終わってないって希望があったけど、今となってはもうこれ以上変化しないんだろうな。


「…… ナオ、まさかハンナの胸みたいに身長まで自由に変更出来るとか言い出さないよな?」


僕が自分の身長について諦めを抱いているとシトリィさんが恐る恐るといった感じで質問してきた。


ふーむ…… 骨延長? ホルモン注入? いっそ長い足を持ってきて繋ぎなおす?

どれもこれも真っ当な手段とは言えない感じ。これじゃまたドン引きされてしまうな。これ以上引かれてはたまらない。


「…… いえ、身長はちょっと難しそうですね。簡単にできるならまず僕自身の身長を伸ばしたいところです」


「『難しい』けど出来ないとは言ってないのが怖いとこにゃ。けど、一応配慮はしたっぽいから合格にしてやるにゃ」


鋭い読みを発揮するのは止めて下さい。でも一応とはいえ合格したぞ! やったね!


「そういえば今まで聞いたことなかったけどよ、エルフの男の身長ってどのくらいがモテるんだ? ビンスは男前な方なのか?」


シトリィさんが思いついたようにハンナさんに問いかける。

そっか、この世界のエルフは男性が身長、女性が胸の大きさが美醜の判断の大きなファクターになるんだっけ。お胸については生意気おっぱいが至高らしく、大きすぎるとブサ〇ク扱いされてしまうしあまり小さすぎてもよろしくないらしいけど、身長はなにか基準があるのかな? ビンスさんは人間目線ではかなりの美男子だけど。


「ビンス様の身長はエルフで言えば、平均的、と言ったところでしょうか。一般的にはもう少し小柄なほうがエルフ受けは良いかと」


「ははは。ハンナ嬢、気を遣って頂いてかたじけない。シトリィ嬢、私は男前などといって頂くには少々背が高過ぎましてな。エルフで美男子といえば、シトリィ嬢よりも少し小さいくらいの背丈が好まれるのですよ」


ビンスさんは恐らくだけど180センチは越えている。対してシトリィさんは160センチには届かないくらいだろうか。女性なら普通だけど男性だったらちょっと低いくらいかな? 現時点で成長が止まることが確定している僕が言うことではないけれども。


「エルフは男女ともに男性とも女性とも取れるような中性的な方が美しいとされる傾向があるんです。その意味で言えば、恐れ多いことではありますがナオ様はとても美男子(ハンサム)というか、お可愛らしいというか。 …… 素敵でございます」


大朗報 僕 エルフ基準で美男子だった。


え、ハンナさんのお世辞の可能性もあるけど、ハンナさんが僕に嘘はつかないよね? あんなに恥ずかしそうにテレテレしながら言わないよね? 僕、本気にとっちゃうよ!? エルフの里に行く用事が出来ました!!


…… 駄目だ、土下座が並んでいる風景しか思い浮かばない。





「お、あったあった。ブッシュベリー」


お喋りをしていたらあっという間に行きで見かけたブッシュベリーが成っていた辺りまで戻ってきていた。この調子なら予定通り暗くなるまでに大天使の元に帰れそうだな。


コレにも試したいことあったんだけど、どうしよう。もうこれ以上さっきみたいな大事故は起こしたくないから大人しくしておこうか……


「ナオ、やりたいことがあるんならなんでもやってみればいいにゃ。ナオが何をしたってロロは絶対ナオから離れないにゃ」


「ロロのいうとおりだぜ。そりゃ、ナオのとんでもない行動にはびっくりすることも多いけど、アタシたちの前で遠慮することないさ。あんまり常識外れなことしたらちゃんと止めてやるからさ、やってみたいことは全部やってみなよ。アタシたちは仲間なんだからな」


「ロロさん、シトリィさん、ありがとうございます。じゃ、ちょっとやってみますね!」


僕が何かを企んでいること、そしてさっきのことでそれを躊躇っていることを見抜いて、僕が馬鹿な事をしでかすかもしれないのもわかった上で後押ししてくださっている。その気持ちが嬉しくて、テンション上がっちゃうな。なら馬鹿な事するの止めろって話ではあるんだけど、思いついちゃったんだからしょうがない。


上機嫌になった僕は鼻歌交じりにブッシュベリーを一つ摘む。そしてその摘んだ後の枝に目掛けて奇跡(チート)発動!


「あ、出来た」


僕の認識には『樹医さん』というお医者さんも存在している。直接お世話になったことは無いので具体的に何をして下さるのかはわかってないけど、樹木が掛かる伝染病だとか有害な虫だとかを退治してくださる存在というイメージだ。漫画で読んだ。

その樹医さんと言う存在を認識していること&部位欠損すら回復できるガバ設定チート(奇跡)を組み合わせれば多分出来ると思ったんだよね。


「やっぱり、またまたとんでもないことしでかしたにゃ……」


「やっていいって言ったら、本当に遠慮なくしでかしたな、ナオ」


「「……」」




「ミリアさん、この二つ、食べ比べてみてくれませんか」


すでにかなり呆れられている気配を感じるが、実験はまだここからだ。


「見るからに色艶というか、瑞々しさが違うな…… 頂こう」


ミリアさんは僕から受け取った二つの果実をマジマジと見比べたあと、一つずつお口に入れていく。僕も食べられたい。



「これ程の違いがあるのか…… ナオ君が再生させた方はほのかな酸味と豊かな甘みが共存していてとても美味しい。私はこんなに美味しいブッシュベリーは、いや、こんなに美味しい果実は今までに食べたことがないよ」


ミリアさんは甘くて美味しいものを食べたとはとても思えない怖いくらいに真剣な顔で感想を言って下さるけど、美味しかったんならもっと微笑んでいただいても良いんですよ?


ま、まぁ『再生させた部位』はどうやら『理想の状態』で再生するらしいことは確認できたね。じゃあ今度は…



「また摘みだしたぞ。ミーナへのお土産か?」


「よく見るにゃ。摘む時に指が光ってるにゃ。野イチゴ(ブッシュベリー)摘むのに奇跡起こしてるにゃ」


「「…… ……」」


摘む前に『理想の状態』にしたパターンと摘んでから実の部分を再生させたパターン。

そして最後に『実が成っている植物全体』を理想の状態に引き上げて実を再生させたパターンを試してみる。


「それぞれちょっとずつ違う方法で採取してみたんですけど、食べ比べてみて下さいませんか」


そう言いながら皆さんに3つの実を配りつつ、僕もそれぞれを試食してみる。

ゴブリンの耳と違って植物の実は、『他の動物に食べられて種を運ぶ』という役割を持つ一面もあるはずだから再生させても罪悪感が沸かないのが良いね。


植物全体を整えたヤツが僅かにだけどちょっと甘みが強くて美味しい気がするな。残りの二つは多分変わらないみたい。

つまり、『通常の植物』に成る『理想の実』と『理想の状態の植物』に成る『理想の実』には違いがあるんだ。なるほどね、些細な違いだけどこういう僅かな差が何かに活かされるときが来るかも知れない。覚えておこうっと。


「うめぇ…… 確かにめちゃくちゃ甘くてうめぇけど、いいのか、これ? なんか罰当たりなことしてる気が……」


「ロロたちはナオの持ってるチョコを散々食ってるにゃ。あれに比べればこれはロロ達の世界の植物なんだからまだマシにゃ」


「言われてみればそうかもなぁ。あれ、甘くて美味いからついつい一緒になって貰っちゃってるけど、そもそもなんなのかもわかんねぇもんな。野菜や果物じゃないし、勿論肉でもないだろうし」


「あ、チョコはカカオっていう果物の種が元々の原料になっているお菓子ですよ。どうやって種をチョコにしているのかは僕も知りませんけど」


よくカカオ豆っていうけど、実は豆じゃなくてカカオフルーツの種なんだよね、確か。

僕がうろ覚えの知識を披露するとお二人は興味深そうに聞いて下さった。

あと、どこかの神話なんかだとケツァルコアトルって蛇の神様が人間にもたらしたとか言われてるんだよね、カカオって。そんな豆知識を話したらおかしな誤解が洒落に生らないことになりそうだから言わないけど。


あ、そうだ。この『理想の実』、お召し上がりになるかな?


ふと思いついたので、ブッシュベリーをいくつか掌に乗せて上に掲げてみる。

すると柔らかな光に包まれてブッシュベリーは消えていった。

ふふふ、どうやら興味はあったのかな? 楽しんで貰えると良いけど。


ガサッ ガササッ


不意に近くで草むらが大きく揺れる音がした。


「え!? なに?」


慌てて僕が音のした方を確認するとビンスさんとハンナさんの二人が倒れている。


「流石に刺激が強すぎて気を失ったようだな…… まぁ、無理もないか。この二人は私たちが運ぶからこのまま少し眠らせてやってくれ。ナオ君は気にしなくて良い。ちゃんとあとで説明するから、ミーナのお土産を採るなら早く採って、村に戻ろう」


いきなり倒れてしまったお二人に慌てて駆け寄り治療をしようとしたけど、それより先にミリアさんに止められてしまった。

心配ではあるけど、ミリアさんが大丈夫だというのなら大丈夫なのかな? 治療はいつでも出来るし、ここはミリアさんの仰るとおりにしておこう。

ミーナさんも首を長くして待っている筈だし、お二人は村に戻って落ち着いてからしっかり治癒させてもらおうか。


それにしても、なんでいきなり倒れちゃったんだろう?

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